第1話


撥条.


さて、皆さんこんにちは。千石撥条(せんごくぜんまい)と申します。基本的に語り部をやらせていただきます。よろしくお願いいたします。


謎解きが終わった場面から始まってしまいました、が少し状況説明しましょうか。ここは某県某市にあるとある豪邸です。親が勤める会社の社長さんが主催するパーティーに家族ごと呼ばれてここまで来ましたが、


大地震が起きて豪邸が陸の孤島となってしまい、その夜に社長さんが殺されてしまい犯人は誰だ、と皆が疑心暗鬼に陥る中、そこに居合わせた名探偵-----この僕千石撥条、


の幼馴染みであるふいんちゃんこと戸川巫尹(とがわふいん)が鮮やかにその謎を解き、一同を大テーブルのもとへ集め堂々と謎解きをしている場面です。失敬、もうすでに終わっていましたね。これまでのテンプレだと犯人は泣いてお詫びするのですがさて、今回の犯人はどうでしょうか。


「はははは。そうだとも確かにこの私があの極悪非道の彼奴を成敗した。他のやつらは見逃す予定だったのだが、ばれてしまっては仕方ない。皆殺しだ。一人残らず殺してくれよう」


そういって彼は懐から一丁の拳銃を取り出しました。

開き直るタイプですか。しかも

これは…マジですか、ベッレタ93Rですか。困りましたね。流石に対テロリスト用の拳銃なんか出されるとアッと言う間に皆お陀仏ですね。他のお客さんも皆、固まってしまっていますしね。さっきまであんなに気丈に振る舞っていたふいんちゃんもガタガタと震えてしまっています。そんな光景に気をよくしたのか


「ふははは。この絶大なる力の前にひれ伏すがいい。泣き叫ぶがいい。醜く喚いて命乞いするがいい」


と、喚き散らしています。正直あんな大人にはなりたくはないですね。では、せっかくふいんちゃんが鮮やかに解決してくれたこの事件。不本意ながらこの僕が幕引きをしましょうか。


スイッチオン


バリバリ

っと


「う、があ」

はい、おしまい。全く、近くに人がいるのに拳銃なんか振り回してもあまり意味がないでしょうに。偶然隣にいた人が拳銃なんかよりももっと至近距離で真価を発揮する護身用高圧電流銃スタンガンを持っていたらそれをぶち込まれて終わりでしょうに。という訳でミッションコンプリート、事件解決です。


 その後数時間して、ようやく道が復旧したので家に帰ります。行とは逆に僕がふいんちゃんのお父さんの車に乗せてもらって帰ります。中学二年生にもなって態々一緒の車で帰るというのも若干気恥ずかしいものがありますが、それでもふいんちゃんと一緒にいられるのならば収支はプラスになります。


 お屋敷を出てから数十分ほどが経ったでしょうか。不意に隣に座るふいんちゃんが呟きました。

「もうやだよ。なんで行く先々で人が死んでいくの?『名探偵の掟』だとかそんなの知らない。普通に暮らしたい」

「・・・」

ふいんちゃんの悲痛な叫びを聞いた僕は何も答えられませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る