第31話 月曜日の収録現場から その4


 第5位は水上初音さんで、得点は番組では公表されないことになっている。

 それはそうだろう、上位と下位の差が大きければ家の箔に傷がつく。


 次に作品が写されて宗家の皆さんがコメントをしている。


 確かに綺麗にまとまってはいるものの、これといった特徴のない無難な作品という感じだ。


 先程の長岡宗家の採点が低かったらしいが、これは個人の好みが多分に出たのだろう。


 続いて第4位と第6位。

 4位は崇さん、6位は危なそうな世紀末的な人、西倉文珠さんだった。


 うん、崇さんは相変わらずの安定感だ。

 まとまり過ぎず、かといって先鋭的でもなく基礎と応用のバランスが非常によくとれている、とは櫻井宗家の言葉だ。


「とりあえずは最下位にならなければ大丈夫かな?」


 今のを見ている限りだと最下位はないと思う。

 西倉さんの作品はなんて言って表現したらいいのか、何とも世紀末な作品だった……


「それでは……第3位と第7位の発表です!」


 続く3位は櫻井秋一郎さんで7位は八代流の勘九郎さん。

 勘九郎さんは元々僕と同じように家を継ぐつもりはなかったと聞いたことがある。

 確か不幸があって急遽家に戻ることになったそうだからこの結果も仕方ないと思う。


 櫻井さんはあからさまに不服そうだったが、流石にこの場で何か言うことは躊躇われたのか特にコメントはしなかった。

 その後の8位は雪弥くんだった。

 雪弥くんはまだ華を活け始めてから半年から一年くらいらしいが、各宗家の評価は概ね高かった。

 将来性を見込んでってことなんだろう。



「さぁ後は1位と2位を残すのみとなりました!いやぁどちらの方が優勝なんでしょうか?」

「それでは発表……の前にCMです」


 うん、この流れならそうだよね。テレビでよく見るやつだ。

 いいところでCMになって中々結果が出ないってあれだ。


「やっぱお前が残ったかぁ、大体予想通りだな」

「え?そうなの?」

「そりゃそうだろ、正月んときに和先生が認めてたんだから、今の宗家ならともかくとして2代目には負けないだろ?」

「そうなのかな……別に勝ち負けじゃないと思うんだけど」


 CM休憩になったので崇さんがそう話しかけてきた。

 鈴羽もこっちに来ようとしてたけど母さんに止められて石像の様に硬直している。

 ほんとに大丈夫かな?後でたくさん愚痴を聞いてあげないと。


 それはともかく、普段なら健康的な美しさを振りまいているんだけど、そんな具合だからどこか物憂げな顔に儚げな雰囲気が漂い──実際にはサカナの死んだ目をして緊張で震えてるだけなんだけど──会場の人達から熱い視線を向けられていた。


 それでも話しかけに行く人がいないのは、隣に母さんがいるからだ。

 常に張り詰めた空気感を発している母さんの隣にいる鈴羽に話しかけに行く勇気のある人なんてそうそういないと思う。

 そんなとこにいなきゃならない鈴羽はご愁傷様なんだけど。



 そして休憩が終わり収録が再開される。


「それでは発表です!第1位は……」


 引っ張るなぁ……


「……長谷川龍玄さんですっ!!」

「ぐふっ!ぐふふ!」


 まぁいいや、うん。全然いい。

 キャラ的に負けてるし。


 ぐふぐふ、むふむふ言いながら龍玄さんがインタビューを受けている、いるんだけど……

 大丈夫?あれ……ちょっとテレビ的にはどうかと思うんだけどゲストの方々は大爆笑してるからいいんだろうか?


 敢えてインタビュー内容は聞かなかったことにしとくけど、あはは!タレントの女の子が走って逃げてるよ。


「第2位の立花皐月さんにま一言伺ってみましょう!どうでしたか?」

「え?えっと……まぁ楽しかったです。はい」

「…………」

「…………え?」

「はい!ありがとうございました!」


 いや、だって何にも考えてなかったし!そんな気の利いたコメントなんて浮かばないよ!




 こうして長かった一日がようやく終わりを迎え……


「皐月く〜んっ!!」

「うわっ!鈴羽!」

「疲れたぁ〜!もう色々と!」

「あはは、お疲れ様」

「こんなに疲れたのって久しぶりよ!会社でも中々ないわ」


 会場を出たところで鈴羽がたまりかねて僕に抱きついてきたので、ついいつも通り抱きしめたんだけど……

 着物姿の鈴羽は、はっきり言って綺麗だ。それはもうほんとに綺麗で周りの目を集めてしまうくらいに。



「おい……あの美人さんは立花次期宗家の彼女か何かか?」

「いや、分からん。収録が終わったら声をかけてみるつもりだったんだが」

「あんなモデルいたか?お前知ってるか?」

「いや知らないな。モデルならスタッフが知ってるだろ?」

「業界の人間じゃないのか?和先生の隣にいたってことは立花縁の?」

「おいっ!とりあえず写真撮っとけ!あのツーショットは絵になる!」

「はいっ!」


 何やら僕達を見て周りの人ががやがやとしてる。

 自分の彼女が注目されるのは嫌じゃないけど、ちょっと独占欲みたいなのもあるわけで。

 さて、どうしようと思っていると丁度会場から崇さんが出てきた。


「おぅ!皐月!お疲れさん!それに九条さんも」

「崇さんもお疲れ様でした」

「崇さん、こんにちわ。お久しぶりですね」

「お、う、お、お久しぶりです、はい」

「崇さん……鈴羽は僕の」

「分かってる!分かってるが、こんな美人さんに面と向かって言われたらそりゃ、あれだろう!」

「ふふふっ」


 そんな話をして僕達は連れだって本家へと歩いていく。

 僕にべったりとくっついた鈴羽を崇さんが羨ましそうに見ていたのはいつも通りだった。


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