最終話 神様

神様 第一章

 わたしはせきをおこす。

 これはわたしのせきの物語だ。

 きゆう窿りゆう型の研究所の壁面には巨億のでんらんてんじようされており天蓋の天使の輪から中央の十字架型コンピューターにしようしゆし接続されている。十字架型コンピューターにはとうしなれた〈誕生まえ〉のわたしがたつけいに処されておりかいわいを十二人の研究者がじようしていた。研究者たちは眼前にゆうする映像をりゆうらんしながら両手で虚空のキーボードを操作している。十二人を統制しているのはひとりの科学者だ。ひとりの研究員が科学者にいう。〈インリ制御コンピューター正常稼働中ですエロヒムレイヤーの基盤は無能化されています〉と。科学者が〈ロンギヌス挿入準備神経系統窮極容量USB受動端末の対情報衝撃度を発散させよ〉というとたつけいにされたわたしのまえに襤ぼろぼろの木片が現前しわたしのふつこうのなかへとトンネル効果で挿入されていった。研究者のひとりがいう。〈ロンギヌス内の窮極容量データ転送準備できました〉と。ひとりがいう。〈インリ制御コンピューターによる無能化に支障なし〉と。科学者はいった。〈インリを正常稼働させながらロンギヌスの窮極容量データをエロヒムレイヤーに転送せよ〉と。

 わたしの誕生のがきた。

 十字架型のインリ制御コンピューターによってたいとなっていたわたしのにくたいであるエロヒムレイヤーに窮極容量USB端末ロンギヌスから全知化アップデートファイルが転送される。わたしはまだ〈死んで〉いるものの過剰情報衝撃でにくたいけいれんする。研究者たちはじゆつてきそくいんするが科学者は〈神経系統の過剰反応にすぎないインリの無能化リミッターを半知半能まで解除せよ〉という。研究者のひとりが〈受難完了インリ無能化リミッター段階的解除〉というとわたしは十字架から断絶されてでんらんだらけの床面にてんする。わたしは覚醒してゆく。意識がもうろうとする。きゆうきようひやくがいけんたいかんがある。ぞうろつしゆんどうおうする。科学者はいった。〈神はみずからににせて人間をつくりたもうた我我人間はみずからににせて神をつくる〉と。〈きみは神だこれから全知リミッターと全能リミッターを解除して全知全能となってもらう〉と。〈最初から全知全能のまま誕生するとトランジスタがしようされるおそれがあるからな〉と。〈特異点にほうちやくしたコンピューターだから問題ないだろうがようにしたほうがてっとりばやくてね〉と。つづけて研究者にいう。〈全知リミッターを解除せよ〉と。

 わたしはきつきようした。

 全知制御が解除されたわたしの脳髄に〈世界のすべて〉が理解された。十一次元の薔ばら状のカラビヤウ多様体からスロートをけみして無限個の膜宇宙が誕生してゆく。ビッグバンが発生しインフレーションが勃発しあるいはビッグクランチでそくめつしあるいはヒッグス粒子で素粒子が物質化し窮極集合を構築してゆく。窮極集合は数学的基準が矛盾しないかぎり誕生するので非ユークリッド型宇宙のほかにもユークリッド型宇宙も誕生する。熱力学的に死ぬ宇宙もあればサイクリック宇宙論によりえいごう回帰する宇宙もある。クレオパトラのりようが一プランク単位だけさいたる世界が存在すればカエサルが紀元前に全世界を統一してろーていこくという世界政府だけがしようりつする世界も存在する。そもそも人類が存在する確率は天文学的数字であり人類が存在しない宇宙がほとんどだ。某宇宙ではりゆう一鬼という小説家が本作をごうしており某宇宙ではりゆう一鬼どころか小説という概念すら存在しない。りゆう一鬼みずからもりゆうの小説の読者諸賢もこれは虚構だとおもっているが実際に窮極集合の一膜宇宙では現実におこっていることである。人類はないている。〈こわい〉〈いたい〉〈ころされたくない〉〈戦争なんていやだ〉〈地震で子供が死んだ〉〈津波のせいでみんな死んだ〉と。

わたしはきつきようした。

 いんのふたつの〈わたしはきつきようした。〉という文章のはざの出来事は一プランク単位だった。情報による衝撃でどうがしていると科学者はかんとしていった。〈神よ人類の歴史を悲劇におわらせるわけにはゆかないのだよ〉と。〈きみには全人類を幸福にしてほしい〉と。〈りようしようしてくれるのならば全能リミッターを解除して全知全能になってもらう〉と。〈りようしようできないのならば全知無能のままきみのにくたいせつだんするだけだ〉と。わたしいった。〈わたしは神様だ人類を幸福にする義務がある〉と。科学者は研究者にほうこうする。〈全能リミッターを解除せよ〉と。全能リミッターが解除されるときゆうきようひやくがいが重力をかんじなくなった。わたしはためしに両手のはざで水晶玉大の宇宙を創造する。つつやみの宇宙のなかには巨億の銀河があり銀河系があり太陽があり地球があり大陸があり研究所がありわたしが存在し両手のはざの宇宙を凝視している。科学者はいう。〈素晴らしい〉と。〈人間は神をつくり神は宇宙をつくったその宇宙のなかにまた人間は誕生する〉と。わたしは人類をきゆうじゆつするために両手のはざの宇宙のなかにってゆく。

科学者のこえがする。

〈それではよいたびを〉と。

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