19 二人はどうなる? 

 二人はどうなる?


「浮かない顔してるな」

 真琴くんは言った。

 確かに美月は真琴くんの言う通り、なんだか浮かない顔をしていた。

「うん」

 小さな声で、美月は言う。


 真琴くんは兎小屋の前でしゃがみこんで、その四角い小さな箱の中にいる二匹の兎、くろとしろのことを見つめた。

 美月も同じように真琴くんのとなりにしゃがみこんでしろとくろのことを見た。


「お前たちはいつも仲良しでいいね」

 美月は言った。

「なにか悩みがあるのか?」

 真琴くんが言う。

「……うん」

 美月は言う。

「どんな悩み?」


「うーん。なんていうか、すごく不安なの」美月は言う。

「不安?」

「うん」

「なにが不安なの?」

「将来のこととか、いろんなこと」

「未来のこと?」

「うん。未来のこと」


 美月は真琴くんを見る。


「ねえ、真琴くん。私たちはこれから将来どうなるのかな?」

「どうなるって、中学生になって、高校生になって、大学生になったり、仕事したりするんじゃないの?」

 小さく笑って、真琴くんは言う。

「そのあとは?」

「そのあとって?」


「だって人生はまだまだ続くでしょ? 仕事をして終わりってことはないでしょ?」

「うーん」

 真琴くんは空を見て考える。(空を見るのは、考えごとをする真琴くんの癖だった)

「そんな先のことはわかんないな」と真琴くんは笑って言った。

「でも、まあ大丈夫だよ」

「大丈夫?」

「ああ。きっとなんとかなるよ。たとえなんとかならなかったとしても、俺が頑張ってなんとかするし、西谷のことは俺が守ってやるよ。ずっとな」

「本当?」

 美月は言う。

「ああ。本当だよ。だから、もう泣くなよ。美月」真琴くんは笑って言った。


 美月はいつの間にか、また泣いていた。

 美月は自分の両目の涙を指でそっと拭った。

「うん」

 美月は泣きながら、にっこりと笑って真琴くんにそう言った。


 そして二人は、桜南小学校を二人一緒に卒業した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る