第14話

 奇しくもこれを書いている4月7日は、鉄腕アトムの誕生日です。2003年生まれなので、2019年の今日は16歳になってるんですね。


「あれから30年」と言うと、綾小路きみまろのセリフになるけど、まさにあれから30年。当時21歳だった私も、51歳になりました。あの頃父親から言われて、ムカついたけど言い返せなかった言葉の数々を、自分の息子に向けて言う羽目になってます。なぜ子供は親の悪い所ばかり似るのだろうか。おそらく永遠の謎なのでしょう。


 平成初めの自分個人の話をしますと、大切にしていた人の繋がりを自分の不始末でぶち壊してしまいました。詳細は、申し訳ないですが差し控えさせていただきます。男にとっては勲章と思う人も多い内容ですが、同様に女性には傷であると考える方も多数いるわけでして、語る訳には参りません。


 とにかく、これはかなりこたえました。

 何かを読んでも、何かに気づいても、一緒に喜んでくれる人たちはもういない。彼らとの繋がりを自分で壊してしまったわけで、毎日が砂を噛むような思いでした。

 病気のために献血も臓器移植もできない。自分が生まれてきた意味を見つけられない。病気だけでなく、自分の弱さから他人に頼り傷つけ人間関係を壊してしまう。

 もう、傷つくのも傷つけるのも御免だ。

 しかし、何とかしたくても何もできない。どうせ身体が弱いんだし……。


「彼自身、長いことそう思ってきた。生まれてくるべきではなかった、と。それが、どうせ生まれてきたなら可能なかぎり、というように変化したのはいつのころからであったろうか。」

(「銀河英雄伝説 風雲篇」より)


 最初の入院が1988年(昭和63年)の11月半ばから12月末までで、この間に少年サンデーで「拳児」が始まります。面白くて夢中になって読みました。そして大学1年生になった翌年の夏の入院中、病室に大量に持ち込んで読みまくっていた本がC・W・ニコルのエッセイでした。そこに出てくるセンセイ・カナザワと「拳児」の高山双八がイコールだと、しばらくして気づいたのですが、驚きましたね。

 自分を変えたい私がすがる思いで入門する先は、必然的にセンセイ・カナザワの国際松濤館になりました。担当医からの許可が出るまでに最後の退院から1年以上かかりましたが。


 私より前の世代だと梶原一騎の影響から空手やボクシングなどを始めた人が多いわけですし、ドカベン読んで野球始めた人も山のようにいます。キャプテン翼からサッカー始めた少年は世界中にいたりします。「ヒカルの碁」も「刀剣乱舞」も、読む側から一歩踏み出す人を大量に生み出しました。「風の谷のナウシカ」を観て、実際に人が乗れて空を飛べるメーヴェを作った人までいます。


 マンガやアニメの影響で、なりたい自分、作りたいモノ、調べたい事象に目覚め、自分の足で一歩を踏み出す人は数多くいます。

 これは、多感な少年少女に向けた作品を大量に生産する土壌があればこそ起きた現象です。

 神様の影響で動き出した人たちは、何もASIMOの開発者だけではないのです。


 神様の死から始まった平成時代のマンガ・アニメ業界は冬の時代でした。マイ・アニメもジ・アニメもアニメックもOUTも無くなってしまいました。しかも角川まで分裂を開始してしまう。「火の鳥」を連載した雑誌は潰れるというジンクスが「野性時代」にも当てはまったのですから恐ろしい。(現在は新創刊されてます)


 羅針盤も星の導きもない状況から航海に出ることになった平成のマンガ・アニメの業界は、エヴァンゲリオンの大ヒットと共に春を迎えます。神様の子供たちは、しぶとく冬を耐え、力を蓄えて逞しく成長していったのです。それは2兆円産業にまで発展し、政府が分け前欲しさにクチバシを突っ込んでくるほどにです。


 確かに神様はもういません。神様の肉体は、この世界に存在していません。

いないのだけど、神様のスピリッツは世界に拡散し、全てのクリエイターの中に、業界の仕組みの中に、あまねく存在しています。

 およそ現在活動しているクリエイターで、神様の因子を受け継いでいない者は存在していないでしょう。それは、我々のようなアマチュアのクリエイターに至るまで、まさにあまねく広く因子として存在しています。

 まさに神様は神様となったのです。

「火の鳥 未来編」の山之辺マサトのように。

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神様のいない30年 皆中きつね @kit_tsune

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