第48話 クリスマス前の火曜日



「それで結局、達也はどうするつもりなの?」

「どうするって……どないしてええか分からんから困っとるんやないか」

「希良梨ちゃんに告白すればええやん」

「そらそうなんやけど、2人めっちゃ仲ええから絶対振られると思わん?」

「ほな、夕菜ちゃんと付き合うたらええやん。好きや言うてもろとんねやろ?」

「そうやけど……ちょっとちゃうねんて。いや、そらええ子なんやで、ええ子なんやけどあのグイグイくる感じなんはやっぱり苦手なんよ」


 大学の帰り道、僕とまこっちゃんは達也に呼び止められて近くの喫茶店で愚痴なのか惚気なのかよく分からない話を聞かされている。


 彼女が欲しい欲しいと言っておきながら、贅沢なことを言っている達也にまこっちゃんが実に適当なアドバイスを送るのを僕はコーヒーを飲みつつ相槌をうつ。


「でも意外だね。達也ってどっちかって言うと夕菜ちゃんみたいな子がタイプだと思ってたよ」

「せやな。僕もそう思うとったで」


 てっきり僕はあのまますんなりとまとまると思っていたんだけど、そうでもないらしく。

 達也の好きなタイプは、控えめなお淑やかな子だそうだ。


 うん。意外だ。

 人は見かけによらないって言うけどホント。


「はぁ……皐月はまだしも誠にまでアドバイスされる様になるとは思わんかったわ」

「そら悪うござんしたなぁ。せやけど僕からしたらえらい贅沢な悩みやで、ほんまに」

「そうだね。僕もそう思うよ、うん」


 自分を好きだと言ってくれる子と自分が好きな子……か。

 達也はどうするんだろう?

 まこっちゃんとあーでもないこーでもないとワイワイと話す達也を見て僕はそう思った。




「へぇ〜じゃあ達也くんの好みってお淑やかな子なんだ?意外ね」

「でしょ?僕もてっきり派手目な子が好みだと思ってたから」

「見た目で損するタイプよね、達也くんて。でもやっぱり自分が好きな子と上手くいけばいいわよね」


 夕食の準備をしながら僕は鈴羽と今日の出来事について話していた。

 帰り道のスーパーでお肉が安売りされていたので夕食はビーフシチューだ。

 シチューだけだとちょっと味気ないから温野菜のサラダ辺りを付け合わせに作る。

 匂いにつられて鈴羽がキッチンにやってきて端に置いた椅子に座って料理をする僕を眺めている。


「ん?どうかした?」

「ううん、何でもないよ。私と皐月君は好き同士で良かったなぁって思って」

「うん、そうだね。僕もそう思うよ」


 僕を見つめて微笑む鈴羽は今日も綺麗で……ちょっと屈んでキスをして、ぎゅっと抱きしめる。

 クスッと笑い僕の背中に手を回して耳元で鈴羽が囁く。


「ふふっ、お鍋が吹いちゃうって」

「え?あはは、確かに」


 何かの漫画かで読んだことのある様なセリフを言ってもう一度キスをして鈴羽を抱きしめる。

 カタカタと鍋の蓋が音を立てているのを少しだけ気にしながら僕は鈴羽と中々離れれなかった。


 結果、若干ではあるけど焦げのついたビーフシチューになったけど、まぁ仕方ないよね。




 12月も半ばを過ぎてクリスマスが迫ってくると世間は心なしかそわそわした様な空気に包まれている。

 大学も冬休みに入り、僕もクリスマスまでバイトに精を出すことにしていたし鈴羽も昨年同様仕事が忙しいらしくクリスマスまでほとんど休みがないと言っていた。


 そうは言っても門崎会長さんが例によって気をきかせてくれてクリスマスは休みにしてくれている。

 ただ単に会長自身が遊びたいだけなのかもしれないが。



「今年のクリスマスはどうしようか?」

「去年は仕事だったから何となく慌ただしかったけど今年はお休みもらったし……」

「そう言えば去年はいつもの公園で待ち合わせをしたんだよね。早いなぁもう1年経ったんだね」

「ふふっ、去年もそんなこと言ってなかったかしら」

「あれ?そうだっけ?」


 夕食後、ソファに座って去年の今頃の事を話す。

 こうして鈴羽と一緒にまるで昔のことの様に話しているけど実際僕と鈴羽が出逢ってまだ2年ほどしか経っていない。

 僕の隣でそう言って楽しそうに笑う最愛の女性ひと


「それじゃあ皐月君、せっかくだし今年も待ち合わせしない?」

「え?でも鈴羽仕事お休みでしょ?」

「いいの、気分的なものよ、気分的な」

「あはは、じゃあそうしようかな。せっかくだしね」


 クリスマスイブの日、僕と鈴羽はいつもの公園で待ち合わせをすることにした。

 一緒に住んでいてお互いに休みなのにと、少し変な感じがしないでもないけど……それはそれできっと楽しいに違いない。



 こうして僕はクリスマスイブの朝、少し早めに家を出て喫茶店でお茶をし商店街を冷やかして周り夕方待ち合わせ場所の公園に向かった。

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