第47話 水曜日の鈴羽の実家では


 ここはとある閑静な住宅街。



「あなた!あなた!大変よ!あなた〜!」

「どうしたんだ?そんなに慌てて」

「ちょっと!ほら!テレビ!テレビ見て!」

「何をそんなに慌てて……内閣でも総辞職したの……か……は?鈴羽?」

「そうなのよ!鈴羽がね!テレビに出てるのよ!」

「落ち着け!落ち着くんだ!美鈴!よく見てみろ!他人の空似だって」

「でも、ほら、ここに九条鈴羽って書いてあるじゃない」


 九条鈴羽の実家。

 そして今テレビの前で慌てふためいているのが、鈴羽の母である美鈴と父の道隆だ。


「うちの娘は知らない間に芸能人になってたのか……」

「あなた!そんな訳ないでしょ!」

「ああ、そうか、なら他人の空似にしては似すぎて……おまけに名前も同じとは…….」

「あなた!!どう見ても鈴羽よ!あなたの娘の鈴羽!」

「ああ、そうだな……ん?この隣の人はもしかして皐月君のお母さんじゃないか?」

「え?あ、立花和って……あの立花和先生よね?」

「前に皐月君が言っていたから間違いない、彼の母親だ」


 間違いないどころかこの家に皐月が来た時にもテレビに映っていたし、そもそも道隆本人が以前調べたこともある。

 しかしそんなことは娘がテレビに出ていることに比べれば些細な事だった。


「『品格のススメ』といえば最近流行りのお茶や活花とかを査定するあれだよな?」

「ええ、もしかして鈴羽が華を活けるのかしら?」

「いや、見てみろ。鈴羽が座っているのはどう見ても査定する側だぞ」


 当の娘は錚々たる顔触れの中に混じり平然と──テレビ越しにはそう見える──座っている。

 実際には魂が抜けて真っ白に燃え尽きていたのだが、側からみればそれが儚げな印象を与え番組のスタッフの中でも見惚れる者が多かったとか。

 立花和を始めとした華道の名門の現宗家と一緒に座っているのだから、美鈴と道隆の混乱も仕方ない部分もある。


「あっ!美鈴!今度は皐月君が出て来たぞ!」

「まぁ!……皐月君ってやっぱり和服が似合うわよね。この子がうちの息子になるのよね」

「いや……美鈴?今大事なのはそこじゃないだろう?」

「え?あぁそうね!でも一体全体何なんでしょう?」

「本人に聞いてみるのが一番早いか!よしっ電話を……うん?出ないな」


 タイミングが悪いことにこの日は水曜日。

 水曜日の夜といえば鈴羽は確実に皐月とデートをしている。

 故に携帯の電源はOFFか切っている。

 当然、部屋に戻っても色々と大人の事情があるため翌朝まで同じ状態が続く。


「きっと生放送なのよ!」

「そんな訳ないだろう!落ち着け美鈴!」


 2人の混乱をよそに番組は進んでいきテレビ画面には結構な頻度で鈴羽が映る。

 その度に歓声を上げ、更に混乱する2人。


 鈴羽にしてもある意味急に拉致されてテレビに出さされたようなものだから両親に伝えるほど頭が回らなかったのだ。


「こうして見るとうちの娘は美鈴に似て綺麗だな」

「あらやだ!もうっあなたったら!」

「ほら見てみろ、この女優より遥かに綺麗だと思わないか?」

「そうね!流石は私の娘だわ!」

「これは本当に芸能界デビューもあり得るかも」

「そうなったら……少し楽しみね!」

「ああ!全くだ!」


 そうこうしているうちに番組は放送を終了する。


「美鈴……さっきの番組を……」

「大丈夫よ!あなた!ちゃんと録画しときましたから!」

「よし!流石は私の妻だ!」


 こうして2人は再度番組を見るのだった。

 2人が次に同じくらい驚くことになるのはこの数ヶ月後、とある雑誌が発売されたときになる。


 それはまた後日のお話。

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