第10話 水曜日の水族館 その2



「思ったより空いてるね」

「普段よりは多いんでしょうけどね」


 水族館に到着してみると思ってたほどの人ではなかった。

 大型連休とはいえ平日なので仕事の人もいるだろうし、まだ午前中だということもありこれくらいなんだろう。

 今日は鈴羽のアルファではなく電車で来ている。

 緋莉が電車に乗りたがったので、たまにはとなった。

 普段から、緋莉には送り迎えがついているので電車に乗ることがほとんどなかったから楽しそうにまこっちゃんとはしゃいでいた。


「まずは何を見に行くかな?」

「クラゲ!」

「マンボウやな!」

「クラゲなのっ!」

「マンボウやがなっ!」

「……あのね?普通はイルカとかじゃないの?」


 緋莉はクラゲでまこっちゃんはマンボウって、ちょっとおかしくない?

「ねぇ?鈴羽は……もしかして鈴羽もクラゲかマンボウ?」

「え?いや、そんなことないけど〜クラゲは可愛いかなぁって……ははは」


 というわけで、やって来ましたクラゲ館。

 水槽の中を色々なクラゲが漂ってる。


 うん。漂ってるだけ。

 フワフワとユラユラと。

 水槽自体がライトアップされていたりするので綺麗なことは綺麗なんだけど。


「あれ?このクラゲ逆さまなの」

「ん?ああこれはサカサクラゲやな」

「あっ!こっちは青いよ!」

「ブルージェリーフィッシュやな、英語でジェリーフィッシュはクラゲって意味やで」

「おお〜、まこっちゃん詳しいの」

「当たり前やん、クラゲとマンボウはちょっと自信あるで」

「……なんでクラゲとマンボウなんだよ……」

 緋莉に手を引かれてまこっちゃんはあちこちの水槽の前で解説をしている。


「あらあら、どっちがお兄ちゃんかわからないわね」

「ははは、ホントにね」

 水槽の前で解説するまこっちゃんの周りには子供や大人も集まって話を聞いている。

 関西人独特のしゃべりが受けているみたいで変に盛り上がっていた。



「まこっちゃん!中々やるの!」

「せやろ?もうさっきので1日分喋ったで」

「ふふっ大人気だったじゃない」

「うん、まこっちゃん、水族館に就職すれば?」

「なんでやねん!僕、弁護士目指してるんやて」


 クラゲ館前のベンチに座り缶ジュースを飲みながら次にいくところを相談する。

「とりあえず最初から、ぐるっと見て回らない?」

「そうね、せっかく来たんだしそうしましょうか?」

「うん!わかった!行こっ!まこっちゃん」

「はいはい、ちょいと待ってんか、走ったら危ないで」

 元気よく駆け出していく緋莉をよっこらせと追いかけていくまこっちゃん。


「しかしえらく懐いたなぁ」

「誠くんって、子供受けしそうな感じだものね」

 ちょっとぽっちゃりで福顔、いつも何故か笑顔に見える顔つき。

「確かにそうだね」

 緋莉達が走って行ったほうへ僕と鈴羽も歩いていく。

 僕の腕に抱きついてはにかむ鈴羽。

「えへへ、デートよね?」

「うん。そうだね」

 これはこれでいいんじゃないかなと思いつつ2人が入っていった建物へと入っていった。


 正面から中に入ると前方一面の巨大な──端から端までどれくらいらあるかちょっとわからない──水槽があり多くの人で賑わっていた。


「この水槽は全長約25メートル。水量は1200トンもあるんやで〜」

「ほいでや、ここの目玉は〜どこにおるかな〜?おっ、おったおった。今こっちにきよるサメやねん、サメやけど名前はシロワニ言うねんけど、ワニとはちゃうねん」

 先程のクラゲ館と同様に何故かまこっちゃんが水槽の前で大勢のお客さん相手に解説をしている。

 そんなまこっちゃんの隣では緋莉が水槽に張り付いて嬉しそうに魚を眺めている。

「まこっちゃん……何しに来たんだろ?」

「楽しそうではあるわね」


 僕と鈴羽がそんなまこっちゃんを見ていると、ぞろぞろとお客さんを引き連れて次の展示場に移動していった。

 もちろん緋莉も一緒に。


「完全に僕等のことは忘れてるよね?あれ」

「……楽しそうだからいいんじゃない?」

 2人して肩をすくめてすっかり空いてしまった水槽をゆっくり眺める。


 この後、お昼からのイルカショーが始まるまでいく先々でまこっちゃんが解説しているのに出くわしたのは言うまでもない。


 お昼ご飯は僕がサンドイッチを作ってきたんだけど思った通り全く足りなかった。

「いや〜皐月っちはホンマ料理上手いなぁ。料理人になればええんちゃう?」

「ははは、僕が料理人になるならまこっちゃんは水族館に就職してよね」

「そら堪忍やで……お互いやらなあかんことがあるんやんな」

「そう言うことだね」

「でも、誠くんってほんとに詳しいわね」

「おおきに、言うても家の近くに水族館があったさかいにしょっちゅう行っとったら知らん間に覚えただけやで」

「まこっちゃんは結構やるの!」

「おっ、中々から結構に上がったやない。こら昼からも頑張らなあかんな」


 まこっちゃんはよくわからない気合いを入れてサンドイッチを口に放り込んでいく。

 結構、足りない分は売店でホットドッグや焼きそばなんかを買って補充しといた。


 今度このメンバーでどこかいくことがあれば、もっと作っておかないと。








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