第11話 水曜日の水族館 その3


 3頭のイルカが綺麗に飛び跳ねて水面に落ちる。

 ザッパーン!!と水飛沫が飛び散る。


 わあぁ〜っ、きゃ〜っとあちこちで歓声が上がっている。

 僕と鈴羽は比較的上の方に座っていたので水飛沫は飛んで来なかったが……


「うわぁ〜い!びしょびしょ〜!」

「僕もや!」

 いやいや、ちょっと待って。

 緋莉は座っていたから仕方ないとして、まこっちゃんは明らかに浴びに行ってたんじゃないか?


「あかんねんて!こういうのは関西人として行かなあかんねん!」

 よく見れば数人浴びに行った人がいたみたいで仲良く肩を組んで爆笑しているし僕の席から見える飼育員さんも手を叩いて喜んでる。


「さあ〜次はイルカさんに輪投げをしてくれるお友達を募集するよ〜!」

「はい!はい!はい〜!!」

 緋莉がいの一番に手を上げる。

 それを見てあちこちで子供たちが一斉に手を上げ始める。

「はい、一番早かったお嬢ちゃんと……」

 何故かびしょ濡れのまこっちゃんとずぶ濡れ仲間たちも手を上げていたが……


「大きなお友達はごめんなさいね〜」

「やっぱあかんか……」

 そりゃダメだろう……

「あははは、ホント面白い人ね〜」

 隣では鈴羽が笑い転げているし。


「は〜い、じゃあ輪投げを手伝ってくれるお友達はこちらへどうぞ〜」

 係の人に連れられて緋莉や子供たちがプールの向こう側へと移動していく。

 説明によると輪投げをプールのどこに投げても水中からイルカが鼻でキャッチしてくれるらしい。


 飼育員さんが輪投げを渡して説明してから子供たちが順番に投げていく。

 ちなみに何故か緋莉は最後まで投げるつもりはないみたいだ。


 水中からイルカが飛び出して輪投げをキャッチして水面に落ちると例によって水飛沫が上がって歓声が上がる。


 そして……

「わあぁ〜!!」

 最前列で水飛沫を浴びにいく大きいお友達の方々。


「知らないふりをしとこう……」

「そ、そうね……」


「さぁ最後は一番最初に手を上げてくれたお嬢ちゃん、お願いします」

「は〜いっと、ほっ!」


「!!!!」

 飼育員さんも会場のお客さんも、えっ?て顔になる。

 それもそのはず緋莉は何故か輪投げを3つ同時に投げたのだから。


 でも、そこは流石イルカだけあってタイミングよく3頭が上手にキャッチしてくれた。


 わああぁぁ〜っと盛り上がる観客席。

 と、更にずぶ濡れになって盛り上がっている大きなお友達たち。


「何やってんだか……」

「……次行きましょう」

 僕と鈴羽は大盛り上がりの会場をそおっと後にした。




「いやぁ、今日はよ〜遊んだわ!おおきにな〜」

「おおきにな〜なの」

「遊び過ぎだと思うけど……」


 帰りの電車を降りてハイツまで歩く道中もホクホク顔のまこっちゃんと緋莉。


「また遊ぼうね〜まこっちゃん」

「いつでも言うてや、緋莉ちゃんとはええ友達になれたさかいに」

「うん!じゃあね!バイバイ!」

「おぅ、ほなな、バイバイ!」


 玄関先でハイタッチをして別れる2人。

 年は離れてるけどホントいい友達が出来たみたいだ。


「ただいま〜」

 リビングに入ってソファにゆっくり座って大きく息を吐く。ふうっ。

「ふふっお疲れ様」

「鈴羽もね」

「緋莉も楽しかった……あれ?」

 先程まで騒がしかった緋莉はソファにもたれて可愛い寝息を立てていた。

「ふふふ、遊びつかれちゃったのね」

「まぁあれだけはしゃいでたら疲れるよね」

 僕は緋莉を起こさないように気をつけて抱っこして寝室のベッドに寝かせにいく。


 リビングに戻って鈴羽と並んでソファに座りちょっと苦めのコーヒーを飲む。

「お腹空いてない?何か作ろうか?」

「うん、ちょっと何か食べたいかなぁ」

「じゃあ何か軽く作るよ」

 冷蔵庫を開けて何かないかなと考える。

 う〜ん、時間も時間だしあまり濃いのはちょっとなぁ。



「はい、鈴羽お待たせ」

「わぁいい匂い〜えっと?お豆腐?」

「うん、豆腐茶漬とサラダチキン」

「豆腐茶漬?」

「そっ、お茶漬けのご飯の代わりに固めの豆腐を使ってるんだよ。薬味は梅とワサビね、後はサラダチキンとチーズにクラッカー」

 胃もたれしそうなのはパスしたので夜だしヘルシーに作ってみた。


「う〜ん、美味しい」

「そう?良かったよ、おかわりあるからね」

「うん、ありがと」

 豆腐茶漬は思いのほか好評のようだ、今度豆腐づくしでもしてみようかな。


 夜食を食べてからいつものようにベランダでコーヒーを飲みながら2人の時間を過ごす。

 よくベランダに出るからといってデッキチェアを二脚買ってきたんだけど、鈴羽は僕の膝の上に座っているのでほとんどひとつは使っていない。


「明日はどこに行くの?」

「どこか行きたいところある?」

「皐月君とならどこでもいいんだけど……」

 僕の膝の上でそんな可愛いことを言って微笑む鈴羽。

「まぁ……起きた都合ってことで」

 軽くキスをして、リビングに戻って時計を見るともうすぐ日付が変わるくらいだった。


「そろそろ寝ようか?」

「うん」

 ベッドは緋莉を寝かしているからソファを倒してベッドにして寝ることにする。

「ちょっと狭いかな?」

「大丈夫よ、ひっついて寝るから」

 えへへっと抱きつく鈴羽を抱きしめて明かりを消す。


「大好きよ」

「うん、「知ってる」」

「ふふふっ、言うと思った」

 僕の胸に顔をうずめてそう言って笑う鈴羽。

 だって僕も大好きだからよくわかるんだけどなぁ……


 たくさん遊んだからか僕等はそのまますぐに眠りについた。



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