第12話

 今の若い人に、手塚治虫が亡くなったインパクトを伝えるのは難しい。

 何十年も現役で活躍していて、業界を牽引している立場で、亡くなる直前まで作品が連載中だった人が、ある日突然この世からいなくなったのだ。


 同じ1989年(昭和64年・平成元年)には、数多くの著名人がこの世を去り、否応無く「昭和の終わり」を実感した。当時21歳の自分には、天皇崩御では昭和の終わりは実感できず、その後に手塚治虫を筆頭として松下幸之助、つかせのりこ(声優「できるかな」のナレーションでも知られる)、美空ひばり、隆慶一郎、松田優作、開高健、そして12月には「のらくろ」の田川水泡までお亡くなりに。

 この中でも手塚治虫の死のインパクトは群を抜いている。戦後にマンガという市場を開拓し、トキワ荘のメンバーやをはじめ、マンガやアニメの世界で数多くの一流クリエイターを生み育て、マンガやアニメを現在のような巨大マーケットへと導いた存在。

 デビューしてから休む事無く作品を生み出し続け、80年代半ばから後半には「アドルフに告ぐ」「陽だまりの樹」といった傑作を書き上げ、「60歳で亡くなった時には「グリンゴ」「ルードウィヒ・B」「ネオ・ファウスト」を連載中だった。(いずれも未完で絶筆)

 そんな巨大な存在が、ある日突然この世からいなくなったのだ。いつものように昇ってくると思っていた太陽が、予告なしに消えてしまったようなものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る