第4話 初登校の月曜日


「さて、そろそろ鈴羽も仕事に行く時間でしょ?」

「え?ホント、あっ!もうこんな時間だったのね」


 朝ごはんのトーストをコーヒーで流し込んで仕事に行く準備をする。


「今日は何時くらいになるの?」

「そんなに遅くならないと思うよ、講義を選択しに行くだけだし」

「そっか、じゃあ終わったらメールしてね」

「うん」


 玄関でいつものように鈴羽を軽く抱きしめてキスをして出かける。


 駐車場で鈴羽を見送って、駅に向かおうとすると聞き慣れた関西弁が聞こえてきた。


「皐月っち、おはようさん。学校行くなら一言言うてくれたらええのに」

「ははは、おはよう。まこっちゃん。ごめんごめん、鈴羽を見送ってたからさ」

「さよですか〜朝からご馳走さまです〜」

 まこっちゃんは丸い顔をくしゃっとして、わはははと笑い、僕と並んで駅へと向かう。


「しっかし、皐月っちは幸せもんやなぁ。あんな別嬪さんと日がな一日おれるんやさかいな」

「うん、そうだね。僕も思うよ」

「……なんや薮蛇みたいになってもうたな、僕」

 少しだけ、シュンとしたまこっちゃんを励まして電車に乗り大学方面に向かう。


「まこっちゃんは法学部だから一緒にはならないのかな?」

「選択する科目によって一緒になるんもあるんちゃうかな」

「そうなんだ?」

「僕もよー分からへんから、その辺は学校行ってみてからやな」

「まぁそれもそうだね」


 電車に揺られて30分くらいで最寄りの駅に着く。

 ここから歩いて15分くらいだから結構近いと思う。

 時間的には電車も車も然程変わらないようだ。


 校門の前や校内は学生達が楽しそうに話しながら行き交っている。

 高校とは違ってかなり自由だからそうなんだろうけど、ようやく大学生になったんだなぁと実感が湧いてきた。


「ほな、皐月っち。僕はあっちやからまた今度な」

「うん、じゃあまたね、まこっちゃん」

 学部が違うまこっちゃんと分かれて僕は自分の割り当てられた教室に行ってみることにした。


「え〜っと、ここか?」

「おっ!皐月!おはよう」

「やあ、おはよう。達也」

 ドアを開けて入ったすぐの椅子に達也が座っていて手を振って僕を呼んでる。

 初めて会ったときはスーツだったけど今日はジーンズにパーカーとラフなスタイルに栗色の長髪が似合っていてカッコいい。


「ふぅ、なんだか高校に入学したときを思い出すなぁ」

「そうだなぁ、俺は全然知らん土地の高校に行ったから友達もいなかったから結構大変やったわ」

「ああ〜僕もそうなんだ。周りは中学が一緒の子とかがいるからちょっとしたグループみたいなのが出来てたりするしね」

「そうそう、え?自分だれ?みたいな目で見られんのよな」

「あははは、そうそう、そんな感じだったよ」


 達也とそんなくだらない話をしていると職員の方が来て説明を始めた。

 周りのみんなもメモを取りながら話を聞いている。

 なるほど、受けたい講義を選択して時間割みたいなのを自分で作ればいいのか……

 話が終わったあと、それぞれが自分の学びたい科目を選択して登録しこの日はとりあえず終了となった。


 僕は、主に経済と会計学、統計学を選択した。卒業した後、父さんの力になれればと思うから。



 ……で、今はまこっちゃんと達也と3人で大学の食堂で昼ごはんを食べてるんだけど。

 まこっちゃんと達也は同じ関西出身ということもあり意気投合して大阪の話で盛り上がっている。


「マジか?部屋にビリケンさんがおるん?」

「そらそうやで、ビリケンさんは神さんやさかいな」

「くうぅ〜俺もビリケンさん欲しいわ」

「通販で売っとうで?」

「ホンマか?買わなあかんな……」

 僕はイマイチわからないから話に入れないんだけど2人とも仲良くなれて良かったよ。


「今日はこの後どないするん?」

「俺は特に何もないからなぁ。皐月は?」

「僕?僕は帰って晩御飯の支度をしようかと……」

「主夫?」

「ああ〜皐月っちはめっちゃ別嬪さんの彼女さんがいてはるねん」

「何?誠!そこ詳しく!」

 まこっちゃんが達也に鈴羽のことをあれやこれやと話始める。


「……マジかよ?そんな別嬪さんなんか?」

「達也っちもお会たらびっくりするで?ちょっとその辺にはおらんくらいの美人やからな」

「あはは、鈴羽に言ったら喜ぶね」

「何や……名前も美人ぽい名前やん」


 食堂で達也に根掘り葉掘り聞かれ機会があれば一度会わせることになってしまった。


「まぁ僕は部屋がいっこ隣やからしょっちゅう見かけとるけどな」

 何故だかまこっちゃんが勝ち誇ったように達也に自慢している。

「はぁ、ええなぁ。俺も早いとこ彼女作らな薔薇色の学生生活が出来へんわ」

「達也ならモテそうなのに、彼女いないんだね?」

 男の僕から見ても達也はかなりのイケメンで彼女くらいいそうに思ったんだけど。


「なんて言うかなぁ、俺って軽そうに見られるんよ。こっちは真剣に言うても冗談みたいにとられるんやわ」


「「わかる気がする」」


「お前らなぁ……」

 僕が最初に持った印象が夜の街にいそう、だったからね。

 本人には言わなかったけど僕はそれを思い出して密かに心の中で頷いていた。







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