第30話 最終決戦(2)

「……ララちゃん?」


 リリアンが話しかけてくる。憎たらしい声だ。この声は聞きたくない。私は軽くリリアンを睨む。この女だけは殺す。


「私が悪かったのは分かってる。土下座だってする。なんなら命だって捧げる。だから、こんなことはやめよう?」

「は?」

「私を殺すのは構わない。でも無関係の人を巻き込むのはやめて!」

「いまさらどの面を下げて言うの?」


 私は剣を飛ばして、リリアンの近くにいたエステルの首を跳ねる。それでリリアンに血が降りそそぐ。それにリリアンは激しく動揺する。


「殺すなら彼女じゃなくて私を殺しなさいよ! 私が全て悪いんだから!」

「う、うわぁぁぁぁぁああああ」


 まったく関係ないクラスメイトが恐怖のあまり逃げ出そうとする。私は、その青年を背後から突き刺そうとする。しかし剣は青年には当たらない。

 リリアンが庇ったのだ。リリアンの胸から血が溢れる。


「ララちゃん……こんなことはやめよう?」


 しかしリリアンは呻き声の一つも上げない。それどころか命乞いもしない。ウザい。憎たらしい。つまらない。


「黙れ! 黙れ!」


 リリアンに何度も剣を突き刺す。しかしリリアンは倒れない。私を真っ直ぐ見ている。血を吐いて体中が穴だらけになっても倒れない。それどころか呻き声もあげない。それが最高にウザい!


「……こんなんで、気が済むなら……いくらでも刺されてあげる」

「黙れ!」

「私は自分の罪から逃げない! だから改めた謝る! 本当にごめん! ララちゃん!」


 それが最後の力だったのかリリアンは倒れた。間もなくリコがやってきて、血だらけのリリアンをみて駆け寄る。


「リリアン! 大丈夫!」

「暗い……なにも見えない。でもそこにリコさんがいるのだけは分かります」

「血を止めるわ! 動かないで」

「いいです。私の命がここで終わることくらい分かりますよ」

「馬鹿なこと言わないで! 私が絶対に助けるわよ!」

「リコさん……ララちゃんに私は許してもらえたかな?」

「生きて、自分の目で確認しなさいよ!」

「最期に……リコさん。私を人間にしてくれて……ありがと……ぅ」


 リコはその言葉だけ聞くと優しくリリアンの死体を置いた。それからリコが激しくこちらを睨む。やった! 遂に全員殺した! なんて最高な気分だろうか!


「……あなた。自分がなにをしたか分かってる?」

「ゴミを始末しただけですが?」


 その時だった。リコの表情が怒りに染まる。間もなく私の頬に激しい痛みが走った。遅れて、リコの足が見える。それから吹き飛ばされてロッカーに叩きつけられる。


「べばぶぅ!」


 今までとは比べ物にならないくらい痛い! それこそ眼球に針を突き刺したような鋭い痛み。レンガを小指に落とすかのような痛み。あるいはそれ以上。早く ここから離れないと!


「これでもぬるいくらいよっ!」

「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 それから何度も蹴られる。ゴキッと骨の砕ける音が聞こえる。顔の形が変形する。それでも蹴りは止まらない。右で頬を蹴られたと思った時には、次は左頬に痛みが走る。今まで、どれだけ手を抜いていたか分かる。そのくらい痛みが段違いだ。逃げなきゃ……殺される!


「これでも手は抜いてるのよ。あなたを殺さないように必死にね」


 なにが手を抜いているだ! 完全に殺す気じゃないか! この悪魔が! その時だった。リコが優しい表情を見せた。そして私に問いかける。


「まぁ……学生だし許すわ。ララ。生きたい?」

「はい! はい! ちゃんと反省しますから!」


 あぁやっぱりリコは正義だ。ちゃんと反省しよう。私は悪いことをしたのだ。そう思っていた時だった。脳天に激しい衝撃が走った。


「なんて言ってもらえると思ったのかしら。いまさら遅いのよ。あなたみたいな下種には地獄がお似合いよ」

「許すって……」

「あなたは本気で謝った人を許したことがあったのかしら? 自分が許さなかったんだから、文句を言う権利はないわ」


 そして、リコは私を掴んで上に投げる。これからやろうとしてることを察する。まさか……噓でしょ! 私、死んじゃうよ! それだけはやめて!


「さよなら。きちんと自分の罪に向き合いなさい」


 リコは軽く飛んで空中に舞う私の体を力いっぱい蹴り、地面に叩きつける。三階の床は割れて、二階に貫通。そこで私の体はバウンドして、このタイミングで完全に意識がなくなった。


「殺してはないわ。本音を言うなら殺したいくらいだけど。独房で反省しなさい」




 ――最終決戦 天野川理子VSララ


 勝者:天野川理子


 ――ララ。リコに約102回の蹴りと三階から二階への落下により、全身骨折で全治三ヶ月の大怪我。しかしリコの手加減により、奇跡的に後遺症は無し。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る