第10話 新たな仲間

「そういえば言ってなかったんね。彼はこれから一緒に学ぶことになったガブリエル君だ。ララ君も仲良くするように」


 翌朝、目を覚ますとダイニングで私が殺そうとした人が何食わぬ顔でスクランブルエッグを食べていた。私には目もくれずに食べている。


「ホームズ先生。質問よろしいでしょうか?」

「なにかね?」

「彼は殺すんじゃなかったんですか?」

「私の気が変わったのだよ」

「彼は私を見殺しにした。それを悪だと言ったのはホームズ先生では?」

「ふむ……」

「まぁなんでもいいですけど。とりあえずシャワー浴びてきます」


 私は浴室に移動して服を脱ぎ捨てる。それから蛇口を捻り、シャワーからお湯を出して全身に浴びる。ホームズ先生が考えてることがまったく分からない。

 しかしホームズ先生に従っていれば間違いなく幸せになれるだろう。だから私はなにも考えずにホームズ先生に言われたことだけをやっていればいいのかもしれない。そんなことを考えながら雑に体を洗ってシャワーを浴び終えてダイニングに戻る。そして私も用意された朝食を取る。


「ララ。これから同級生とよろしくね」

「人が虐められてるのを見てなにもしなかった悪人がよく笑って生活できますね」

「それは仕方ない。僕は君に興味はなかったんだ。それは今も変わらない。ただホームズ先生には興味があるからここにいるだけさ。あの人は普通じゃない」

「そう」

「それに人間なんて全て悪だ。それなのに悪人だと罵るのは間違ってると思うんだよね。正義を名乗っていいのはあの人だけだよ」

「ワケが分からないわ」


 そんな会話をしてるうちにルナさんが欠伸をしながら降りてきて朝食を食べ始める。それから特になにか話すということはない。みんな黙々と食べている。


「そういえばガブリエル君」

「なんですか?」

「色々と面倒だから君を死んだことにするけど構わないね」

「問題ないです。それなら折角ですし名前も変えましょう」

「それならシェヘラザードなんてどうかね。本名はシェヘラザード・ガブリエル。人前ではシェヘラザードと名乗るいい」

「良い響きですね。それでお願いします」


 なんか下らないことを決めている。私としてはそろそろ今日の予定を知りたいので早くしてほしいのだが。


「ララ君。今日の八時にルナがファニーを拉致してくる予定になっている。だからそれまでにどんな復讐をするか考える。それを課題としよう」

「分かりました」


 そして遂に復讐。私から全てを奪った奴らに地獄を見せられる。その事実に私は心が躍っていた。私を貶めたアイツらは一体どんな声で喚くのかと。しかしそんな時にガブリエルが横槍を入れる。


「すみません、拉致する予定の人にファニーの恋人を追加してもらっても構わないでしょうか?」

「何故かね?」

「いやぁ目の目で恋人を嬲り殺しにしたら良い声で鳴きそうだなぁと思いましてね。もっとも他にも色々と考えてますが」

「分かった。そういうわけでルナ頼んだよ」

「任せて」

「お願いします。ララは想像力が足りない。それを補うのが僕の役目ですから。もっとも僕の足りないことはララに補ってもらいますけど」


 彼は何を言っている? 一体ガブリエルの目的とは……


「ララ。僕と君はこれから二人で一人だ。君の足りないところは僕が全て補うよ。だから二人で楽しもう?」

「いらない。私は一人で全てやる」

「まぁそういうのは今日の復讐を果たしてから言おうよ。ララが最高だと言ってもらえる舞台を整えるからさ」

「めんどくさ……」


 なんでこんな男と協力しなければならないのか。それだけで物凄く憂鬱だ。私はホームズ先生に言われたことだけをして、自分を高めていきたいだけなのに……


「ララ君。ガブリエル君はきっと君の役に立つよ。とりあえず親睦を深めるために街に二人で遊んで来たらどうかね?」

「ホームズ先生がそう言うなら……」


 そうして私はガブリエルと何故か街に出かけることになった。正直に言って誰かと出かけるのなんて久々だ。もっともめんどくさい以外の感想はないが。

 しかし何故かガブリエルのテンションはやけに高かった。

 とりあえず私は軽く着替えて外出の準備を整えて、ガブリエルと外に出る。


「いやぁ女の子とデートなんて初めてでワクワクするよ」

「私なんかでワクワクするものなの?」

「大事なのは可愛いかどうかじゃなくて、女の子であるという事実だからね。さてどこに行こうか?」

「行きたい場所なんてない」

「そうかぁ……そういえばこのチョコレートの街って映画の街って言われるくらい大きな映画館があるの知ってる?」

「だから?」

「いやぁ折角だから映画なんてどうかなと思ってね」

「興味ない」

「まぁそう言わずにさ」


 するとガブリエルは強引に私の手を掴んで映画館へと連れて行く。それから彼は手早くポップコーンと飲み物、チケットを持ってやってくる。


「映画は僕が選んじゃったけど良かったよね?」

「なんでもいい」

「つれないねぇ」


 そうして私は強引に映画を見させられる。映画はアクション系でド派手な戦闘がスクリーン全面に映させる。後ろから体を揺さぶるような爆音が映画の世界へと誘う。最初は嫌々見ていたが途中から、私は食い入るように映画を見ていた。


「いやぁやはり映画というのは良いものだね」

「……何の意味があるの?」


 気付いたら映画は終わっており、私達は外にいた。たしかに映画は面白かった。しかしそれだけで、なんの意味があるのだろうか。ただ面白いだけでなんの価値も無い。


「でも面白かっただろ?」

「まぁ……」

「僕の憧れる人は映画を見て、遅刻することが多々あるそうだよ」

「憧れの人?」

「僕の憧れは無情のリコって人さ。騎士団の第三部隊隊長といえば分かるかな? 彼女は凄い人だよ。彼女の話は逸話が多い。有名な一週間で二百件近くの事件を解決した話だけど、その他にも革命軍との仲裁を行ったり、王国軍の犯罪を暴いたりしている。しかもリコはまだ騎士団に入って一ヶ月足らず。ララは凄いと思わないか?」


 随分と熱心な信者だ。もっともリコを実際に見たことある身としては可愛い以外の感想はない。


「だからこそ僕はそんな完璧超人が泣きじゃくる姿を見てみたいと思うね」

「……悪趣味」

「そうかな?」


 しかし、この時の私は知らない。このリコという存在が私に大きく関わってくることを。そして私の最大の敵となることを……



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