第41話 日曜日のテレビ局にて



 是蔵さんの車に乗り連れてこられたのはテレビ局だった。

 先日の番組を放送しているテレビ局だ。

 地下の駐車場に車を停めるとすぐに局員さんと思われる人が駆け寄ってくる。


「立花皐月様と九条鈴羽様でしょうか?」

「はい」

「え、ええ」

「朝早くからありがとうございます!早速ですがこちらまでお越し願えますか?」


 是蔵さんにお礼を言って僕達はスタッフさんに連れられてテレビ局の中に入る。

 朝早くだけれど多くの人が行き交っていて、とても慌ただしくテレビなどで見るテレビ局の現場そのものだ。


 スタッフさんに案内されて2階にあるスタジオに入るとそこは先日の番組で使われていたセットがあった。

 普段はここで収録をしているのだろう。


「控室にご案内しますので、どうぞ」


 僕は『立花皐月様』と書かれた部屋に、鈴羽も同様の部屋に案内される。


「鈴羽、じゃあまた後でね」

「うん……別に皐月君と一緒でいいのに……」


 渋々と部屋に入っていく鈴羽を見送り僕は控室に入った。

 中は和室になっていて畳に机があり炬燵にみかんが置いてあり適度に暖房が効いている。

 これって炬燵に入ったら寝ちゃうパターンだよね。


 しばらく手持ち無沙汰で部屋の中をうろうろしていると先程のスタッフさんが呼びに来た。

 そこからは別室に連れて行かれてメイクさんに髪型を触られ微妙にメイクをされ……和服に着替えてスタジオへと。


「着せ替え人形か何かになった気分だなぁ」


 スタジオに入ると某なんとかの部屋みたいなセットになっていてそこで僕は取材を受けることになった。

 お相手は画面越しによく見るアナウンサーの女性だった。


「はじめまして、フリーアナウンサーの湊 千里みなと ちさとです。今日は宜しくお願いします」

「立花皐月です。こちらこそ、お願いします」

「……よかった」

「はい?」

「え、あ、すみません。あの、先日からインタビューをさせて頂いているんですが、皆さん何て言うか……その……個性的な方ばかりで」

「ああ〜確かにそうですね」


 あの面々のインタビューをしたのか……そりゃ大変だ。

 僕もそう面識があるわけじゃないし話くらいしか聞いてないけど、あの時の収録を見る限りみんな個性が強すぎる。

 ある意味芸人さんに通じるものがあるよね。


「それでは、まず……」


 最初の出だしが少し砕けた感じからだったので、インタビューは緊張せずに受けることが出来た。

 湊さんのテクニックだったのかもしれないけど、どうも素な気がした。


 流石に売れっ子のアナウンサーだけあって話術は上手くついつい言わなくてもいいことまで話してしまいそうになる。


「はい、じゃあここで一旦休憩にしましょうか」

「ふうっ、助かります」

「やっぱり緊張されます?」

「それはしますよ、だって普段テレビの中にいる人と目の前で話しているんですから」


 休憩を挟むことになりスタッフさんにコーヒーをもらい、湊さんとそんな話をする。


「そうなんですか?私からすれば立花さんだって別の世界のすごい人って感じなんですよ」

「僕はただの大学生ですよ?」

「そんなわけないじゃないですか!立花流の時期宗家ですよ?私も華道と茶道をしてましたから、ほんと雲の上の人なんですよ!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて!近いですから!」

「あ、す、すみません!つい……」


 スタジオの端にある休憩所で話していると、湊さんのテンションが上がってしまい身を乗り出して話し始めたのにはびっくりした。


 正直なところ湊さんは綺麗な人で、そう顔を近づけられるといくら僕でもドキッとしてしまう。


 それにしても華道と茶道をしてたのか……

 その道の人からすればそうなるんだろうか?僕には実感が湧かないけど。


「それに番組で立花先生にはお世話になってますし、お花をしてた時にチラッと見かけるくらいだった方と一緒に仕事が出来るなんてほんとに嬉しいんですよ」

「母がご迷惑をおかけしてます」

「そんな!とっても素晴らしい方ですよ!立花先生は!私もあんな女性になりたいです」


 キラキラした目で母を語る湊さん……いやいや、やめときましょうよ、憧れる対象じゃないですって。


「あっ!立花先生!……と」

「ん?」


 僕が休憩している時間にどうやら母さんのインタビューがあるみたいで、スタジオに母さんと予想通りちょっとぐったりした鈴羽が入ってきた。


 母さんは基本的にあまり派手な着物を好まない。

 今日も黒を基調にした落ち着いた色合いの着物を着ている。

 それに比べて鈴羽は赤や青が良く似合う。

 母さんもその辺りの事は当然分かっているから今日の鈴羽は赤を基調とした比較的派手目な着物だ。


「立花先生のお隣にいる方……確か九条さんでしたか?以前の収録にも来られてましたよね、立花先生縁の方なんですか?」

「え?ああ、まぁ、その……僕の恋人です」

「ええっ!?立花さんの!?」

「はぁ、まぁ」


 そりゃ驚くよね、うん。

 スタッフさんには僕と鈴羽の関係は伝えていないのだろう。

 母さんも鈴羽には隣に座っているだけでいいって言っていたし、いつかの為のお披露目的なものを兼ねているんだろう。



「立花先生っていつ見てもお綺麗ですよね」

「そうですか?息子からするとちょっと分からないですけど」

「いつもピシッとしてて凛とした雰囲気が素敵なんです」


 そこはピリッとしてて冷ややかな雰囲気だと思うんだけど。


「九条さんはモデルさんですか?」

「違いますよ、普通のOLです」

「え?うそ……ほんとに?」

「はい、僕と同じ一般人ですよ」

「……絶対スカウト来ますよ?」


 インタビューが終わり、今は母さんと鈴羽の写真撮影が行われている。

 母さんはもう慣れたものなのか、普段見せることのない"営業スマイル"で写真に収まっていた。


 ……ちょっと怖かった。


 続いて鈴羽は周りのスタッフさんが全員女性なためか、リラックスしてカメラに笑みを向けている。

 先日買った簪を着けて、真紅の蛇の目傘を持つ鈴羽。

 上手く乗せられて、あれこれとポーズをとっているし……あ、手を振ってるや。


 余裕が出来たのか僕に手を振るくらいだ。


「相思相愛なんですね?」

「はい、そこは自信ありますよ」

「いいなぁ〜私もそんな相手探さないと!」

「アナウンサーってモテるんじゃないんですか?」

「業界の人はもう懲り懲りですよ……」


 湊さんはそう言って苦笑いを浮かべる。

 これはあまり聞かない方がいいやつなんだろう。


「立花さん、ちょっといいですか?」

「え?あ、はい。何でしょう?」

「少しこちらにお願い出来ませんか?」


 スタッフさんに連れられて僕は何故か鈴羽の隣へ。


「え?何?鈴羽?」

「えへへ〜せっかくだし皐月君と一緒に撮りたいなぁってさっき話してたら、構いませんよって」

「……随分と余裕が出来たんだね、鈴羽」

「お義母様が隣にいませんから」

「ははは、なるほど」


 母さんは撮影が終わるとさっさとどこかに行ってしまったようでここにはいない。


 そういう訳で僕は鈴羽と一緒に撮影することになった。

 後で一枚貰っておこう、うん。絶対に。



 その後インタビューの続きを受け、雑誌に載せる為に華を活けて、この日は無事に終了した。

 帰りは是蔵さんが家まで送ってくれたけど、当然母さんの姿はなかった。

 わざわざ呼んでおいて、今日一言も会話をしてないってどうなんだろう?

 マイペースというのには無理がある我が母である。


「ありがとうございました、是蔵さん」

「いつもご苦労様です」

「いえいえ、それではお身体に気をつけて。失礼致します」


 是蔵さんを少し見習ってほしいと思うよ、母さん。



「今日は余裕だったんじゃない?鈴羽」

「うん、こないだよりは全然大丈夫だったよ。お義母様もずっと一緒じゃなかったし」

「あははは、そこは大事だよね」

「あのプレッシャーが……ね」

「うんうん、分かるよ」


 部屋に帰り、2人でお風呂に浸かりながら今日の話をする。

 中々体験することの出来ないある意味有意義な時間だったように思える。


「今日の写真はまた今度届けてくれるってスタッフさんが言ってたよ」

「そっかぁ。えへへっ楽しみだなぁ」


 ちゃぽんと僕に身体を預けて微笑みを浮かべる鈴羽は今日の撮影で使ったのか、いつもと違う香水の香りがする。


 今日も長風呂になる予感がした僕だった。

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