第29話 月曜日の収録現場から その2
「さあ!始まりました!『品格のススメ』司会は
「アシスタントのTVトーキョーアナウンサーの司みどりがお送り致します」
母さんが出演している番組の収録が始まり僕は崇さんと一緒に控室となっている離れに来ていた。
収録現場となっている稽古場をぐるりと囲んでいる竹林の中にある茶室のひとつで今回の出演者はそれぞれにあてがわれた同じような離れで待機している。
普段ならこの茶室にはテレビなんてものは置いていないのだけど、今日だけは簡易型のテレビが置いてあり収録の模様が見れるようになっている。
「はぁ……本当にやるの?これ?」
「仕方ないだろ?皐月、お前、和先生に無理ですなんて言えるか?」
「ははは、それこそ無理だよ」
「だろ?なら諦めることだな……」
画面の中では司会役のタレントさんが今日の番組内容の告知をしている。
内容的には各流派の若手が活花の腕前を競うというもので、その作品を各流派の現宗家が査定するということだった。
もちろんどれが誰の作品かは一切分からないようになっていてテーマについての事前告知も全くない。
うわっ!僕の紹介が……え?何これ?
『代々女性が継承してきた流派から初の男性宗家!その中性的なルックスと確かな技術は人気急上昇か!』
え〜っと、え?はい?
隣で崇さんがお腹を抱えて大爆笑している。
誰だよ!これ考えたのはっ!
ていうかいつの間に僕の写真撮ったわけ!?
おまけに微妙にカメラ目線で、確かにちょっと何というか……中性的といわれればあながち否定出来ないというか……これいつの写真だろ?
一通り出演者の紹介が終わると次は査定する側の紹介だった。
見たことのある顔ぶれがズラリと並んでいる。
うわぁ……よくこの面子を集めれたよなぁ。
僕が崇さんにそう言えば崇さんも深く頷いている。
犬猿の仲と言われている人達も一緒になってるし、笑顔がちょっと引きつっているのが画面越しでもわかる。
「くくくっ、水上の爺さんと長岡の婆さんが言い合いしてるぜ?ははは、これ放送出来るのか?」
「あそこは昔から仲が悪い事で有名だもんね」
「見てみろよ!うちのクソ親父が挟まれてアタフタしてるぞ!はははは!」
黒岩の現当主の忠勝老が2人に挟まれて汗だくだ。
この配置に何となく悪意を感じるのは僕だけだろうか?
「あれ?あの人は?」
「はははは!ん?ああ、あれは長岡婆さんの孫の
言い合いをする老人2人の後ろでそれを冷ややかに見ている女性。
画面越しでもどことなく冷たい雰囲気を感じるけど、物凄く綺麗なひとだ。
鈴羽の次にだけど。
次々と紹介される現宗家の方々、と真魚さんのようなお付きの人達。
「おっ!和先生だぞ!っておいっ!皐月!」
「ええっ!?母さんと……鈴羽!?」
番組の審査委員長を務める母さんの後ろには着物姿の鈴羽が魂の抜けた顔をして付いてきていた。
「鈴羽……大丈夫……じゃないよね?」
「真っ白に燃え尽きてる感じだな……あれ」
「……という事ですのでよろしいですか?」
「あ、え?あの……」
「よろしいですね?」
「は、はいっ!」
お義母様に連れてこられたのはお正月のときに使っていた大きな稽古場。
で、私は今お手伝いの人達に着物を着せられている真っ最中。
え?え?え〜っ!皐月く〜ん!何これ〜!
た〜す〜けてぇ〜!!
「ぐすっ……」
「うわぁ!お姉ちゃんとっても綺麗だよっ!」
「ははは、ありがと……緋莉ちゃん」
着付けが終わり控室になっている部屋で私は緋莉ちゃんとこのよく分からない状態の整理をしている。
ここは皐月君の実家で、今からテレビの収録で、私はお義母様と一緒に出なきゃならなくて……
さっきから見たことあるけど知らない人がいっぱい挨拶にくるし。
えと、あれ誰だっけ?俳優の……芸人さんの……
ごめんなさい……さっぱりわかんない。
「お姉ちゃん!ふぁいとだよっ!」
「う、うん。ありがと、緋莉ちゃん」
皐月君……助けてぇ〜!
「これも一種のお披露目なんだろうなぁ」
「多分ね。まさか公共の電波まで使ってやるとは想像してなかったけどね」
「それだけ皐月に期待してるってことだろ?」
「僕はいいんだけど、鈴羽がね……あ〜あ、大丈夫かな?」
「ご愁傷様としか言いようがねえわ」
そんな鈴羽を尻目に番組の収録は始まり、まずは芸能人の人達からいつもの査定が行われていく。
「おっ!こうやって見ると結構まともなもんだな」
「そうだね、あっ!この人なんか結構いい感じだと……」
「この辺りがちょっと甘いよな」
「あと1本なにか足りないって感じだよね」
「ここをこう……だろ?」
「でもそれだとこっちが空いちゃわない?あ、そうかここに活ければどう?」
僕と崇さんとで芸能人の人が活けている華をあれやこれやと評価して見ている。
流石は芸能を仕事にしている人達だけあって上手く纏っている作品が多い。
特に特待生というのになっている人のは僕が見てもかなりの腕前だと思う。
「バカ兄貴よりは確実に上手いよな」
「久志さん?ははは、そうだね。ところで久志さんはあれからどうしてるの?」
「アメリカに留学」
「留学?」
「ああ、留学って名の島流しだな。クソ親父があれで愛想を尽かしたみたいでな、二足三文で追い出したのさ」
まぁ仕方ないよね、どう考えても人格的にちょっと問題がありそうだったし自業自得だね。
「おっ、そろそろ俺達の出番みたいだぞ」
「……はぁ……」
「そんな顔するなって!九条さんにいいとこ見せるチャンスだろ!」
「それとこれとはまた別だって……」
「よしっ!俺も一丁気合い入れてやってやるか!」
そんなこんなで活花査定の収録が始まった。
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