第5話 水曜日はいつもの公園で
大学が本格的に始まり2週間が過ぎた。
僕は、講義の時間割を考えに考えた結果、水曜日と木曜日がほぼ講義のない日にした。
水曜日は鈴羽が早く帰ってくるし木曜日は休みの場合が多いからだ。
土日に休みの企業ではないから普通学校がない土日にゆっくりと、という訳にもいかないから僕が鈴羽に合わせた形だ。
幸いなことに僕の通う大藤大は、土曜日曜にも講義をしている少し風変わりな大学だ。そのおかげで平日の2日間を休みに近い形にしても問題なかった。
というわけで今日は水曜日、いつもの公園で鈴羽を待っているんだけど……
「なぁなぁ皐月、まだか?まだなんか?」
「達也っち、そないに急かさんでもすぐに来よるから」
「お、おう、そうか?いやぁなんか緊張するなぁ」
「あのね、達也。僕の彼女に会うのに緊張してどうするんだよ」
「いや、そう言ったってなぁ。美人に会うのは誰でも緊張するって」
「そやで皐月っち。僕もいまだに真っ直ぐによー見いひんで」
「はぁ……まぁもうすぐ来ると思うから」
帰る途中に達也に捕まり、どこからかまこっちゃんまでやってきてこうしてついてきたわけだ。
「おっ!あれか?」
「ちゃうちゃう、もっとこうピシッとした感じやで」
「あ、あれか?」
「あの人は近所のおばちゃんや、ボケはいらんねんて」
何やってんだろ?この2人は……
「あ、あの人は……いくらなんでもちゃうよな?」
「達也っち、正解やで……」
「は?マジで?」
「マジも大マジやて」
2人して漫才をしている間に、鈴羽がこちらへとやってくる。
「皐月君、おまたせ〜。あら?誠くんも一緒だったの?」
「おかえり、鈴羽。うん、まこっちゃんともう1人友達がね」
僕はそう言って達也を紹介する。
「ほら、入学式の時に仲良くなったっていった……」
「あ、あの、真砂 達也と言います。よ、よ、よろしくお願いします!」
「ふふふっ、私は九条鈴羽。皐月君から聞いてるわよ。よろしくね」
「は、はいっ!」
まこっちゃんにしろ、達也にしろ、人の彼女相手に緊張してどうするんだろ?
「いやぁしかしいつ見ても別嬪さんやなぁ」
「ふふふ、ありがと。誠くん」
「いや、ホンマやで、いつもながら皐月っちが羨ましいわ」
まこっちゃんがそう言っている間も達也は鈴羽を見たまま固まっている。
「達也?大丈夫か?」
まこっちゃんに頬をペチペチとされて達也は、ハッと我にかえる。
「マジでびっくりしたわ、誠から綺麗な人やとは聞いとったけど……」
「だから言うたやん、ホンマに別嬪さんやねんって」
「いや、それかて限度ってもんがあるやろ?」
「なんの限度やねん?」
2人してまた漫才が始まったのを見て鈴羽はクスクスと笑っている。
「楽しい友達が出来てよかったわね、皐月君」
「まぁそうだね」
この後、2人共ついてくるのかと思っていたんだけど遠慮したのか、2人して漫才をしながら帰っていった。
「本当に鈴羽を見に来ただけだったんだな……」
「ん?何言った?」
「あ、いいや、何でもないよ」
2人を見送った僕たちはいつものスーパーで買い物をして今は家で晩御飯の用意をしている。
スーパーのおばちゃん曰く今日は豚肉がオススメだとのことで今日は生姜焼きにした。
白米に生姜焼き、味噌汁に卵焼きと微妙にお昼ご飯ぽくなったけど良しとしておこう。
「日に日に皐月君の女子力が上がってるのは気のせいかしら」
「そりゃあ毎日作ってるからね」
「ううっ、どうして私って料理がダメなのよ〜」
「だって鈴羽、砂糖と塩を間違えるレベルだからね……」
「だって……どっちも真っ白なんだもん」
「そういう問題じゃないって……」
2人で暮らし始めてから、鈴羽は何度かチャレンジはしてみたんだけど壊滅的に料理が出来ないのが改めてわかった。
「それに鈴羽、味見しないでしょ?」
「え〜っ、だって出来上がってからでいいじゃない」
「いや……普通は途中で味を整えるものなんだよ」
「出来上がってからびっくりで……」
「違う意味でびっくりするからね」
「ううっ、グスッ」
というわけで朝昼晩と僕が作ることになった。
僕が元々料理が好きなこともあり全く苦にならないから何の問題もないんだけど、鈴羽的には何とかしたいと思っているみたいなんだ。
「今度、簡単なところから教えてあげるからね」
ぐすぐすと可愛く拗ねる鈴羽を撫でながら水曜日の夜は更けていく。
明日の木曜日は僕も鈴羽も休みなので少々夜更かしをしても差し支えない。
深夜、ベランダのデッキチェアに座って月夜の下で一緒にコーヒーを飲む。
鈴羽は僕の膝に抱きつくような格好で座っている。
春先だから夏はまだまだ遠く、夜のこの時間は僅かに冷んやりとしていて気持ちがいい。
「この向きのベランダが一番風が入りやすいみたいなんだ」
「そうなの?」
「うん、ここを借りた時に不動産屋さんが言ってたからね。だからこっち向きに建てたんだって」
夏はいい風が入り、冬の寒風は逆側を通っていく。
僕らは心地よい風を感じながらもうしばらく抱き合っていた。
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