第39話 友人達との水曜日


 リョータや高山君と誕生日会をしようと鈴羽と話してから1週間後、僕達は久しぶりに集まっていた。



「久しぶり!」

「おう!皐月にリョータ!久しぶり!」


 卒業してからリョータとはたまに会っていたけど、こうして高山君に会うのは久しぶりだった。


「……ハゲ?」

「ツルツルだね」

「しゃーねーだろ?言っとくが俺、坊さんだからな」

「こんなガラの悪い坊さん嫌だよな」

「ははは、確かにガラは良くないよね」


 高校時代の男友達3人で集まれば何だか昔に戻ったような気分になる。

 僕達は近くの喫茶店でお互いの近状を話すことにした。


「俺は見ての通り坊さんをやってる。って言うか夏祭りお前らどっちも来なかっただろ!」

「あ〜、僕は実家に帰ってたから……うん、ごめん」

「すまん、俺も仕事が忙しくて祭りどころじゃなかったんだ」

「年々参加者が減ってきてるからな、来年はちょっとでもいいから手伝いに来てくれよな」

「うん」

「それで知念は結婚したんだよな?みちる先生と」

「ああ、卒業してすぐにな」


 高山君の彼女……奥さんになったのは僕達が高校の頃の教育実習の先生で高遠みちるさんだ。

 色々と問題もあったみたいだけど最終的に落ち着くところに落ち着いて良かったと思う。


「小学校の先生してるんだっけ?」

「おう、結構大変みたいでさ、毎日ひいひい言ってる」

「学校の先生ってキツイらしいもんね」

「そういう皐月はどうなんだ?あの綺麗な人と」

「僕?僕はあまり変わりはないかな、今一緒に住んでるくらいだね」

「結婚はしないのか?誰も反対しないだろ?皐月んとこならさ」

「結婚は大学出てからかな、僕の将来がちゃんと決まってからになるよ」

「結婚か……俺はどうするかなぁ」

「リョータはほら、えっとどこだっけ?一夫多妻制の国に移住すんだろ?」

「あのなぁ……いや、それもアリか?」


 高山君や僕と鈴羽はすんなりといきそうだけど、リョータのところはかなり難題だと思う。

 本人達がそれで良くても親としては許してはくれないだろう。


 2人と付き合い始めた頃、リョータはいつかどちらかを選ぶみたいな事を言っていたけど、今のリョータはそんな事は微塵も考えていない様に見えた。

 もしかしたら本当に海外に移住してしまうかもしれない。


「俺も一人前の大工になってからかな、まだまだ先だけどな」

「仕事は順調なの?僕の家を建ててくれるんだよね?」

「おう!任せとけ!その内にな!」


 もう冬がすぐそこまで来ているというのに、真っ黒に日焼けしたリョータ。

 毎日朝から晩まで仕事をして帰ったらあの2人の相手をしているのか……リアルハーレムも楽じゃないんだろうなぁ。


 高校時代を共に過ごした友人達がそれぞれ自分の道をしっかりと歩いていることを思えば、僕なんてまだまだだと実感する。

 方や家庭を持ち家業を継いだもの、方や自分の夢を目指して働きながらハーレム生活を送っているやつ……


 僕の本当にしたいことって一体何なんだろうか?

 そんな風に考えると、僕には2人が眩しく見えた。


 2人共この後まだ仕事や用事があるとのことで、その日はそこで別れまた連絡することになった。

 帰り道、僕は自分について思いを巡らせていた。


 家業を継ぐことに不満はない。

 中学や高校の時ならもしかしたら嫌だったかもしれない。

 けど今はそうは思わないようになった。

 母さんの背中を間近で見る機会があったことが大きかったのは言うまでもなく、色々な人と出会い自分に少しは自信が持てるようになったからかもしれない。


 喜多嶋さんや桂木さんを始めとした人達には大いに刺激と影響を受けている。

 佐々さんや西方さんにしてもそうだ。

 もちろん鈴羽にも。


「考えても仕方ないか」


 リョータや高山君に生き方がある様に僕にも僕の行き方がある。

 いま出来ることをやっていけば、いずれ何かの形になるだろう。

 僕はそう思い家へと帰った。



 その夜、僕は今日あったことや考えた事をベッドの中で鈴羽に話した。

 鈴羽は何も言わずに黙って僕の話を聞いてくれた。


「皐月君は皐月君でいいんじゃないかな?他の誰でもない皐月君なんだし、皐月君にしか出来ないこともあるでしょ?」

「僕にしか出来ないこと?」

「そっ、お義母様の跡を継ぐことよ。お義母様は古い式たりを壊して新しい事をしようとしてるんでしょ?じゃあ皐月君がそれをちゃんと継いでそれを新しい式たりにしないと」

「…………」


 鈴羽の言う通りだった。

 十八代続いた古い体制を母さんは今、壊して新しい体制を作ろうとしている。

 母さんだっていつかは引退することになるだろう。

 ……その後、新しい体制を維持していくのは……誰でもない僕の仕事だ。



「ありがとう。鈴羽」

「ふふっ。どういたしまして」


 鈴羽はそう言って僕の胸に頭を乗せて呟いた。


「私も一緒にね……」





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