第22話 ひかべの使い方

ガッ


間をすり抜けようとした骸骨を、俺がシールドバッシュで跳ね除ける。

斧はハンドサイズ、盾はタワーシールド形状。

攻撃よりも、敵の足止めを優先している。


「プロテクション、ヒーリング・・・」


紫苑の支援魔法と回復魔法。

矢継ぎ早に魔法を行使している。


「ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール」


宿名が魔法を連続使用するが・・・追いつかない。

地下2階にして、そろそろ限界だろうか。


「いったん引こう」


宿名の提案で、撤退。

なんとか移動しつつ、敵が少ない場所まで移動、


「宿名君」


紫苑が宿名に呼びかける。


「どうした、紫苑さん」


「メイジは、速射魔法より、力を溜めた大魔法を使った方が、DPS出ますよ」


DPS、ダメージ、パー、セコンド。

秒間、幾らのダメージが出るか、と言う意味だ。

例えば、1秒に10ずつ与えるより、5秒で100与えた方が、多く与えられる。


「しかし・・・敵が分散していて・・・」


宿名が応えると、


「メイジが合図して、タイミングを合わせてそこに集めて貰う、とかですね。慣れれば、意外と自分でも狙えるんですけど」


紫苑が言う。


「トレインからの、大規模焼却か」


俺が頷く。

MMORPG、オンラインネトゲで良くある事だ。

前衛が大量の敵を掻き集め、メイジが大規模魔法で殲滅する。


「トレインからの大魔法は、プリーストの負担が大きい。プリースト1人で支えるのは無理だと言っているのに、いつもいつも・・・それで無茶して死んだら無言ログアウトとか・・・プリーストを何だと思ってるんだ?!」


「す、宿名君、どうした?!」


何かプリースト職に思い入れが有るのだろうか。

何故か宿名の琴線に触れたらしい。


「・・・はっ、すまない。と、とにかく。大規模大魔法はまだ無いが、威力の高い魔法を使う様に気をつけよう」


宿名が慌てた様に言う。


「大魔法は無くても、簡単な魔法でも、使い方次第では、強力な攻撃ができますよ」


紫苑がほのぼのとした様子で言う。

メイジに詳しいな。

上級冒険者であれば、他職の事も色々把握していておかしくない。

それにしては紫苑のレベルが低過ぎるが・・・過去に何かあったのかも知れない。


紫苑が続ける。


「例えば、ファイアーウォール、ですが。ここに敵を誘い込む事で、大ダメージを与える事ができます」


「なるほど、設置型トラップだな」


俺が頷く。

本来、身を守るための防御魔法。

使い用によっては、持続的にダメージを与える手段となる。


「ファイアーウォールは、すぐに抜けられてしまう。使い勝手が悪いぞ」


宿名が、困惑した様に言う。


「そうですね。ファイアーウォールは、レベルを上げると、横幅は広がりますが、縦幅があまり無いので、結構あっさり乗り越えられちゃいます」


「術者に敵が突進して・・・危険そうっすね」


茜が言う。


「だから、ファイアーウォールはかなり微妙な印象だな」


宿名が頷く。


「ですので──こう、横に出して──」


ゴウッ


紫苑が横を向き、自分の前──元の方向から見ると横方向に、炎の壁を出現させる。

どっちからの攻撃を防ぐ想定なんだ?


「──で、正面を向いて、自分が下がれば──」


「「「ファイアーウォールが縦に変化した??!」」」


俺、茜、宿名が叫ぶ。

そう。

元の方向から見れば、紫苑に向かって分厚い炎の壁が出来ている。

無論、炎の壁を避けて横を走る事は可能だが、かなりやり辛い。

方向を調整している間に、更に炎の壁を生み出されれば、致命的だ。

これが魔物であれば、猪突猛進で、ひたすら焼かれるだろう。

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