第2話

撥条.

「初めまして、新しい名探偵さん。そしてようこそ茨の道へ」

僕たちが初めて彼女に会ったのは小学五年生の時、ふいんちゃんが初めての事件を解決した翌日でした。


「キミの活躍は報告書で読ませてもらったよ。なかなかに面白い事件だったようだね。これなら十二分に資格を得られるだろう。さてさて、どうする戸川巫尹?今ならまだ引き返せるぞ」


「どういうことでしょうか」

学校帰りに僕の隣にいる人が戸川巫尹であることを確認するや否やすぐ矢継ぎ早に告げられた謎の文言に思わず疑問を投げてしまいました。


「簡単なことだよ。彼女は昨日の密室殺人事件の謎を解いてしまった。そして全日本名探偵教会に名探偵としての素質を認められた。そこで私が派遣されてきたというわけだ」


彼女の説明になおも首をかしげる僕に対して今まで僕の後ろで黙っていたふいんちゃんが前にでて口を開きました。


「つまり貴女は難事件を解決するに足る頭脳を持つ人物、つまり名探偵と称される存在を管理する組織の一員ということでいいでしょうか?理由は憶測にしかなりませんが古来より『名探偵のいるところに事件あり』といわれることでしょうか。いかがです?」


「素晴らしい!これはとんでもない逸材を発掘したな。理由までも推理するとは、さらにトランス型か。ますます面白い」


何やら二人で勝手に納得して話を進めていますが一般人の僕には全然理解できません。という訳で隣のふいんちゃんに聞きます。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とやらです。


「ねえ、ふいんちゃん。どういうこと?」


「つまりだね、少年。君は不思議に思ってこなかったかい?小説の中の古今東西の名探偵たちがどうしていく先々で事件と遭遇してしまうのか。作者の都合?そんなものではない。現実にいる名探偵達も常人に比べ明らかに事件との遭遇率が高い。そこで全日本名探偵教会の創始者、コードネーム「リーダー」はこの現象を名探偵の宿命と名付け「事件は犯人ではなく名探偵が引き起こす」そう定義づけた。そして危険極まりない名探偵を管理することを目的として全日本名探偵教会を作った。「リーダー」は昨日の巫尹君の活躍を見て名探偵に足る人物だと判断されたので、勧誘のため私が派遣されたのだよ。わかったかな」


あれ、僕、ふいんちゃんに聞きましたよね?そう思いましたがきちんと説明されているのであえて突っ込まないでおきましょう。


「わかりました。でも、なら何で『今なら引き返せる』んですか。名探偵だとわかったら問答無用で教会入りじゃないのですか」


「おや、キミもなかなかに見どころがあるようだね。君の言う通り一つだけだが方法はある」


「それは何ですか」


がっつくように僕は聞きましたがふいんちゃんはさっきの一言意外喋っていません。おかしいなと思って様子をうかがうと、険しげな顔で何かを考え込んでいます。そして何かを閃いたかのように突然顔を上げて言いました。


「もしかして謎を解かないことですか?謎を解かなくなればその人は名探偵とは言えなくなりますから」


「ご名答。流石名探偵だ。その通り出会っていく事件すべてに目を背け続ければいつしか事件と出遭わなくなっていく。現にそうやって引退した名探偵もいる。それに君ならまだ世間に名が売れてないから引退も容易だろう」


それはつまり自分に事件を解決する力がありながらそれを使わずにいろ、ということですよね。有り得ません。どうやら、ふいんちゃんも同じ意見だったようで

「すみませんが私はこのお話、辞退させていただきます」


と、言いました。

女の人もどうやら無理強いはする様子はなく仕事が終わったせいか砕けた口調になって


「あらそう、でも覚えておいて。『名探偵のあるところに事件あり』、よ」

と言って帰っていきました。

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