PvP

英知ケイ

PvP

 ネクストドリーム・オンライン。

 剣と魔法の冒険世界を楽しめるVRMMO。


 その世界の片隅のとある酒場で、今日も争いが繰り広げられていた。



「二刀流が最強なんです!」


「何言ってるのよ、弓に決まってるでしょ、ゆーみ」


 ユウトの発言に、リーナが食ってかかる。


「今日の俺の活躍見てなかったのか、モンスター百匹斬り達成だぞ百匹斬り」


 リーナはこの誇らしげな顔にむっと来たようだ。


「だからそれ、雑魚でしょ。ボス戦で周りの雑魚狩ってただけじゃん。ボスにトドメさしたのは、私の弓の必殺技アルティメットスキルよ。見てなかったの? 『射手座は全てを貫くサジタリウス・アロー』」


「お前がその必殺技を撃てたの誰のお陰だと思ってるんだよ。周りでボスの護衛を俺達が片してたからだろ」


「それ、ボスに二刀流じゃ全然ダメージ与えられないからでしょ。片手武器ならせめて盾役タンクだったらよかったのにねー。ぜんぜんボス殴らせてもらえないなんて残念ねー、武器変えたら?」


「大きなお世話だ。二刀流はロマンなんだよ、ロマン。お前にはわかんねーだろうけどな」


「ぷっ、その顔でロマンとか、はーずかしいんですケド」


「何だよ、お前だって最初に武器決めるとき、弓の女の子の衣装が可愛いって、それで選んでただろ、なーにが違うんだよ」


「形の無いロマンよりも、見た目の可愛さのほうが大事だと思うんだけど? ほらほら可愛いでしょこれ」


 リーナは自分の着ている衣装をひらひらさせる。


 ネクストドリーム・オンラインは武器により他の装備に制限を受ける。

 フェアリーズドレスと呼ばれる弓用のこの装備は妖艶な外見と遠隔スキル、遠隔ダメージをプラスする効果で人気の一品だ。


 しかし、頭に血がのぼっている今のユウトにとってはどうでも良い代物のようだった。


「オトコのロマンを馬鹿にすんな」


「だってロマンって言っても、どうせアンタのはいいとこ雑魚ボスに複数回攻撃の必殺技撃って、『うおー七回全部ヒットしたー』とか回数数えて喜んでるだけじゃない。全く理解できないわ」


 ヤレヤレという風のリーナ。


「何をー、ここぞっていうときに外れる弓の必殺技をヘンテコな台詞付きで撃ってるよりもマシだろ。マゾかお前は、外れたときどんだけ恥ずかしいんだよ。『射手座は全てを貫くサジタリウス・アロー』、スカッ、0ダメージとか見てられんわ」


「大きなお世話よ。あーやだやだ、一撃必殺の賭けに出られない肝っ玉の小さい男って」


「こっちだって胸の小さいお前みたいな女はみとめねーぞ」


「うわっセクハラきたわー、きちゃいましたわー、サイテークズ男」


「何ー!!」


「何よ~!!!」


 いつまで続くのだろう、この不毛な争いは。

 さすがに周りがうんざりしかけたその時――


「ユウト、リーナ、その辺にしとけ、ここだと周りに迷惑だ」


「ぎ、ギルド長!」


「セリアン!?」


 割って入ったのは、二人が所属するギルドの長、セリアン。

 他のギルドにヘルプを頼まれるほど優秀な盾役タンクであり、彼に一目置かないものはいない。


「ユウトがいけないんですー。私の弓を全然認めないから」


「そういうリーナだって俺の二刀流のことボロカスにしか言わないだろ」


「当たり前じゃないそんなの。文句があるならその体、弓でぶちぬくわよ」


「望むところだ。こっちだって二刀流で切り刻んでやる」


 顔をつきあわせて罵り合う二人の頭をガシッとつかむギルド長。


「こらこら、ここでは周りに迷惑だと言ったばかりだろう、お前達……まあでも、それもいいかもしれないな」


「「えっ?」」


「お前達、PvPプレイヤーバトルしろ」


「「えええええ!?」」




 ……




「ギルド長……どうしてですか?」


「こんな話聞いてないです。普通のPvPプレイヤーバトルだったんじゃ……」


 二人がPvPプレイヤーバトルのために連れてこられたのは『霧深き森』と呼ばれるエリア、その昔魔法使いが魔法生物の実験に使っていたという設定で、魔法生物が多いエリアだ。


「大丈夫だ、周りにいたモンスターは俺が全部狩っておいたから」


 セリアンはこともなげに言う。


 彼はハイレベルの盾スキル持ちで、おまけに回復スキルもあり、所持する剣は攻撃回数がプラスになるものだから、このあたりのモンスターならば相手にならず、文字通り一人で無双できるのだろう。


 でも二人にとってはそれが問題ではなかったらしい。


「「そういうことじゃありません!」」


「じゃあどういうことなんだ」


「武器ですよ、武器。どうして俺がリーナの弓使わなきゃいけないんですか?」


「そうですよ、セリアン。私が、ユウトの片手武器なんて無理です」


 ネクストドリーム・オンラインのPvPプレイヤーバトルルールは、プレイヤーの自由に設定ができる。

 今回二人は話の流れでセリアンにすべてお任せだったのだが、彼の指定したルールは、武器を交換して戦うことだった。


「無理じゃないだろう、装備できてるし」


「でも弓なんて俺装備したことありません」


「私も片手剣なんて……」


「今更グダグダ言うんじゃ無い。それ、開始だ」


 彼の姿が消えた。

 PvPのマスター権限を行使したとみえる。

 他のプレイヤーが混じることがないルールが今適用されたのだろう。


「ちっ、仕方ない。やるぞリーナ」


「……そっちがその気なら仕方ない、えい」


 リーナは言いながら、つっと近寄って、いきなりユウトに一閃。


 しかし二つの剣の片方はかわされ、もう一方は弓で受け止められた。


 近接戦闘に特化し回避の高いユウトに、遠隔に特化し器用さの高いリーナ。

 この二人の特性の結果だろう。


「あーちょっと私の弓で受けないでよ。傷むでしょ」


「そんなこと知らねーよ。お前がいきなり攻撃してくるからいけないんだろ」


「だって仕方ないじゃない、これ殴ることしかできないんだから。あーもう弓撃ちたい」


「こっちだって剣で斬りたいさ。避けることしかできないとはな」


 次々襲い来るリーナの斬撃をかわしながら、後ずさるユウト。


「しかたない、奥の手を使わせてもらうぞ、幻惑ミラージュ


 言葉とともに複数のユウトの体が現れる。

 これはいわゆる分身の術。


 二刀流は前衛ではあるが、重鎧が装備できず、盾が持てない分防御が薄い。

 だから回避に特化する必要があり、このスキルは取得が必須とされている。


「あー、ずっるーい」


「何とでも言え~」


 捨て台詞を残すと、ユウトの群は一斉に森の中に散っていく。


「待ちなさーい」


 リーナはその後を追う。





「随分奥まできちゃったな……あっ!」


 スッと目の前を矢が通り過ぎた。

 続いて何本か矢が飛んでくる。

 かわしつつ、木の陰に隠れるリーナ。


「まったくノーコンね。でも大体の位置はつかめたよっ、シャドー


 彼女の姿が消える。

 これはいわゆる気配遮断スキル。


 布系の防具しか装備できず、前衛と比べものにならないほど防御が薄い弓使いは皆移動中にモンスターから身を守るためにこれを覚える。


 時間制限有りの効果で、しかも攻撃態勢にうつると消えてしまうけれど、効果中は誰にもターゲットされない。但し攻撃自体は当たらないわけではなく、モンスターの範囲攻撃などはくらってしまう。


 それはユウトの矢がたまたま当たっても同じなのだが、彼女は、まだ、何本か飛んでくる矢を全く気にしていなかった。


「ユウト、アンタの矢は読みやすいよ」


 無作為に撃った矢がリーナにあたって、シャドーの効果が切れることを狙っているのだろう。

 しかし、残念ながら狙いがワンパターンだった。


「よし、チェックメイトよっ」


 矢を打ち続けているユウトを至近距離でターゲットする。

 彼女は剣を振り上げる。

 その時――


「えっ!?」


 ユウトが引き絞った矢は、彼女に向けられていた。


「俺の弓とお前の剣どっちが早いか比べてみるか?」


 ニヤリとしながらキザな台詞。

 その笑顔を前にリーナは硬直する。


「ユウト、アンタ……」


「わざと矢を撃たない方向を作って誘い込んだんだよ。前に教えてもらった追い込み方で悪いが、これで俺の勝ちだな」


「何言ってるのよ、攻撃速度はこっちのほうが早いんでしょ。アンタ言ってたじゃない、攻撃の速さこそ、二刀流のいいとこだって」


「ああ、そっか、そうだった。弓連射するのが気持ちよかったから忘れてた」


「そうよー気持ちいいんだよ、弓」


 二人の視線が交錯する。


「……」


「……」


「なあ、リーナ」


「なによ、ユウト」


「俺たち何でこんな勝負してるんだっけ?」


「私もちょっと今それ思ってた」


 二人の間に、和やかな空気が流れ、互いに武器を下げた。


 丁度その時――


「あぶない、リーナ」


 ユウトがリーナを抱きかかえて飛んだ、まさにその瞬間に付近の木から熱線。


「なになに、何なの?」


「これ、木じゃない、ウッドゴーレムだ」


「ええっ!」


 よくみると確かに枝では無く手、それを振りかざし攻撃してくる。

 飛びのく二人。


「リーナ、剣くれ」


「私も、弓頂戴」


 攻撃をかわしながら、互いの武器を交換した二人。


「俺がひきつけるから援護頼む。いけそうなら必殺技で!」


「まかせてっ! 痺れ矢、腐食矢くらいなさい。ユウトは絶対やらせないっ」


 これは互いの武器のこと、をよく知る二人だからこそできるコンビネーション。


「いっけー、八極斬」


射手座は全てを貫くサジタリウス・アロー


 二人の必殺技により、ウッドゴーレムの体は光に包まれた。




 ……




「いやーすまんすまん。まさかあそこにウッドゴーレムが現れるとは思わなかったんだ」


 謝るセリアン。


「いえいえ、ギルド長。ひさびさに手応えがあってスカッとしました。最後も俺の必殺技で決められましたし」


「何言ってるのよ、決めたのは私の『射手座は全てを貫くサジタリウス・アロー』だったでしょ」


「何言ってんだよ、二刀流のほうが攻撃早かったろ」


「ダメージ絶対足りてないって、絶対私の弓もヒットしてたし」


 やっぱり二人の言い合いは終わりそうも無い。

 きっと相手に自分の武器が最高だと言わせるまで、続くのだろう。

 互いの想いなど、もう既にわかっているのに。


 二人の戦いの一部始終を見ていたセリアンは、深いため息をつきながら、天を仰ぐのだった。

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