こたつに入った三人は温さに顔を緩ませていた。

昭子の前には酒のグラス、侍の前にはメロンソーダ、太郎の前にはこんぶ茶が。

ほのぼのとした空気の中、メロンソーダを一気に飲み干した侍が昭子に、


「そういや昭子さん、たまこちゃんは最後の最後に昭子さんがなんなのかわかってよかったですね。でももっと早くわかってりゃ昭子さんがいままでにどんなことをしたのか話してもらえたってのに、そこは残念でしたね」

「おや、珍しい。終わったことなんて無かったも同じなのに、今更そんなことを言うなんて、侍はたまちゃんのことを本当に気に入っていたんだねえ」

目を細めて昭子が侍を茶化す。


「違いますけどね。でも、あんだけ妖怪にこだわってたから」

「ふん。いくらこどもだからっていってもあの子は殺されて今までにけっこうな年月が経ってんだよ、その間あたしらとここにいていろいろ見聞きしてきてるんだから、中身はいい大人ってもんさ。それにね、女同士なんだから、言わなくてもわかるってもんなんだよ。前も言ったろ。あたしのこの雪みたいに真っ白な肌と綺麗さと冷たさは一つしかないじゃないか。それをたまちゃんはちゃんとわかってたのさ」

女同士は何でもわかるもんなんだよと侍を子供扱いする。

「何言ってんだよ。こたつに入る雪女なんて聞いたことねえよ。溶けてなくなったりしないのかい?」

「あんたも古い男だねえ。その時代時代で変化しなきゃ取り残されるってもんだよ。雪女だって寒けりゃこたつにも入るわさ。なに、あんたあたしに溶けてなくなれって言ってんのかい?」

「そんなこと昭子さんに向かって言うわけねえじゃねえか」

侍は顔の前で手を大きく左右に振る。

昭子は、自慢のお垂髪を雪のように真っ白く細い手ですすすと撫でた。


「太郎だって犯罪をたくさんしてきた人間の死体を盗んで食らう火車だろう。最近じゃ霊まで食らい始めてる。それが今じゃ金髪の遊び人みたいな体になってんだ。あんたもそろそろ変えた方がいいんじゃないかい? その内化石になっちまうよ」

饒舌な昭子を言い負かす腕は侍にはない。どうするかというと、口を尖らせて黙るのが適切だと心得ている。


「久しぶりに美味かったですよ」

金属が擦れるような音の笑い声を上げた太郎は心なしか肌がつやつやしていた。

たまこと瑞香は司を何回も何回も何回もいたぶり殺し、太郎はその度に何度も何度も何度も食らいついたと聞いた侍は、生前、悪事はしたけれど、人を殺めなくて本当によかったと心の底から思った。


たまこと瑞香は時が来たら死神によって上へ連れて行かれる。そしてそのあとは死神によって司は未来永劫暗闇の中で殺され続けるということだ。

「しばらく帰ってこないと思ったら、食いまくってたのかい? 悪事に手を染めた奴ってえのはそんなに旨いのかい? 不思議だねえ」

「そりゃもちろん。あいつは本当にたくさんの悪事に手を染めましたからねえ。あの動物を殺した奴は動物たちに食われていますからね、ほんとうは俺も食いたいところなんですが、動物たちの怒りが収まらず俺の出る幕はなくてね、仕方なく譲りましたわ」


しばらく留守にしていた太郎は、昭子と侍に、「今美味い飯作りますんでね、ちょっと待っててくださいよ」と声をかけると、二人は待ってましたとばかりにお互いに手をパンと打ち合って喜んだ。


久し振りに三人集まってのんびりと話に花を咲かそうとしていたところに、何か気配を感じた。

家の入り口に目を向ける。それから時間を見た。


「ああ」

と、三人揃って口を開けた。

「もうこんな時間だったのかい」

「たまちゃんがいないと時間を知らせてくれるのがいなくて困るねえ」

侍と昭子が、ちっと舌打ちをした。

「それじゃ、飯は後にしましょう」

太郎が席を立った。

「今年は時間が経つのが早いわねえ」

「まったくだ。とは言っても、今日は誰が来るのか、楽しみだなあ」

「侍、おまえが道で会った奴らの誰かが来るんだよ。この前もそうだけど、お前自身が忘れちゃってるんだから世話ねえよ」

昭子が侍に突っかかる。

「何言ってんだよ昭子さん、俺らの楽しみのために恨みをもった霊を探し歩いて一日に何十人にも声かけてんのは俺だぞ。そりゃ少しは忘れるってもんだ」


掛け合いになった二人のやりとりを、また始まったとばかりに眉を下げて見ている太郎は、手だけを動かして準備をしていた。

収拾する気配がないとわかると、二人の間を割るように蝋燭を置いた。


「お二人さん、そろそろ始めるぜ」

二人は蝋燭の炎に目を移し、にやりと笑う。

太郎がふうっと蝋燭の火を吹き消した。

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妖遊戯 酒処のん平 @nonbe_sakedokoro

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