第四話

「…幼い頃ですか?」


私は首を傾げます。

カージナス様の幼い頃は、きっと可愛い感じですよね…。

そんなカージナス様に会った事なんて…。



『ローズ。大きくなったら迎えに行くから待っててね!!』


サファイアブルーの瞳に涙を浮かべ、幼い私の両手をギュッと握り締める少年が記憶の隅から出て来た。


まさか…アレですか!?


「思い出してくれたみたいだね。」


「え…でも、髪の色が違いませんか…?」


瞳の色は同じだけど、あの少年の髪の色は金色だった。


「子供の頃の髪の色が変わる事なんてよくある事だよ。」


「そう…ですか?」


ジーっとカージナス様を見つめる。

言われてみれば面影は残ってる…?


「そうだよ。それなのに…君は忘れてしまったなんて、寂しいな。あの時から僕は君だけのモノなのに。」


瞳を伏せるカージナス様。


ズキッ。罪悪感と言う名の動悸がしました。


「カージナス様…申し訳ありません。」

だから、私は素直に頭を下げた。


「それは、どっちへの謝罪?」


どっち??


「昔の約束を忘れていた事への謝罪?それとも今回の婚約を断る事への謝罪?」


「それは…」


「両方?」


にこやかにそう尋ねたカージナス様ですが、その瞳は全く笑っていません。


カージナス様は、私の耳元に唇を寄せて、

「駄目だよ。僕は君を逃がすつもりはない。」

そう囁きました。


ゾクッ。

私は耳元を抑え、バッとカージナス様から離れました。


「ローズの中で、僕は二番目にもなれていないみたいだけど…。他の男の元に嫁ぐ事だけは絶対に許さないから。そうだな…シャーロットには領地に戻ってもらおうかな…。」


「どうしてシャーロット様の名前が出て来るのですか…?」


「僕が気付いてないと思っていたの?オルフォードの果実酒。」


ドキッ。

え?え?


「ローズが一番好きな物は果実酒でしょ?僕なら最高の果実酒を君にあげられるんだけどな。」


コテンと首を傾げ、あざとい笑みを浮かべるカージナス様。


うっ…。『最高の果実』の誘惑に揺らぐ自分が恨めしいです…。


「ははっ。まあ、沢山悩めば良いよ。どうせ逃げられないし。今は二番目の候補者だけど、近い内に一番になる。…というか、ローズで決定だけどね。」


「…どうして私なのですか?」


恨めしい気持ちを込めてカージナス様を見る。


「内緒。」

カージナス様は、口元に人差し指を当てて微笑む。


「そんな…!!」


「どうしても教えて欲しいなら、頬にキスして?」


「……なっ?!」


「じゃあ、教えない。」


クスクスとまた楽しそうに笑うカージナス様。


「早く嫁いでおいで。たくさん愛してあげるから。」


「行きません!!」


ローズの淑女らしからぬ叫びが、ステファニー邸に響き渡った。


*******


後日。

ローズはカージナス様のに決まった。


愛を囁きながら追うカージナス第一王子と、逃げるローズの攻防が結婚式まで続いたとさ。




fin.



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二番目の婚約者候補の受難。 ゆなか @yunamayo

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