第20話 のんびりとした月曜日



 我が家に戻ってきた翌日、僕はリビングのテーブルに置かれたおばあちゃんからのお土産を見ていた。

 それは淡い蒼色の器だった。

 あの部屋に飾ってあった蒼とはまた違う色合いだけど、見たことのないような美しい器だ。


「綺麗ね……」

「うん、ほんと……」


 当然、僕の隣には鈴羽がいて、ほぅっとため息をついている。

 素人目に見てもこれがちょっとやそっとで手に入れれるような代物ではないことくらい分かる。

 きっと母さんならすぐに誰の作なのか分かるだろう。


「って言うかこれどうする?」

「とりあえず飾っておく?」


 ものすごく場違いな感じがするけど、そう言って鈴羽がリビングのテレビの隣に飾る。

 あはは、めっちゃ浮いてるや。


 きっとおばあちゃんが亡き旦那さんを目指して焼いた器のひとつなのだろう。

 網戸にした窓から差し込む月明かりに照らされキラキラと輝く蒼は本当に美しかった。

 非常に違和感があったけど……


「皐月君は明日から学校だっけ?」

「ううん、木曜日からだね。明日は授業とってないし明後日は水曜日でおやすみだから。鈴羽は?」

「私も木曜日からよ、明日は有給とってるし……水曜日は定休だからね」

「そっか」


 ソファで僕の肩に頭をのせてリビングに入る風を受けて気持ち良さそうに目を閉じる鈴羽。

 この何とも言えない穏やかな時間。

 そうしてしばらく身を寄せ合っていると、お風呂が入りましたのアラームが鳴る。


「お風呂……入ろっか」

「うん」


 久しぶりの我が家のバスルーム。

 湯船に鈴羽と浸かりのんびりとした時間を堪能する。

 うふふ、えへへっと僕に抱きつく鈴羽を受け止めて例によってのぼせる寸前まで入っているのもすっかり日常になった気がする。


 ふらふらとした足取りの鈴羽をひょいと抱き抱えて寝室に行くのも、これまた日常。


「うふふ、皐月君〜大好き〜」

「あはは、僕も大好きだよ。鈴羽」

「ん、ふふっ」


 2人してベッドに倒れ込み、ぎゅうっとその細くしなやかな身体を抱きしめる。

 小さく漏れる吐息を唇で塞いで……僕と鈴羽の夜は更けていった。





「ふぁ……えっと何時かな?」


 翌朝、すっきり目覚めた僕は枕元の時計を見る。

 時刻は8時を少し回ったところ。

 普段なら僕は学校へ、鈴羽は会社に行くためにばたばたとしている時間だ。


 隣では鈴羽が可愛らしい寝息をたててまだ眠っている。

 出逢った頃より少しだけ髪を伸ばした鈴羽は今日も綺麗だ。

 端正に整った美貌がむにゃむにゃと何か寝言を言いつつ僕に抱きつく。

 ちゅっとその横顔にキスをして僕は起こさないようにそっとベッドを抜け出す。


 もうしばらくすれば起きてくるだろうから、その間に朝ごはんの用意をしておこう。


 一緒に暮らしだしてから鈴羽も料理をしようと試みてはいるものの……まぁ何事も得手不得手ってのはあるよね。

 何事も完璧な女性などいないという見本みたいなものだ。

 僕はコーヒーを挿れてソファの縁に腰掛けてそんな事を考えて頬を綻ばせた。



「お……はよ……」

「あ、起きた?おはよう、鈴羽」

「ふぁ……顔洗ってくる……ね」

「ふふっコーヒー挿れておくね」


 洗面所からぱしゃぱしゃと顔を洗う音に僕は声をかけてサイフォンに火を点ける。

 トーストに目玉焼き、サラダに……あと何かあったかな?

 ここ数日留守にしていたこともあり冷蔵庫の中がやや心許ない。

 今日は買い物に行かないと夕ご飯の材料もない感じだ。

 丁度マカロニがあったのでそれを茹でてサラダに入れマヨネーズで味を整える。

 カップスープをいれてリビングに運んで準備完了っと。


「ほんと……皐月君って料理上手よね」

「そうかな?一人暮らしが長かったからね。自然と出来るようになっただけだよ」

「私も……諦めが肝心よね」

「あはは、まぁそのうち上手くなると思うよ」


 朝食を終えてソファに身を任せて寛いでから、今日の予定を話し合う。

 特にどこか行きたいとこもお互いになかったので……そのままお昼までだらだらと過ごすことにした。


 そんな幸せな月曜日だった。


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