第42話 閑話 木曜日の談話室より
「なぁなぁ見たか?お前!」
「ああ、見た見た!あれって絶対秘書課の九条さんだよな?」
「間違いないと思うぜ!テロップに九条鈴羽って出てたし!」
「九条さん……いつの間に芸能人になったんだ?」
ここは門崎商事の談話室。
集まっているのは、商品部や営業部の男性社員だ。
話題は先日放送されたとある番組。
『品格のススメ』
「着物姿の九条さんってたまんねぇよな!」
「うんうん、スーツもいいけどあれはあれでヤバイよな!」
「でもよ、何で九条さんがテレビに出てたんだ?何か知ってるか?」
首を傾げる男性社員達。
それはそうだろう、一部を除いては九条鈴羽と立花皐月の関係は知らないのだから。
「もしかしてモデルにスカウトされたとか?」
「あり得るな!あるぞ!いや寧ろあってほしい!」
「じゃあさ……グラビアとかにも載るのか?九条さんが……」
「おいっ!グラビアって!み、み、み、みみみ」
「落ち着けっ!落ち着くんだ!水、水!」
「ああ、すまん。ちょっと我を失いかけた」
門崎商事会長室、秘書課室長九条鈴羽。
入社以来、社内で密かに行われている女性社員の人気投票でダントツの一位を誇る会社の華。
その九条鈴羽が芸能界デビュー若しくはモデルとしてグラビアを飾るなんてことになった日には、大変な事になるだろう。
主に男性社員が。と一部女性社員も。
「でもさ、あの隣にいた人って華道の立花先生だよな?」
「ああ、あのちょっと怖そうな人だろ」
「いや、俺は全然いけるぞ」
「確かに綺麗な人だよな、うん」
「ちょっと九条さんに似てるか?」
「ああ〜そうかもな、何て言うか高嶺の花的な?」
「いやきっと普段あんな感じでもさ、こう、2人きりになると甘えたりするんだぜ?」
「ま、マジか……ゴクッ」
知らないとは時に残酷であり世の中には知らない事の方がいい場合も多々あるという見本である。
「グラビアかぁ……すると思うか?」
「どうだろうな?九条さんて芸能界とかには興味なさそうだけどな」
「そうだよな、あんだけ美形ならそもそも初めからそっちに行くよな」
「じゃあ何だったんだろうな?あの番組」
「あ!もしかしてウチの会社がスポンサーになってたりするんじゃねーか?会長そういうの好きそうじゃね?」
「そうか!そうかも!」
大正解。
スポンサーは門崎商事がメインで行っている。
門崎会長、社員に見透かされてますよ。
「ならよ、九条さんだけじゃなくて他の秘書課の子もありえるよな?夏木とか瀬尾とかさ」
「杏奈と梓か?」
「そう……って!おいっ!お前なんで名前を呼び捨てなんだよ!」
「え?だって俺大学の同期だし」
「何っ!聞いてないぞ!そんなこと!」
「言ってなかったか?あ〜でもあいつらはダメだと思うぞ」
「な、何でだよ?」
「2人共彼氏いるしな」
「いるの!?」
「結構長いらしいぞ、前に飲みに行った時に惚気られてまいったからな。おまけにどっちも年下みたいだぞ」
「……なんで俺は今年30になるんだ……18に戻りたい」
「でもよ、彼氏いてもグラビアはアリじゃないか?」
彼らは知らないのである、2人の恋人が同一人物でリアルハーレムを築いていることに。
もし彼らがそれを知ればそれはそれは血の涙を流したことだろう。
「九条さんに夏木に瀬尾の……グラビアか……」
「ヤバイ。ヤバすぎる!」
「100冊は買うな!」
大丈夫、出ないから。それ。
「そういやさ、九条さんて彼氏いるのか?営業の中嶋とかも撃墜されたんだろ?」
「どうだろうな?ここ最近丸くなったって言われてたけど、確かあれだろ?」
「そうそう、『男として見劣りするのよ』とかって言われたんだろ?アイツ」
「営業トップの若手だぜ?どんだけ高いんだよ?」
「俺は言われたいぞ!言われたい!」
「大事だから2回言ったのか?今」
「いんのかなぁ……彼氏」
「じゃあ何か?あの九条さんが彼氏の前だと優しくなったりするのか!?甘えたりするのか!?」
「「ゴクッ」」
「それじゃ……ご飯にする?お風呂にする?それとも……みたいなヤツか!」
「は、鼻血がっ!」
実際その通りです。
優しくどころじゃないです。
あ、ご飯は期待してはダメなやつです。
「よ、よし!落ち着け!いいか、落ち着いて一からもう一度考えるんだ!」
「お、おう、そうだな。うん」
「まず九条さんがテレビに出ていた、これは間違いない事実だ。次にグラビアだがこれはまだ情報が少なすぎて分からんから保留だ」
「うん、うん」
「スポンサーの件は調べてみればすぐに分かるだろうから昼休みが終わり次第調べてみよう」
「任せろ!」
「あとは秘書課の女子がグラビアだが……これは期待して待つしかないな!まずは九条さんがグラビアをするかどうかだっ!」
仕事もこれくらい真剣に取り組めばと思う。
こうして彼らの昼休みは終わり……この翌月に発売されたとある雑誌を見て驚愕するのはまた別の話。
今日も門崎商事は平和だった。
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