第31話 最終決戦(3)

 下を見る。下には意識を完全に失ったララ。ある程度は調整したし、死んではいないだろう。本音を言うと今すぐにでも殺したいが。


「……リリアン。守れなく、ごめんね」


 私はリリアンを抱き抱える。ボロボロになった亡骸。私のせいだ。私が甘い考えばかりしてたからだ。お菓子みたいに甘い考え。そのせいで人が死んだ。

 私がしっかりとララを逮捕していれば。ララが更生するなんて思わなければ!


「あんたは何者なの!」


 近くの生徒が叫んだ。そういえば名乗ってなかった。私にはまだやることがある。私の仕事はまだ終わっていない。


「……騎士団の第三部隊隊長リコ。もう大丈夫よ。犯人のララは起き上がらないわ」


 そして頭が跳ねられて殺されたエステル。冷たいかもしれないが、彼女とは初対面なので特に思うことはない。もっと私が聖人なら、初対面の人の死も悲しむことが出来るのだろうな。でも、私は聖人じゃなくて悪役。そんなことは出来ない。

 ほんとに最低な女。


「……それじゃあ私は行くわ。あとで私の部下が事情聴取とかすると思うけど、その時は素直に見たままを答えてくれると助かるわ」


 なんでよ。なんでリリアンが死ななくちゃならないのよ。自分の罪と向き合ってこれからの未来を生きようとした人間が死んで、人の命を軽んじるララのような人間が生き残るのよ!!


 ……いや、分かってるわよ。リリアンは虐めの主犯。虐めは一種の殺人だ。人殺しの最後は誰かに殺されて終わる。だからリリアンは死んだ。因果応報だ。

 それでも私はリリアンに生きてほしかった。死んで罪が償えるわけがない。生きてなきゃ罪は償えない。だからリリアンは生きて、罪を償ってほしかった。


「ほんとにごめんなさい……守れなくてごめんなさい……」


 気づいたら目から涙が溢れていた。最初は私に反抗的だった。でも日を重ねるごとに仲良くなって、私の話にも耳を傾けるようになった。

 そして自分の罪を理解して、ララに謝ると決めた。それどころか私に土下座して一発蹴ってほしいと頼んできた、リリアン。

 だから私は必死にリリアンがララに謝る機会を作った。それはリリアンが必死だったから。リリアンはバッドエンドが大好きな女の子。

 そう言うけど、それはバッドエンドが好きな人に囲まれているとリリアンが楽だったから。彼女は本当はハッピーエンドが一番大好きだった。それは私だけが知っているリリアンの秘密。


 もしも彼女が生きていたら、どんな大人になっていただろうか。きっと素敵な人になっていただろう。だって彼女は自分の過ちを認めて、それに向き合うことの出来る人だから。でも、もう彼女はいない。

 

 私はリリアンの亡骸を抱えて学校を後にする。どこかに埋葬してあげよう。そいういえばリリアンは前に森が好きだって言ってたっけ。だったら、そこに埋めてあげよう。さようなら。リリアン。

 あっちの世界では幸せになれますうように。


 そしてララ。私はあなたを絶対に許さない。この罪はしっかり償って反省してもらう。そうじゃなきゃ、リリアンがあまりに報われない。私はあなたとは違う。どんなに憎くても殺さない。下種と同じ穴の狢に墜ちる気はない。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ララが捕まったそうだ」

「ふむ…………まぁ代わりはいくらでもいるしどうでもいいかな」


 別の場所。とある路地裏。そこでは二人の男が睨みはあっていた。一人は長い金髪が特徴的な男。ホームズ・モリアーティ。

 もう一人は情熱的な赤色の髪に整った顔。百人中百人がイケメンだという男。そしてリコの唯一の上司である、騎士団の団長であるスックラだ。


「しかし、どうして私の居場所が分かったんだい?」

「騎士団の情報網を舐めない方がいい。街一つの状況を把握するくらい容易い」

「なるほど……真面目に答える気はないと」

「まぁな。しかし、意外だな。お前ほどの男が街に現れるとは。てっきり、表舞台には出ないと思ったんだがな。狙いはなんだ?」

「リコ。彼女は美しい。心が美しい。良い女だと思わないかね?」


 その時だった。スックラ団長が動いていた。それこそ異常なまでの速さの蹴り。その速さは完全にリコを超えていた。しかしホームズはそれを目で追えていた。だが、動く気配は一切無い。

 そして何故かスックラ団長の蹴りは当たらなかった。不思議なことにホームズの体が透けたのだ。それこそ蜃気楼を殴ったようなかんじだ。


「……能力持ちか」

「まぁな。君でも私には触れることすら出来ないのだよ」

「そうか。それならなにかしらの手を考えないとな」

「残念だけど、君は脱落さ」


 ホームズはそう言うと拳銃を出した。それを躊躇うことなくスックラ団長の頭を目掛けて打つ。しかし再び不思議のことが起こった。弾丸が空中で溶けたのだ。ドロドロに溶けて、勢いが失われ、地面に落ちたのだ。


「……さすが騎士団の団長。能力は炎を自在に操る。それを使い自分の周りの温度を上げて、銃弾を空中で溶かしたのか」

「当たりだ。お前に俺は触れられない。観念するんだな」


 スックラ団長は指を鳴らす。炎が地を這う。ホームズを囲んで、退路を無くす。

 スックラ団長。彼はお菓子の国で剣聖と肩を並べて、最強と謳われる。リコを上回る身体能力に、瞬時にどんなものでも焼き尽くす炎を自由自在に操る能力。その気になれば、剣聖がいなければ一時間足らずで世界を滅ぼせると謳われる男だ。

 もっとも謳われているだけ。実際に滅ぼせるのかどうかは誰も知らないが。


「……まさか私に炎が効くとでも?」


 しかしホームズは迷いなく炎に体を投げた。再び体が透けて、一切の傷を負うこと無く炎から脱出する。


「君と戦っても千日手だ。今回は私の負けでいいよ。また会おうか」

「待て!」


 そのままホームズは歩いていく。スックラ団長は肩を掴もうとするが、すり抜ける。なにをしてもホームズの歩みは止められない。やがてスックラ団長は察した。

 この男には絶対に触れられない。つまり捕まえるのは不可能。追うだけ無駄だと。スックラ団長は悔しさで下唇を噛んでホームズを睨むことしか出来なかった。




 ――最終決戦 スックラ団長VSホームズ・モリアーティ


 勝者:無し


 ――互いに決定打無し。千日手になったためホームズの失踪により、終わる。


 主犯のホームズ・モリアーティは逃走。実行犯のララはリコの活躍で無事に逮捕。被害者はララの両親二人に虐めっこ四人とその彼氏一人、そしてガブリエルの計八人。これにてララ事件を幕引きとする。

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