第21話 デレ

「はっ!」


俺の一撃が、蟻の魔物を両断。

レベル1の敵だから、そこまで強くはない。


ピッ


蟻が触手を飛ばす。

しまった・・・ああ言った遠距離攻撃から仲間を守るのが、俺の役目だ。


バラララララ


遠藤君を狙って飛ばされたそれは──遠藤君の本から飛び出した紙の盾で防がれる。

格好良いな、メイジ!


「やっ!」


茜の一撃が、蟻の魔物を絶命させる。


ごそ・・・


闇から現れ出たゴブリンを、


ゴッ


俺が盾で思いっきり押しつける。


「炎の矢!」


遠藤君の魔法が炸裂。

ゴブリンが絶命。


茜がドロップ品をかき集める。


「・・・レベル1のダンジョン、ですか?それにしては敵が強いし、密度も多い様な・・・?」


青森さんが小首を傾げる。

実は、難易度は狂気、だ。

難易度を下げようとしたが、下げられなかったのだ。

まあ、茜に作って貰えば良かったのだが。


ごす


俺が蟻塚を蹴ると、アイテムが幾つか転がり出る。


「何故序盤ダンジョンで、採掘ポイントから複数のアイテムが出るんだ・・・?」


遠藤君が訝しげに言う。


「先輩と潜ると、何故か何時もそうっすよ」


茜が不思議そうに言う。

何でだろうね。


さて・・・そろそろ見えた・・・地下への入り口・・・地下2階層。


--


「光よ」


遠藤君の言葉に応え、光が頭上に浮かぶ。

周囲を照らす・・・結局、森林でも、2階層以降は灯りが無かったりするのか。


「2階層以降は、初体験だから楽しみだ・・・茜に止められていたからな」


俺は、興奮を隠せず、言う。


「本来はフルパでないと厳しいですが・・・入り口あたりを経験し、危険なら戻りましょう」


青森さんが言う。


ギギ・・・


石の魔物・・・


ガッ


俺はさっそく斬りかかり──


ガキッ


弾かれた?!


「物理耐性。物理攻撃は効かないっすよ」


茜がぽつり、と言う。


「炎の矢!」


遠藤君の魔法で、石の魔物はあっさりと沈む。

・・・なるほど、茜が止める訳だ。


奥から来たのは・・・蟻・・・


ゴウッ


ブレスを吐き・・・って、躱せない?!


みんなを守る術も無く、全員のHPが削られる。

くそ・・・


次弾の準備をする蟻へと突撃・・・


ビッ


触手が伸び、俺を突き刺す・・・痛い?!


「癒しよ」


青森さんの手から光が飛び──痛みが消失する。

良し。


ガッ


俺の攻撃が、蟻を絶命させた。


青森さんは次々と回復魔法を発動、全員のHPを全快させたようだ。


「・・・今の・・・あれどうやって躱すんだ・・・?」


俺が呆然と呟くと、


「最初のブレス攻撃は、ああいうものっす。躱せないので、一定のダメージは覚悟するしかないっすね」


茜が教えてくれる。

なるほど。

そういう意味でも、プリーストがPTにいないと辛いのか。

1階層だと、ヒットアンドウェイで、殆どダメージ受けなかったからな。


「次の触手攻撃・・・あれも攻撃に対するカウンターなので、近接攻撃を仕掛けるなら、覚悟しないといけないっすね。回避型には辛いっす」


「回復して貰うしか、ないか」


その後も、1階層とは違う敵と戦い。

青森さんの助言で、遠藤君が適宜、属性魔法を発動、俺と茜の武器に付与する様にした。

それで敵を倒すのが楽になった。

物理耐性の敵にも、魔法付与の属性武器だと通じるのだ。


「意外といけるな・・・本当にみんなを誘って良かった。楽しいよ」


俺は素直な感想を口にする。


「私も、やってて楽しいっすよ。勿論、先輩と2人だけのラブラブ探索も楽しかったっすけど」


茜が言う。


「私も、誘ってくれて有り難うございます。楽しんでますよ」


青森さんが微笑む。


「・・・俺も、楽しめている。また誘ってくれ」


遠藤君がデレた。


「・・・ところで青森さん」


遠藤君がぽそり、と尋ねる。


「紫苑で良いですよ」


紫苑が微笑む。


「では、紫苑さん・・・MPは大丈夫なのか・・・?さっきからヒーリングを乱発しているようだが・・・?」


MP。

プリーストとメイジは、魔法を使う際、MPを使用する。


「ほぼ全快ですよ?」


「「え」」


遠藤君と茜が呻く。

ん?


「・・・低レベルプリーストは、MPとの戦いだ。メイジには最大MP増加や、MP回復率向上スキルがあるが・・・低レベルプリーストにはどちらもない。8レベルであれば、8回ヒーリングを使えば、MPが枯渇するはず・・・低レベルプリーストは座るのが仕事、と言う人もいるくらいだ。座るとMP回復が早いからな・・・MPの為に休憩をとるPTもあれば、プリーストは座らせておいて、前衛は回復ポーションで回復するPTもある」


遠藤君が訝しげに言う。

茜も頷いている。


「そのあたりはその・・・工夫、ですかね」


紫苑が、そっと目を逸らす。


「・・・まあ、枯渇していないなら良いが・・・減ったら言うようにしてくれ。いざと言う時に回復のMPが無いようでは困るからな」


遠藤君が溜息をつく。


「それと、俺の事も、宿名すくなで良い」


宿名が言う。


「俺も、陽斗はるとと呼んでくれ」


名字で呼ぶと、どうしてもまだるっこしい。


「私も、茜で御願いするっす」


茜が、罠を探しつつ、言う。


さて・・・探索の続きをしよう。

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