8 夏休み それは、遠い日のあなたの思い出

 夏休み 


 それは、遠い日のあなたの思い出


「兎はね、『幸運の動物』って言われているのよ」

 校庭の隅っこにある休憩室の中でお茶を飲みながら、梅子先生は美月と真琴くんにそう言った。

「幸運の動物、ですか?」

 同じようにお茶を飲みながら美月が言った。隣に座っている真琴くんをみると、真琴くんはちょっとだけはにかむようにして笑って、美月のことを見返した。

 美月は梅子先生に視線を戻した。

「そう。兎はね。幸運を呼び寄せてくれるの。その近くにいる人を幸せにしてくれる動物なのよ」ふふっと言いながら、にっこりと笑って、梅子先生が二人に言った。


「じゃあ、私たち幸せになれるんですか?」美月が言う。

「ええ、もちろん」梅子先生は言う。


「あなたたちだけじゃなくて、六年二組の教室のみんなが、……ううん。この桜南小学校のみんなが幸せになれるように、私たちはあの二匹のつがいの兎、くろとしろのお世話をしているのよ」と梅子先生は言った。


「つがいの兎?」

「ええ。くろとしろはつがいの兎。つまり、あの二匹の兎は夫婦なの」梅子先生はそう言って美月を見たあとで、お茶を一口飲んだ。

「くろとしろは結婚している夫婦なんですね」梅子先生と同じようにお茶を一口飲んでから、美月は言った。

「ええ。とても仲の良い夫婦」梅子先生は言う。


「いいな。羨ましいです」にっこりと笑って美月が言った。


 開けっ放しの窓からは、気持ちの良い夏の風が吹き込んでくる。その風の中で、美月はふと、自分と真琴くんが結婚したら、くろとしろみたいな幸せな夫婦になれるかな? とそんなことを空想した。

 それから、恥ずかしくて少し顔を赤くしながら、美月は自分の隣にいる真琴くんの顔を見た。

 すると真琴くんは真剣な顔をして、手に持っているお茶の入った湯飲みの表面を、じっと見つめていた。

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