むかしむかしある所に…2

 今出ているのが父さんの葬式だと今気づいた。

 そうか、父さんは皇さんを助けて死んでしまったのか。


 涙が出た。声は出ない。『あぁ。あぁ。』と嗚咽が漏れるだけだ。

 だけど全て納得した時。お坊さんの言葉を遮って赤ちゃんの様に声を上げながら泣いた。



 

 それからたくさんの人が俺と母さんの元に来た。父さんの人柄が成した人望だろう。

 それから皇さんとその両親がやって来た。


 すると皇さんは自分の親の言葉を遮って俺に抱きついてきた。

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、もう私延寿くんと一緒にいられないっ! ごめんなさいっ!」

 涙を我慢した鼻声でそれだけ言うと走り去って行った。


 その言葉だけが忘れられず、頭のどこかに残りながら葬式は終わった。



 葬式が終わると学校の日々に戻った。

 母さんは少し暗くなってしまったけれど、きっと元気になってくれる。


 俺もお父さんがいないのは寂しいけど、頑張ろうとそう思えた。

 だって、学校に行けば好きな人に会える。

 喋れはしないけど、友達と話している時の皇さんの笑顔は可愛くて勇気をくれた。

 

 一人ぼっちの小学校を終え校門前で皇さんを待つ。

 程なくして皇さんは1人で歩いてきた。


 いま思えば安易だった。いや、自分でも気づかないうちに周りに気を使う余裕が無くなっていただけかも知れないが。 

「皇さん、帰ろ?」


 よりにもよって校門前で俺はそんな事を口走っていた。

 すると皇さんは昨日の言葉通り俺を無視して走りだしてしまった。


 そんな事を驚く余裕も、悲しむ余裕もなく、近くにいた同学年の子供たちは大なり小なり声を上げて笑い出した。

 そしてやはり、ガキ大将は俺の気持ちなんて考えず言うのだ。

「|男女(おとこおんな)のお前なんかが皇さんと付き合えるわけねぇだよ! きもちわりぃ〜」


 周りの笑い声は一層大きくなり、俺は唇を噛んで家に向かって走り出すしか出来なかった。


 次の日から前まで無視だったそれは、いじめに変わった。

 悪口ばかり書かれた手紙が送られたり、筆箱を隠されたり、俺は触れた生物を性転換させる謎の菌に感染している設定が付け加えられていたり。

 いわゆる○○菌というやつだ。


 しかもいつの間にか噂に尾ひれがつき俺が皇さんのストーカーという事になっていた。

 それにより今まで男子のするこのなんて馬鹿ねと達観していた女子連中も皇さんへの同情かいじめに加担していた。


 当の皇さんも「延寿なんかにストーカーされて可哀想」何ていう、情報リテラシー皆無の馬鹿おんn____噂を信じて疑わない純粋な女の子の言葉を否定してくれていたが、何を言っても。「延寿君まで庇うなんて皇さん優しすぎ!」の一言で会話は終わっていた。


 そして遂に学校が動き出した。流石にやばいと思ったのか、電話で母さんに事の|顛末(てんまつ)を説明したのだ。

 昔から名前の事で無視されていたこと。今も皇さんに振られたことでいじめられていること。先生が知っていた事は何から何まで全て。

 それを聞いた母さんは倒れ、うつ病で入院する事になった。

 母さんのお金のやりくりのおかげで幸い家にはたくさんの貯金があったから何とか生きていけた。


 そんな小学五年の冬から約三年後、遂に運命の日がきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋人賞 @sa-ku-ra

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ