第8話 再会の火曜日
「お姉ちゃ〜ん!久しぶりなの〜!」
「緋莉ちゃん!久しぶり!元気だった?」
「うん!元気元気!絶好調だよっ!」
ハイツの下では、鈴羽に緋莉が勢いよく飛びついたところだ。
「あっ、お兄ちゃんも久しぶり。元気?」
「あのね、緋莉……ちょっと扱いが雑じゃない?」
「そう?」
はぁ、とため息をついて僕は緋莉を送ってきてくれた是蔵さんに向き直る。
「いつもすみません、是蔵さん」
「いえいえ、緋莉お嬢様をお送りする様に奥様から言われておりますので」
「母さんに?緋莉は母さんにちゃんと言ってから来たんだ?」
「いえ、奥様が多分休みになれば緋莉お嬢様は皐月様のところに行かれるのではないかと仰っておられましたので」
「……何でもお見通しなわけか」
いつもながら母さんには敵わないな。
鈴羽に抱きついて楽しそうな緋莉を眺めて僕は後で母さんに連絡しておこうと思った。
「ところで緋莉はいつまでこっちにいるんです?」
「はい、4日ほどだと伺っております」
「そうですか、じゃあまた是蔵さんの方に連絡をしますね」
「はい、かしこまりました」
背筋をピンと伸ばして優雅に一礼をして車に戻っていく是蔵さん。
「おじちゃん!ありがと〜!」
緋莉が、ぶんぶんと手を振ると是蔵さんも窓から顔を出して小さく手を振り返してくれる。
出来た人だよなぁ、ホント。
走り去っていく車を見送っていると聞き慣れた声が聞こえてきた。
「皐月っちて、ええとこのボンボンなん?」
振り返って見てみるとまこっちゃんが階段を降りてきて鈴羽にそう聞いていた。
「お兄ちゃん、だれ?」
緋莉が不思議そうな顔してまこっちゃんを見上げている。
「お兄ちゃんは、皐月っちのお友達やで。えっと、お嬢さんは九条さんの妹さん?」
「ううん、お姉ちゃんはお兄ちゃんの彼女さんなの。緋莉はお兄ちゃんの妹なの」
「緋莉ちゃんって言うんやなぁ……ってちょい待ちいやっ!」
あれが、ひとりツッコミってやつだね。
「ちょい皐月っち!」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあらへんやん!彼女は別嬪さん!妹は美少女!ってどないなことやねん」
「……知らないよ」
僕とまこっちゃんが話しているのを見て緋莉が爆笑している。
「あははは、お兄ちゃんはマンザイの人なの?」
「なんでやねん、普通の人やがな」
「わはははは〜なんでやねんって言ってる〜」
どうやらまこっちゃんの関西弁が緋莉のツボに入ったみたいだ。
「なぁ皐月っち、僕そんなおかしな事言うてる?」
「あはははは〜」
「いいや、いつも通りだよ。ねぇ鈴羽」
「うん、いつも通りよね」
「あはははは〜」
緋莉は壁を叩いて笑い転げていてしばらく収まりそうにない感じだ。
「ほいで九条さん、皐月っちはええとこのボンボンなん?」
「え?えっと……」
鈴羽が僕をちらっと見る。
「別にいいよ、大したことじゃないし」
「そう……かしら?」
「まこっちゃんはテレビとかよく見る?」
「めっちゃ見るで、お笑い番組とかそらも〜日曜日のお昼は絶対やな」
日曜日のお昼って……
「じゃあ立花
「立花 和?当たり前やん、あのちょっと怖そうな別嬪さんのお花の先生やろ?」
「うん、僕の母さん」
「…………は?」
「うん、だから僕の母さん」
「ホンマに?」
「うん」
「え〜っと、彼女が別嬪さん、妹が美少女、オカンが芸能人……って皐月っち!どないやねん!」
「あはははは〜どないやねん〜」
少し収まりかけてた緋莉がまた爆笑しだして振り出しに戻る。
結局、30分ほどハイツの下で話し込むことになった。
「ふ〜ん、皐月っちも大変やったんやなぁ」
「ホントにね、参ったよ」
「せやけどそのおかげで九条さんみたいな別嬪さんと一緒になれるんやろ?」
「まぁそうなるかな」
「ほな結果オーライやん、寧ろお釣り出るで」
一通り事情を話すとまこっちゃんも真剣に聞いてくれた。
「お兄ちゃんは大阪の人なの?」
「せやで、バリバリの大阪の人やで」
「大阪人……ホントにみんな芸人なんだね」
「いや、だから芸人ちゃうから」
もうまこっちゃん、芸人でいいんじゃないかな。
まこっちゃんは出かけるそうなのでハイツの下で別れて僕達は部屋へと戻る。
「おお〜っ!新婚さんのお家みたいなの!」
「ははは、一緒に暮らしてるからね」
「……新婚さん……ふふふ」
「お兄ちゃんをヨロシクなの!」
「え?ふふっ任せといて」
2人仲良く手を繋いでリビングに入っていくのを見て僕は、ちょっと将来のことを考えてしまった。
いつか子供が生まれたらこんな風になるんだろうなぁって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます