第5話

リッチオの後を追うと、そこは格納庫だった


中に入り、最初に目に入ったのは、一機の航空機だった


「良い機体だろ?」


これほど間近で航空機を見たのは初めてだった。それに、これほど大きいとは思いもしなかった


「こいつの名前は一式陸攻って言うんだ。まぁ、輸送機用に改造されてて爆弾槽は外されてるんだがな」


一式陸攻、名前は聞いた事がある。正式名称は一式陸上攻撃機で確か、第二次世界大戦で旧日本陸軍が運用した、双発の攻撃機だったはずだ


「輸送用に改造されててな、側面と上部の銃座が外され、追加装甲がされているんだ」


一時、そういう兵器を調べるのにハマって、調べた事があるのだが、一式陸攻とはあまりに装甲が皆無過ぎたらしい

だから、一発当てれば火を吹くとか言う理由で、アメリカ軍からは"ワンショットライター"とか言う嬉しく無い呼び方をされていたらしい


「これで明日はお前を運ぶんだ」


中を覗かせてもらうと、意外にも狭かった。それに、積み荷を載せるため、更に狭くなるらしい


「まぁ、こいつは装甲がほぼ無いが、明日は直衛機が付いてくれるから大丈夫だろう」



ちなみに、直衛機とは何か?


簡単に言えば、護衛対象に随伴して敵から守る為の戦闘機の事だ


「それにしても、最強の零戦が直衛に付いてくれるんだよなぁ…」


零戦、正式名称は零式艦上戦闘機。一回ぐらいは名前を聞いた事あるだろう

第二次世界大戦で旧日本軍が運用した艦上戦闘機だ


大戦前半では、無敵とまで言われたその零戦だが、先ほど説明した一式陸攻と同じく装甲がほぼ無い


零戦は驚異的な運動能力に、強力な武装を装備したにも関わらず、軽量だった


ただ、極限まで軽くするが故に、装甲を犠牲にするしかなかったらしい


それに、零戦の後継機が現れるのが遅過ぎた為、零戦を改良しながら使い続けるしか無かった。結果的にアメリカ軍は零戦なんかよりも強力な戦闘機を前線に配備し、日本軍は劣勢に立たされるのであった



もしかして、ここでの敵はアメリカ軍なのか?


いや、あり得なくは無いが妹のシャロ曰く、戦っている相手は人間では無いと言っていた気がする



そこで、リッチオに聞いてみる事にした


「えーと、リッチオさん」


「なんだ?あと、さん付けで呼ば無くて良い」


「俺らが戦う相手って誰なんだ?」


「お前、それすら知らないのに魔導兵になったのか?…まぁ良い、俺らが戦っている相手は、バケモノだ」


意外な解答が返って来た


「バケモノ?」


「そうだ。奴らは人間でも無いし、自分自身の形を自由自在に変化させる事が出来る。奴らの兵器にはこちらの対戦車砲がほぼ効かないし、航空機に関しては桁違いの性能差がある」


つまり、バケモノ達は兵器の形に変身して、その兵器にはこちらの武器が通用しないって事か…


本当のバケモノだな…


「こっちに来てみろ。先日撃沈された輸送船に乗ってた船長がスケッチした敵艦だ」


その船長がどうなったかは聞かなくても分かる



リッチオの後に続いて、格納庫を出ると、そこには裸電球に照らされて、内火艇が陸揚げされていた


「輸送船には、陸戦隊用の重火器などの武器弾薬と、泊地に停泊している艦船に補給する為の燃料を満載していたんだ」


つまり、沈められた輸送船は泊地に向けて航行していたのか


「だが、敵艦を発見したと付近を飛んでた哨戒機から連絡があった直後に砲撃を喰らったらしい。その一撃で機関は停止、復旧する見込みも無かったようだ」


つまり、敵艦は輸送船から目視出来ない距離から砲撃をしたのか?


「浸水はなんとか止められたものの、傾斜が激しくて、いつ転覆してもおかしく無かったそうだ。だが、船長は全員を助ける為に救難信号を発信して、助けを待つ事にしたらしい」


輸送船には、内火艇などの救助ボートがいくつか備わってるらしいが、それだけでは輸送船に乗っている全員を助ける事は出来ない


だから、多少の危険を犯してでも全員を助ける道を選んだのだろう


「しばらくして、救難信号を傍受した掃海艇が救助にやって来てくれたらしい。だが、救助を始めると同時に、輸送船を攻撃したと思われる敵艦が姿を表した。敵艦の砲撃は正確で、みるみる内に船体が沈んでいったそうだ。止むを得ず、掃海艇は救助を中止して撤退した。残された十数名の船員は、内火艇を使って船を離れたが、船長だけは船と共に水底に沈んでいったと、生き残った船員が証言している」


そして、このスケッチした敵艦は、船長が船を離れる船員に託したとの事だった


ちなみに、そのスケッチされた敵艦には見覚えがあった




現代のイージス艦そっくりだったのだ


もし、このイージス艦が敵なら見えない目視出来ない距離からでも撃つ事が出来る


そう、イージス艦に搭載された対艦ミサイルならそれを可能にする



だが、一つ分からない事がある


現代の兵器があるのに、どうしてこの国は昔の兵器や武器を使っているのだろうか?


技術力の違いか?


いや、もしそうだとしたら、差があり過ぎる


だが、イージス艦をバケモノと言ってる事から、理解していないのだろう


なおさら分からなくなってしまった


しかし、敵が現代兵器だとしたら勝ち目はほぼ無い




そんな事を考えながら、次の日の早朝にリッチオが操縦桿を握る一式陸攻に乗せられて、基地から飛び立った

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【異世界で魔導兵として生活します】 艦本式 @kan_hon_siki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ