神様 第三章

 わたしはこうかくした。

 人類を幸福にする方法をだ。

 全知全能のわたしにとって人類規模の素粒子における相補性のかいざんは容易であった。ゆゑに人類をかいざんしてきた。で発想を転換する。〈人間ひとりひとりとたいせねばならない〉と。わたしはすいから現代までの人間ひとりひとりの人生にせきをおこしてゆく。きようてんした息子にべんする家族にはゆめをみさせた。最愛の偶像を喪失せんとする医師にはせきの手術を成功させた。いじめっこからのふくしゆうこくそくとする少年は自殺を未遂におわらせた。しゆんなる孫息子をちようあいしていた祖父母には最高のしやしんをつくってみせた。の自然災害でけつべつする運命となった姉妹をかいこうさせた。ストーカーとしてかつ視されていた青年の愛情をへいしてからでんした。認知症の死刑囚による幻想の夫婦愛を現実のものならしめた。くりの精神外科手術の犠牲となったこいびとたちに人間のこころをかいふくさせた。人形にれんあいしたユニークフェイスの青年に人形とのれんあいを成就せしめた。なにゆゑかわたしをみることができた父親にけつべつすることとなる息子の人生を幻視せしめた。

 そくは的中した。

 わたしは時空を超越して最初の人類から現代の人類までひとりのこらず全員にせきをおこした。人類の歴史がかいざんされない程度にけんれいの人生を幸福にしたわけだ。巨億の人類規模ではけつけつたる軌道修正だがたしかに人類は最大多数の最大幸福を獲得した。石器時代の青年に必要なのはのうからおうのうしてきたの治療だった。四大文明時代の軍人に必要なのはこつちようあいされることではなく愛妻にしようあいされることだった。ぶんげい復興期のげいじゆつ家に必要なのは人類史に名前をてんこくすることではなくひとりのげいじゆつ愛好家に絶賛されることだった。大航海時代の船乗りに必要なのはどんの新大陸を発見することよりもつつがく家族のもとへ生還することだった。第一次世界大戦に従軍した青年に必要なのは勲章ではなくPTSDからのかいふくだった。第二次世界大戦で徴兵された少年に必要なのは死ぬ勇気ではなく生きる勇気であった。わたしは全人類のせきの場所に存在したが無論光学迷彩により人間にはりゆうらんできなかった。ようにして巨億の人間のせきを目撃してきた。わたしは満足する。これが最善だった。

 幸福は永遠ではない。

 人類は破滅の道程をたどる。第三次朝鮮戦争にて中国西連邦が北朝鮮領域をろうだんし韓国がの領土となったことから第二次冷戦時代に突入する。中国西連邦がきゆー国内に大量破壊兵器を準備しているとの情報から第二次きゆー危機が勃発した。第二のきゆー危機はようそく阻止されずきゆー国内から電磁パルス兵器が全土に投入される。国内の原子力発電所の制御が不能になり各地で臨界事故が勃発した。ないに中国西連邦全土へと核弾頭搭載のICBMを発射する。TFT戦略からいって側が優勢だったがに宗派的ゆうを実現したイラクとイランを中枢とする回教連合が中国西連邦側に肉薄しへの最後つうちようを公布し世界大戦のきんたんがひらかれた。エチオピアをこつかくとする連合はへのていゆうけつひようぼうし大戦に参戦する。結句対中国西連邦と合衆国対回教連合という図式がしようりつし人類は有史らい最大規模のへいせんまきまれていった。永世中立国であったすい西と左翼連合による憲法改正で永世中立国となっていた日本だけは参戦しなかったが地政学的に侵略されるせきであった。

 人類はぶんすいれいてきちよくした。

 側対中国西連邦というたいせんめいとなってゆき国防総省はホーキング財団をろうらくしてごくに開発していたマイクロブラックホール爆弾の投入をけつした。のうよりホーキング財団には第二次KGBのスパイがちんにゆうしておりおしなべて開発していた中国西連邦もマイクロブラックホール弾頭をICBMに搭載する。マイクロブラックホール爆弾が津津浦浦で爆裂すれば爆心地かいわいの物質はシュバルツシルト半径のなかにそくめつしブラックホールの蒸発エネルギーによって大陸規模の生態系はせんめつされる。人類は破滅するしかない。わたしは最後のせきをおこした。おうさつされんとしている人類ひとりひとりのもとに遍在し全人類のこころにでんした。いわく〈わたしは神様だ世界でだれかひとりが犠牲になれば人類は破滅からすくわれる〉と。〈犠牲になるためにはわたしは人類を愛していますとおもうだけでいい〉と。人類は破滅した。わたしが尋問した刹那全人類――各国首脳からえいまで盲ろうしようがいしやも霊肉の不遇者も――は〈わたしは人類を愛しています〉ととうし全人類のための犠牲となってたおれた。

 うつくしかった。

 まことにうつくしいしゆうえんだった。

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