第9話 水曜日の水族館
「お姉ちゃん!美味しいね〜!」
「うん、皐月君の作る晩御飯はいつ食べても美味しいよね」
「うん!お兄ちゃんも中々やるね」
「大きなお世話だよ」
リビングでは、鈴羽と緋莉が晩御飯の真っ最中。
今日は、煮込みハンバーグと温野菜にポタージュ、ご飯はサフランライスだ。
何となくヒンヤリしていたので、温かめの晩御飯にしてみた。
ちなみに鍋の都合上と2人暮らしのため、一度に作れるのは2人分まで。
という訳で、僕は自分の分は今から作る。
う〜ん、ちょっと味が薄かったかなぁ?
「ねぇ、鈴羽。ハンバーグちょっと味が薄かったかなぁ?」
「そう?美味しかったわよ。ね?緋莉ちゃん」
「うん、美味しかった。大儀であった」
「……どこで覚えてくるんだよ?」
「松◯健が言ってたの」
「あ〜、そう」
そう言えば緋莉って時代劇好きなんだっけ。
「はい、コーヒー。緋莉はオレンジジュース?」
「緋莉もコーヒーで」
「……コーヒーで?」
「……ごめんなさい。オレンジジュースで」
隣で鈴羽がクスクスと笑っている。
「お姉ちゃんもお兄ちゃんもよくそんな苦いの飲めるよね〜」
「緋莉ちゃんもその内に美味しく感じるようになるわよ」
「えぇ〜ホント〜?」
キッチンに戻った僕から見えるリビングの光景はホント、仲のいい姉妹か親子のようだ。
「どうかした?」
「ううん、何でもないよ」
小さく被りをふって僕は自分の晩御飯の支度を続けた。
当然ながらお風呂も2人で入りに行き寝るときも一緒。
すっかりお姉ちゃん子になった緋莉を眺めつつ僕は久しぶりに一人で寝ることになった。
翌朝、鈴羽の部屋のベッドで2人が仲良く寝ている間に僕は今日のお弁当の用意をする。と言ってもサンドイッチなのでそれ程手間も時間もかからない。
8時を回ったくらいに2人が起きてきたので軽く朝ごはんを用意する。
「ふあぁぁ〜おはよ〜お兄ちゃん」
「おはよ〜皐月く〜ん」
「はいはい、おはようさん。朝ごはん食べるでしょ?」
「「うん」」
「はい、じゃあその前に顔洗ってきてね」
「「はぁ〜い」」
ペタペタと洗面所に向かう鈴羽と緋莉。
やれやれ、お寝坊さんなところも一緒なんだなぁ。
9時過ぎくらいに家を出ることにして、今は2人の準備待ち。
女の子はお化粧に時間がかかるからね。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「昨日の漫才のお兄ちゃんはお隣さんなんだよね?」
「まこっちゃん?うん、そうだけど」
「よしっ!じゃあ漫才のお兄ちゃんも連れてこ!」
「え?って緋莉?」
言うだけ言って緋莉は玄関から飛び出していった。
「緋莉ちゃん、随分と誠くんが気に入ったのね」
「あいつ昔からお笑いと時代劇が好きだからなぁ」
玄関から顔を出して見てみると緋莉がまこっちゃんの部屋のチャイムを連打していた。
ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!
そしてダッシュで戻ってくる。
「おいっ!何で戻ってくるんだよ」
「ピンポンダッシュなの?」
「はいはい、どちらさんでっか〜」
玄関からボサボサ頭のまこっちゃんが顔を出してこちらを見つける。
「あんなぁ、ピンポンダッシュして見つかってもうたらただのピンポンやで?」
「ううっ、無念」
「どないしたん?こんな朝早くから?」
緋莉がてってってとまこっちゃんのところに走っていく。
「漫才のお兄ちゃん!遊びに行こうなの!」
「へ?」
「緋莉と水族館に行くの!」
「皐月っち?何の話なん?」
僕は苦笑しながらまこっちゃんに事情を説明する。
因みにこの間、鈴羽はお化粧の真っ最中だったりする。
「おっしゃ!2分待ってや!」
バタン!とドアが閉まりドタドタと何やらしている様子。
「皐月く〜ん、準備できたわよ〜」
「うん、ちょっと待ってね」
緋莉はまこっちゃんの部屋の前で待機中。
玄関まで出てきた鈴羽はバッチリ、メイクをして今日も綺麗だった。タイトなミニスカートにパーカーとラフな格好だけど、それも似合っている。
「うん、今日も綺麗だね」
「ふふっありがと。皐月君のために綺麗でいたいから」
玄関で、軽く唇を合わせて廊下に出るとちょうどまこっちゃんも出てきたところだった。
「ごめんね、朝早くから」
「かまへんかまへん、なあ緋莉ちゃん」
「かまへんかまへん、ね?まこっちゃん」
「……はぁ」
というわけで4人仲良く水族館に行くことになった。
あ……お弁当足りるかなぁ。
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