第46話 惚気られる月曜日



 季節は冬になり外に出るにもコートが欠かせなくなったある日、僕は大学の食堂でまこっちゃんと昼ご飯を食べていた。


 正確には僕とまこっちゃんと真壁さんと、だ。

 達也は数日前から実家に呼び出されていない為、今日は不在だ。


「え〜まぁなんですわ、ええ天気ですなぁ」

「うん」

「…………」


 とまぁさっきからまこっちゃんはこんな調子で隣にいる真壁さんがずっと困っている。

 そもそも僕がお昼を食べているところに、2人が来たわけであって僕が誘ったんじゃないんだけど。


「はぁ……それでまこっちゃんは真壁さんと付き合うことになったんだね?」

「せ、せやねん!うん、そういうことやねん!」

「ええ天気ですなぁじゃないよ。真壁さんも困ってるでしょ?」

「う、すんまへん」

「あ、あの、私が無理を言ってついてきたんです!だからあの、えと……」


 ははは、何だろ?よく僕と鈴羽が惚気てるって言われるけどこんな感じなんだろうか?

 僕の前でもじもじしているまこっちゃんと赤くなってる真壁さんを見ていると、なんだか微笑ましくもあり初々しくもある。


「え〜ほいでや、そんなわけで僕、真壁ちゃんと付き合うことになってん。せやから皐月っちにはちゃんと報告しとかなあかんて……彼女が言うさかいに」

「あ、あの、私、誠さんとお付き合いさせて頂くことになりました!」

「あ、うん。えっと……おめでとう?」

「ありがとうございますっ!」


 これはこれで何だろう?

『娘さんを下さい!』って言われる父親な立ち位置?


「あの……私ずっと立花さんに憧れてたんです。高校の頃に図書館で初めてお話しさせて頂いて目指していた大学が同じだった事もすごく嬉しくて、だから私頑張って頑張って……」

「うん……」

「それで同じ大学に入れたんですけど、中々話しかける勇気がなくて……それで……やっと話せて、でも立花さんに彼女さんがいる事を聞いてショックで、えと、でも何て言うかショックはショックだったんですけど、その……好きとかそういう感じじゃなくて。あれっ?って思って……あの……」

「真壁ちゃんが言うとんのは、皐月っちがちょっと違う世界の人みたいに思うとったみたいで、わかりやすう言うたらテレビの中の芸能人みたいなもんやな」

「は、はい、それで誠さんに色々と相談に乗ってもらったんです」


 真壁さんは、今まで言えなかった事を話終えて深く息をついた。

 あまり話したことはなかったけど、多分そんなにおしゃべりなほうじゃないんだろう。

 その後、真壁さんに変わってまこっちゃんが話してくれた。


 以前会った後、まこっちゃんが真壁さんを教室まで送っていってその時に連絡先を交換……もとい、まこっちゃんが無理矢理渡したそうだ。

 真壁さんも色々と悩んだ結果、まこっちゃんに相談に乗ってもらうことにしてこうなったらしい。

 きっと真壁さんが僕に抱いていた感情は、僕がかつて鈴羽に抱いていたのと同じようなものだったんじゃないだろうか。


 僕もあの公園で見かける鈴羽に憧れのような感情を持っていた。

 もっとも僕の場合は途中でそれが恋なんだと気づいたんだけど。


「えと……だから私は立花さんに憧れて良かったです!ま、誠さんに……えと、で、出会えましたし」

「ま、真壁ちゃん……おおきに!おおきにな!」


 うん。惚気てるのを見せられる気分てのがよく分かった気がするよ。

 リョータと杏奈ちゃん達のは散々見てきたから何とも思わないけど、これは何と言っていいか……他所でやってくれって感じかな。


「ほいでや、こっからが肝心の話やねん」

「あ〜大体分かるよ。達也のことでしょ?」

「せやねん!一番の問題は達也っちやねん!達也っちに話したら絶対間違いなく拗ねよるねん!」

「うん。今の達也なら拗ねるね」

「せやろ?せやけど達也っちに何も言わへんわけにはいかへんやん?」

「そうだよね……達也も達也で今、あんなんだからね」


 僕は先日、達也とまこっちゃんとで話した内容を思い出してため息をついた。




 それは先週のこと。


「じゃあ達也は連絡先交換したんだ?」

「まぁそうなんやけど……」

「あれ?どうしたの?嬉しくないの?可愛い子だったじゃない?確か……夕菜さんだっけ?」

「何や?達也っちにも春が来たんかいな!そらめでたいことやん!」

「……ちゃうねん。ちょっとちゃうねん」


 そう言って達也は事の顛末を話し始めた。


 あの海に行った日、溺れた女の子を助けた達也は無事に意識を取り戻した希良梨さんと一緒に来ていたもう一人の子、夕菜さんにすごく感謝され、後日3人でご飯を食べに行ったそうだ。


 希良梨さんは名前がキラキラネームのわりに結構内気な感じの子で、逆に夕菜さんは活発でぐいぐいくるタイプだった。


 あの時の夕菜さんの達也を見る目は恋する女の子の目に見えたけど、正にその通りだったらしくご飯を食べている時もアピールがすごかったらしい。


 でも……達也はこんな感じだけど、ああいったぐいぐいくるタイプは苦手らしくどちらかというと控えめな希良梨さんが気になって仕方なかったそうで……何とか話そうとしても夕菜さんがぐいぐい来るおかげで全然話せず。


「ほんまに参ったんやて。俺あかんねんよ、ああいうちょっと肉食系的なんは」

「意外だね、達也もどっちかいえばそうだと思ってたよ」

「俺さ、どっちか言うたら、こう何ていうか……儚げな感じの子がええんやわ」

「希良梨さんがそんな感じだったの?」

「そうやねん。もうめっちゃ好みやねん、ほらこないだの……えっと何ちゃんやったっけ?」

「真壁さん?」

「そうそう、あんな感じの文学少女みたいな子がタイプやねん」


 あ、まこっちゃんが某知らぬ顔をしてる。


「でどないしたらええか悩んでんねんやわ。あの子ら幼馴染でめっちゃ仲ええらしくて……」

「希良梨さんは達也のことどう思ってるんだろ?」

「せやな、その希良梨ちゃんの気持ち次第やな」

「だから、それが分からへんねよ。全然喋れへんかったし」


 結局、達也もどうしていいのか分からずとりあえずはまた3人で会う約束をして別れたらしい。


 その後何にも進展がないまま達也は今、実家に帰っているわけだ。


 まこっちゃんが気にするのも仕方ないと思うけど、こればっかりはどうにも出来ないし素直に話すしかないと思う。

 絶対拗ねるとは思うけどね。


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