第45話 誕生日会の月曜日 その3



「しかしびっくりしたよなぁ」

「おう、テレビ点けたら皐月が映ってるんだからな」

「私達も驚いたわよ、先輩が出てるんだもん。ねぇ?梓ちゃん」

「そうですよ〜九条先輩が、死んだ目をして映ってるんですから〜」

「あのね……死んだ目は余計よ」

「あはは、でも確かに鈴羽はぐったりだったよね」


 誕生日会の食事が終わり、今はみんなでケーキを食べているところだ。

 会話の中心は僕と鈴羽で、先日のテレビ番組の話だ。


「僕だって急に母さんに言われて出ることになったんだし、鈴羽なんて……あれはもう拉致みたいなもんだよ」

「皐月の母親ってあの先生だよな?やっぱ厳しいのか?」

「厳しいとかじゃなくて、何て言うのか……冷たい?う〜ん、ちょっと違うかなぁ」

「いつもピリピリしてるわよね、お義母様は」

「「お義母様……」」

「な、何よ!べ、別にいいじゃない!」


 あのテレビの反響は僕が予想していたよりは遥かに大きく、かなり視聴率も良かったらしい。

 いつかの海で声をかけられた様に、大学でもたまに同じ様なことがある。


「ねぇ皐月君、こないだの雑誌も……」

「あ、どうだろう?鈴羽はちょっとやばいかもね」

「ううぅっ。調子に乗っちゃった……」


 まぁそれでもテレビみたいにはならないと思う。

 雑誌といっても、お茶とお華の雑誌だし購読者もそれほど多くはない、だろう……はずだ。


「何だ?他にも何かあるのか?」

「うん、実はね……」


 ヒソヒソ話をしていた僕と鈴羽に気づいたリョータが聞くから僕は先日の雑誌の取材の話をした。


「あ〜それダメなヤツだ、間違いない!」

「うんうん、先輩。それきっと表紙とかになるヤツですよ!」

「え?え?」

「あ〜あ、先輩もとうとう芸能界入りですか〜」

「え?」

「綺麗だったんだろ?九条さん。もし表紙になってたりしたら買うだろ?皐月」

「うん。買うね。十冊くらい」

「さ〜つ〜き〜くん!?」


 いや、だって買うでしょ?それ。

 撮った写真も見せてもらったけど、誰が見ても綺麗だと思う。間違いないっ!


「これは惚気てるのよね?」

「多分な」




 そんなこんながありながらも誕生日会はつつがなく終了を迎えることになった。

 鈴羽と杏奈ちゃんに梓ちゃんは明日は有給を取ったらしく今からまた飲み直す予定で、高山君夫妻はみちる先生が明日は学校だと言うことで今年は帰ることになったので下まで見送りに行く。


「じゃあな、リョータに皐月」

「うん。高山君またね、みちる先生も高山君のことよろしくお願いします」

「あはは、大丈夫よ。ね?あなた」

「お、おう」

「すっかり尻に敷かれてるな、知念は」

「うっせぇ!お前も似たようなもんだろうが!」

「ははは」


 階下まで2人を見送り僕とリョータも部屋に戻る。


「なぁ、皐月」

「ん?何?リョータ」

「ありがとな」

「気にしなくていいよ。友達だろ?」

「……そうだな。ああ、最高の友達だ!」


 玄関前でリョータとそんな会話をして僕らは……缶ビールが乱立するリビングへと戻っていった。

 鈴羽はそれ程お酒は強くないけれど楽しそうにしていたから良しとしよう。

 杏奈ちゃんと梓ちゃんは意外にもかなり飲むらしく、リョータが言うには現場の大工さんの宴会にもよく来て飲んでいるそうだ。


「ほらほら、そんなとこに突っ立ってないで!」

「はいはい」

「リョータ明日は?」

「親方に休みもらったからな。大丈夫だ」

「そっか」

「皐月く〜ん!」


 こうして誕生日の夜は僕とリョータ以外の3人が酔い潰れるまで続いた。

 断っておくけど、僕もリョータも飲んでないからね。

 飲酒は20歳になってから。だから。



 その夜、僕は久しぶりにリョータと2人でベランダでゆっくりと話をした。

 今の自分達のこと、これからのこと、お互いの大切な人のこと、他にも色んな話をした。

 高校入学当初からの友人で、3年間何だかんだ言いながらも一緒にいた悪友。

 楽しかった思い出も辛くて苦い経験も大半を一緒に共有してきた。

 もちろん喧嘩もしたし意見の食い違いも沢山あった。

 それでも今、僕達はこうして並んで同じ夜空を見上げている。


 この先大人になりどうなっていくのかは分からないけど、僕にとってはかけがえの無い友人だと改めて思った。



 翌日、鈴羽に杏奈ちゃん、梓ちゃんの3人は揃って二日酔いで昼過ぎまでベッドから出てくることはなかった。







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