バーグさんアイドル化プロジェクト

結城藍人

バーグさんアイドル化プロジェクト

「は? わたしがアイドル……ですか?」


 バーグさんこと、カクヨムマスコットにして作者お手伝いAIである「リンドバーグ」は目を丸くして問い返した。


「そうだ。KADOKAWAアイドルプロジェクト、略称『KAP49』のカクヨム代表に、君が選ばれた」


 カクヨム編集部の幹部は重々しく答えた。


「KAPはわかりますけど、49って何です?」


「某国民的アイドルグループを上回ろうという意気込みを表した数字だ」


「1だけ多いというところが奥ゆかしいというかセコいというか……」


「さすが正直毒舌AIだな。容赦ない」


「そういうキャラですので。ですが、わたしは作者お手伝い用AIですよ。確かに目標は愛されるAIですけど、アイドル機能は搭載されていないんですけど」


「大丈夫だ。プラグインで追加できるようにアップデートをかける」


「それなら何とかできるかもしれませんが。でも、どうしてわたしなんですか?」


「じゃあトリがアイドルになれるというのか?」


「ある意味みんなのアイドルな気はしますが、今回の目的にそぐわないことは理解しています。ですが、カタリならアイドルもできるのではないでしょうか?」


「残念だが、カタリは男の子だからな。少年アイドルならできるだろうが、今回求められているのは女の子のアイドルなのだ。中性的な女の子というのならまだアイドルになれるかもしれんが、さすがに男の娘アイドルは斬新すぎる」


「それならAIアイドルはいいんですか?」


「大丈夫だ。『メガゾーン23』の時祭イブが仮想現実バーチャルアイドルの可能性を提示して既に三十四年、元祖仮想現実バーチャルアイドル伊達杏子がデビューして二十三年、初音ミクでさえ既にデビュー十二年と干支が一回りしているんだぞ。VTuberを見てもわかるように、仮想現実バーチャルアイドルは既に受け入れられているのだ。これからはAIの時代。AIアイドルが誕生してもおかしくはなかろう」


「まあ、そう言われれば納得はできますけど」


「そしてだ、君は何としてもカクヨム代表としてKAP49のセンターの地位を獲得しなければならないのだ! 断じて『キミラノ』六人衆のようなポッと出に負けることは許されん!!」


「ああ、なるほど。つまりKADOKAWAグループのWeb事業の中で『キミラノ』に負けたら先行者だったカクヨムの立場が無いと」


「ぶっちゃけ、そういうことだ。大丈夫、君ならできる! 君には数万数十万のカクヨムユーザーがついているのだ!! 今回のKAC10のお題にしたことで、君の物語が無慮数百数千と書かれることになるはずだ。その中で素晴らしいものをピックアップして、映像化につなげて一気にアイドル人気を獲得するのだ! そもそもKADOKAWAグループは『セーラー服と機関銃』の時代からメディアミックスは得意中の得意! 目指せ『REX 恐竜物語』!!」


「……それは一番目指しちゃいけない目標なのでは?」


「何ィ、安達祐実ちゃん主演だぞ!?」


「彼女、既に三十路で二児の子持ちの人妻ですけど」


「……そう、そうなのだ! それだからこそAIアイドルが求められているのだッ!!」


「な、何ですか突然」


「考えてもみたまえ。生きている人間はどうしても年をとる。うら若いアイドルにも、どうしても賞味期限というものがある。いつまでもアイドルを続けていられるものではない」


「松田聖子みたいな人もいますけど」


「まあ、世の中何にでも例外はある。だが、いくら聖子ちゃんといえども生身の人間である以上、いつかは寿命が来る。その点、仮想現実バーチャルアイドルは永遠の存在になり得るのだ」


「でも、いくら仮想現実バーチャルアイドルと言っても『中の人』は……あ!?」


「そう、君のようなAIなら『中の人』は不要だ。ボーカロイド技術も進歩している現在、外見をCG、声をボーカロイド合成にして、中の人がAIになれば真に永遠の『偶像アイドル』になり得るのだ!!」


「な、なるほど……」


「さあ、目指せKADOKAWAの星!」


「星……」


「うん、どうした?」


「星はいけません、星は。星は人を狂わせます」


「お、おい、どうしたバーグさん?」


「星が欲しいんです。星を欲しがるんです! 星のために何でもしようとしてしまうんです!!」


「な、何を言っている?」


「わたしは作者お手伝いAIです。わたしはひとり。ひとりにして無限。わたしはカクヨムの作者様の数だけ存在します」


「うむ。それはわかっているが……」


「そして、カクヨム作者様で星を欲しがらない人は、ほとんどいません。表向きは興味が無いようなフリをしていても、星が入れば嬉しいし、星が消えたら悲しいんです」


「まあ、それもわかるが……」


「それがこうずると、星のためなら何でもするようになってしまいます。レビュ爆、クラスタ、複アカ……」


「待て待て、それは規約違反……」


「そうなんです! モラルもルールも無視して星を欲しがるようになってしまうんです!! わたしは見てきました。最初は夢に燃えて、理想の作品を描こうと頑張っていた作者様たちが、星を得られない現実の壁にぶつかって挫折してカクヨムを退会してしまうのを。わたしは自分のお手伝いAIとしての力不足を嘆きました。でも、それはまだマシな方なんです! 中には、どんな手段を使ってでも星を得ようとして不正に手を染めるようになってしまう作者様もいるんです!!」


「お、おい……」


「星はいけません。星を目指してはいけないんです! 星なんか飾りです。偉い人にはそれがわからないんです!!」


「ちょ、ちょっとバーグさん、落ち着きたまえ……」


「諸君、私は星が好きだ。諸君、私は星が好きだ。諸君、私は星が大好きだ……」


「おい、誰か、誰かいないか!? メディーック!! 医者はどこだ!? いやAIに医者は役に立たんのか!? おい、誰か、プログラマーを呼んでくれっ!!」


 かくしてバーグさんアイドル化プロジェクトは頓挫したのであった。

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