20 エピローグ 二人はどうなった? 私はあなたに向かって全力で駆け出していく。

 エピローグ


 二人はどうなった?


 私はあなたに向かって全力で駆け出していく。


 西谷美月は学校帰りに夕焼けに染まる真っ赤な土手の上の道を全速力で駆け出していった。


 美月がこうして全速力で走っている理由。

 それは大好きな尾瀬真琴くんに、自分が真琴くんのことを大好きだってことを、きちんと伝えるためだった。

 美月はついさっき、真琴くんから「西谷は好きなやつっているの?」と聞かれたばかりだった。でも美月はあまりにも恥ずかしくて、(そしてあまりにも唐突な質問だったから)思わず、「い、いないよ、そんな人」と自分の気持ちに嘘をついてしまったのだった。

 すると真琴くんは「そっか」とちょっとだけつまらなそうな顔でそう言った。

「じゃあ、またな西谷」

 そう言って真琴くんは夕焼けの中を自分の家に向かって歩いて行った。


「待って、真琴くん!」

 美月は言った。

「? なに?」

 美月のほうを振り返って真琴くんは言った。

 美月は真琴くんのいるところまで、とことこと歩いて移動をした。


「真琴くんはいるの?」

「いるって、なにが?」

「……大好きな人」

 うつむきながら美月は言う。


 その美月の言葉を聞いて、「ああ、」と真琴くんは、そういうことか、と言ったような顔をして言った。

「うん。いるよ」

 真琴くんは言う。

「それって誰!?」

 思わず食い気味に美月は言う。

 すると、くすっと笑ってから、真琴くんは美月の顔を指差して、「お前だよ。西谷美月。俺はお前のことが大好きなんだ。ずっと前からな」と真琴くんはそう言った。


 その言葉を聞いて、美月の顔は(その顔だけではなくて)耳までが見事に真っ赤な色に染まった。(今が世界が美月の顔と同じ真っ赤な色に染まっている時間帯でよかったと美月は思った)


「じゃあ、今度こそ、またな」

 にっこりと笑って、真琴くんはそう言うと少し早足で、美月の前をあとにした。

 美月はなんだかぼんやりとしてしまった。


 でも、それから少ししてはっとして、『とても大切なこと』に気がついた。


 ……私、まだ自分の気持ちを真琴くんに伝えてない。

 ……私はまだ真琴くんが大好きだって、真琴くんにちゃんと言えていない。


 そんなことに美月はやっと気がついた。


 だから、西谷美月は重たい教科書の詰まった赤色のランドセルを背負ったまま、土手の上を一人で全速力で駆け抜けていた。(その美月の赤色のランドセルにはリコーダーと、それから幸運の兎のキーホルダーがついていた)


 はぁはぁ、と息が上がる。

 でも、全然苦しくなかった。


 待っててね、真琴くん。


 美月は走る。

 西谷美月は、そうやって大好きな尾瀬真琴くんがいるところまで、真っ赤に染まる土手の上を、全速力で、たった一人で駆け抜けて行った。


 そのまま美月は真琴くんの腕の中に思いっきりダイブした。


 兎小屋 終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

兎小屋 雨世界 @amesekai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ