第43話 誕生日会の月曜日 その1



 何となくせわしなかった9月も終わり10月も半ばを過ぎた。

 リョータや高山君と誕生日会の計画をしてあっという間に当日がやってくる。

 昨年はプレゼントを買いに行くのに付き合ったりと色々あったが、今年はそれぞれに忙しかったのでそれはなかった。



 10月21日


 僕は講義が終わった昼から誕生日会の準備をしていた。

 鈴羽は仕事があるのでいつも通りの時間に出かけて、帰りは杏奈ちゃんと梓ちゃんと一緒に帰ってくるそうだ。


 リョータもリョータで仕事があるため、夜になるみたいだし高山夫妻はみちる先生の学校が終わってからになる。


 という訳で唯一学生である僕がこうして昨年同様に準備をしているわけだ。


 料理の下ごしらえは終わっているので、僕は今バースデーケーキを焼いている。

 元々料理が好きな僕はオーブンやレンジもちょっと大きめのを使っているので少々大きなホールケーキでも十分に焼くことができる。


 因みにメインになる料理は、以前に佐々さんに連れて行ってもらった料理屋さんで出された鴨のローストだ。

 あれから何度か佐々さんと話をしてレシピを送ってもらっていた。

 ……と言っても西方さんのオリジナルではなく佐々さんと僕が手を加えたレシピだ。

 と言うのも西方さんの料理店で出された鴨に使われていた八朔が手に入らなかったためだ。

 八朔の旬は主に2月から3月にかけてで、早いところでは10月下旬から11月頃に出回るところもあるらしいけどこの辺りではまだ見かけなかった。


 西方さんに尋ねてみると、西方さんは契約している農家さんから定期的に無理を言って仕入れているそうで丁度この時期にはないと聞かされた。


 晩御飯にそうそう鴨を使う訳にもいかないので、佐々さんに協力してもらい替わりになりそうな柑橘を探してみると案外すんなりといい感じのものが手に入った。


「ちょっと後味が違うんだけど、これはこれでいいかもね」


 下ごしらえをしてから試しに少しだけ作ってみたけど中々の出来栄えに僕は肯く。


 時刻はそろそろ6時になる。

 多分、リョータか鈴羽達のどちらかが来ると思うんだけど、と思っているとタイミングよくチャイムが鳴る。


「今開けるから上がってきてよ」

「おう、悪りぃな」


 一番最初に来たのはリョータだった。


「お疲れ様」

「皐月もな、毎度毎度有難とな」

「僕も好きでやってるから気にしなくていいよ、上がってよ」

「まだ誰も来てないのか?」

「うん、鈴羽と2人は仕事終わってからだし、高山君はみちる先生の都合次第でしょ?」

「そっか、あ、何か手伝うことあるか?」

「ううん、大体終わったしゆっくりしといてよ」


 リョータにソファを進めてコーヒーを出す。

 高校時代はよく一緒に遊んでいたけどこうして改めて思うと僕らも少しは成長したかなって思う。


「最近どうなの?忙しい?」

「うん、まぁそれなりだな。ここんとこ雨が多かったから中々捗らなくてなぁ、困ったもんだぜ」

「雨の日は全くダメなの?」

「そりゃあな、小雨くらいならやるときもあるけど基本的には無理だな。危ないしな」


 先月と今月は結構雨が多かった。

 リョータには悪いけど僕は雨の日は嫌いじゃないし、そのおかげで色々と出会いもあった。


 ピンポーン


「あ、誰か来たみたい」


 次に来たのは高山夫妻だった。


「お邪魔します」

「よう、遅くなってすまんな」

「全然大丈夫だよ、鈴羽も2人もまだだから」


 すっかり坊主頭が似合っている高山君と僕達の先生だったみちるさん。


「よう!久しぶり!」

「相変わらず季節感無視の真っ黒だな」

「うっせぇ、ハゲ」


 この2人はいつも仲がいい。一時期はみんな疎遠になったけどこうしてまた集まれるのは本当に嬉しく思う。


「みちる先生、お久しぶりです」

「久しぶり、立花くんに西尾くん」

「あ、高山夫人って呼んだほうがいいのか?なぁ知念」

「好きにしてくれ、あ、皐月。お茶ある?」

「はいはい、ちょっと待ってね」

「あなた、自分で動きなさいよ」

「え〜いいじゃんか、ここ皐月んちだし」


「「あなた!?」」


「な、なんだよ?」

「夫婦って感じだよね」

「ああ、夫婦って感じだ」

「おいっ!お前らな!」

「「あはははは」」


 去年は恋人同士で高山君はみちる先生から、ちーくんて呼ばれて揶揄われたけど今年はあなたに昇格していた。

 一頻りそれで笑いあったあと、僕とリョータは多分同じ事を考えたと思う。


 羨ましい。あなたって。


「早いものね、3人が卒業して一年になるのよね」

「それを言うなら先生が結婚して一年ですよ」

「そうだな、まさか知念が一番乗りとはなぁ、俺はてっきり皐月が一番だと思ってたんだけどな」

「ははは、僕はまだ学生だからね」

「2人には感謝してるのよ、この人の背中を押してくれて」

「僕らは何もしてないですよ、ねぅリョータ」

「そうですよ、褒めるなら知念を褒めてやってください。いいヤツですからね、コイツ」

「……何にも出ないぞ?」


 僕やリョータに変に褒められた高山君は真っ赤になっている。

 坊主頭になったから頭まで真っ赤だ。


 それから僕達は鈴羽達が帰ってくるまで高校時代の話に花を咲かせた。

 当然、去年と同じく高山君とみちる先生が付き合っていた話になり、バレていないと思っていたのは本人達だけだと今回も盛り上がった。

 今更思ってみてもよくあれでバレてないと思っていたものだ。


 僕達はまだしも学校側や同僚の先生方は本当に気付いていなかったんだろうかと疑問に思う。


 今度学校に行く機会があれば聞いてみよう。


 そうこうしていると、7時を過ぎたくらいに今日の主役である杏奈ちゃんと梓ちゃんを連れて鈴羽が帰って来た。


「おまたせ〜遅くなってごめんね」

「こんばんは〜リョータもう来てる?」

「お邪魔します〜」

「おかえり、お疲れ様」


 いつも通り玄関で鈴羽を出迎えて軽くキスをして……から気がついた。


「平常運転ですね……」

「会社とのギャップがすごいです〜」

「う、うるさいわね!ほら、上がって上がって」

「「はぁ〜い」」

「もう、全く」

「ははは、ついいつも通りにしちゃった」


 3人が到着してリビングは一気に賑やかになり華やかなになった。

 僕はとりあえず飲み物を出してからキッチンで料理を出す準備をする。


「手伝うよ?」

「うん、大丈夫。お昼の間に大体やっといたからね」

「そう?あ、この匂いって……」

「西方さんのところで食べたのが美味しくてね、作ってみたんだ」

「すごいね!全く同じ匂いじゃない?」

「佐々さんに協力してもらってアレンジはしたんだけどね。いい出来だと思うから期待しててよ」



「相変わらず先輩の新妻感が半端ないです〜」

「会社の男共があれ見たら卒倒するわね」

「なぁお前ら、本当の新婚さんが目の前にいるのわかってるか?」


「「あ!」」


「はぁ……いいんだぜ、うん。あのラブラブな空気は俺には出せないからな」

「あなたはそれでいいのよ」


 あっちもこっちも似たようなもので、僕達は苦笑しつつ料理を運び誕生日会を始めることにした。


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