第21話 ようやく思い出した金曜日
「はぁ〜しかしまぁよろしいでんなぁ、皐月っちは」
「あはは、ありがとね。まこっちゃん」
「僕も彼女欲しいわぁ……」
「またえらい切実に言いよるな〜誠は」
「そらそうやで、達也っちはそら彼女がおったからわからへんねんて。よー考えてみいな?僕、基本的にモテる感じなんかせーへんやろ?あ、別に気ぃ使わんといてや、かまへんねん。せやけどな、お隣さんが皐月っちなんやで?あんなベッピンさんと一緒に住んでんねんで。そら彼女も欲しいなるやろ?」
「「…………」」
「うん?どないしたん?」
「いや、なんかえらい喋りよったなと思って……」
「えっと、なんか、ごめんなさい?」
大学の学食で僕はまこっちゃんと達也と三人で昼ごはんを食べていた。
丁度連休中に何をしていたかって話になりお互いの近況を聞いていたところで、まこっちゃんの彼女欲しい話が始まったわけで……
「あやまられると何か……まぁええわ。僕かてそのうちめっちゃ可愛い彼女作ったんねん」
「ははは、なら俺も何とかせなあかんなぁ」
「あ、あの……」
と僕達が笑っていると不意にか細い声が聞こえた。
気づけば僕らのテーブルの隣にひとりの女の子が立っていた。
ん?あれ?確かこの子って……
僕は以前に教室でこちらを見ていた女の子であることを思い出し……それよりも前に見たような気がするけど……
「お嬢さん、俺に何かご用でしょうか?」
「なんで達也っちやねん!僕やろか?」
「えっと、あの、その……お久しぶりです……立花さん」
「え?僕?」
「ええっ!皐月っちかいな!はぁ〜世の中理不尽やで……」
ため息をつき肩を落とすまこっちゃんは置いといて僕は改めて女の子を見る。
薄い栗色の髪のセミロングの可愛い子だ。
どこか落ち着かない感じで目を節目がちにして時折上目遣いで見るのがなんとも可愛く思う。
……けど。
「覚えてない……ですよね?」
「え?うーん、うん?もしかして……図書館の?」
「はいっ!良かったぁ!そうです!高校生の時に図書館でご一緒させていただいた真壁御園です!」
「何か雰囲気が違うから最初わからなかったよ、久しぶりだね」
「なんやなんや、皐月っちの知り合いかいな?」
「おいおい、皐月!鈴羽さんがいながらこんな可愛い子まで……くぅっ!うらやまけしからんぞ」
鈴羽の高校の後輩になるからって何となく覚えていてよかったよ。
「ここにいるってことは真壁さんも合格出来てたんだね」
「はいっ!あれから一生懸命勉強してギリギリ合格出来ました!」
「そっか、それならもっと早く声を掛けてくれたらよかったのに」
「いや、あの、それは……その、照れ臭いと言うか……えっと……」
「あかんで、皐月っち!レディにはレディの事情ってのがあんねんで?なぁ御園ちゃん」
「あ、は、はい。……御園ちゃん?」
「あ、自己紹介がまだやったねん、僕は那智 誠って言うねん。気軽にまこっちゃんって呼んでえや」
「こらっ!何抜け駆けしとんねん!俺は真砂 達也。達也でええで、御園ちゃん」
ははは、相変わらずブレないなぁ。この二人は。
まこっちゃんと達也のお陰か真壁さんも若干引きつった笑顔で僕達と学食を共にすることになった。
「へえ〜じゃあお二人は関西の方なんですね、ふふっ関西弁て何だか楽しいですね」
「せやろ?まぁ僕は生粋の関西人やけど達也はエセ関西人やけどな」
「なんでやねん!奈良も立派な関西やっちゅーねん」
「あはははは」
すっかりまこっちゃんと達也のペースに巻き込まれた真壁さんは楽しそうに笑っている。
図書館で会った時は眼鏡の真面目そうな女の子って印象だったけど、こうして大学生にもなれば随分と感じが変わるものなんだなぁ。
「ほいで、御園ちゃんはズバリ僕と達也っちのどっちが好みやろか?」
「……え?えっと?」
「そら俺やろ?見た目やったらそないに負けへん自信あるで」
「何言うとんねん?男はハートやで!ハート!なぁ皐月っち?」
「あのね、僕に振るのはやめてもらえる?」
「かあぁっ、流石嫁持ちは余裕やなぁ〜」
「……嫁?立花さんて……結婚してるんですか?」
「違うよ。ほらまこっちゃんが妙な事言うから」
「なんや、似たようなもんやろ?一緒に住んでんねんから」
「一緒に……住んで……る」
その後もわいわいとまこっちゃんと達也は盛り上がっていたけど真壁さんは何か真剣な表情で考えこんでいた。
昼休みが終わり僕と達也は同じ講義だったので連れだって教室に向かい、まこっちゃんと真壁さんも同じ講義らしく別棟へと向かっていった。
「めっちゃ可愛い子やったなぁ」
「そう?かな、高校生の時は眼鏡かけて髪も長かったから随分と変わったなって思うよ」
「なるほどな、皐月に会うために綺麗になったのに……当の相手にはもう将来を誓った相手がおる……泣かせるやないか」
「どうして僕が出てくるんだよ?」
「気付いてへんわけないやろ?皐月」
「そりゃまぁ……そうだけど。僕には鈴羽がいるからね」
達也の言っている意味はわかる。
僕だって決して鈍感な訳でもないし、真壁さんが時折僕に向ける視線を感じて何も思わなかったわけでもない。
だけど僕には鈴羽がいるから他の女の子から好意を向けられたところで受け止めてあげることは出来ないしする気もない。
どっかのハーレム野郎のリョータとは違うからね。
「やんわりと鈴羽さんの話を振ったんやけど大丈夫やったかな?」
「大丈夫だと思うよ、ありがとな。達也」
「ええって、気にすんなや。その傷心の隙をつこうなんて考えてへんから!」
「……達也……」
「…………冗談やん?」
真顔で言う達也にため息をつき僕は教室に入り席につく。
この時、僕も達也も想像していなかった。
達也の言った通り、その傷心を癒やしている友人が正にいたことを。
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