第三話

「婚約者候補の令嬢達とは、しっかり自分の目で見て、話がしたいんだ。」


目の前でニコニコとした笑顔を浮かべるカージナス様。


「…そうですか。それはとても素晴らしい事だと思いますわ…。」


名前だけの婚約者候補の筈なのに…どうしてこうなったのですか!?



*****


わたくしは、テラスでのんびりとティータイムを満喫しておりました。


本当はワインが飲みたい所ですが、まだ日も明るいですからね…。


「お、お嬢様!!」

普段は凛として落ち着いている侍女のリンダが、バタバタと酷く取り乱しています。


「あら、どうしたの?リンダ。」


「カージナス殿下がいらっしゃいました!!」


…はい?


「…もう一度言ってくれるかしら。」


「カージナス殿下がお一人でご来訪されました!!」


はっ?!

しかも一人で来たと?!


コホン。…いけませんね。取り乱し過ぎて言葉遣いがおかしくなってしまいましたわ。


「リンダ…手伝って。着替えます。」


こちらには用意があるのですから、来るならせめて連絡が欲しかったです…。


「その必要はないよ。」


私の行く手を遮る声が聞こえました。

ハッと後ろを振り返るとそこには…。


「で、殿下!?」


「そのままで良いから。」


微笑むカージナス様が、我が家の執事を背後に置き、そこに立っておりました。


カージナス様の無言の圧力に耐え切れず…。

そのままテラスでカージナス様とお話する事になったのですが…。


「あ、あの…殿下…」

「カージナスで良いよ。」


いえいえ!呼べませんよ!!


「『カージナス』。ほら、言って?」


「……か、カージナス様。」


「んー、まあ良いか。」


フッと笑みを深めるカージナス様…。

どうしてそんなに甘い笑みを私に向けるのでしようか?


もしかして…カージナス様は女癖が悪くていらっしゃる…?


「…何か失礼な事を考えている顔だね?」


「あ、いえ…。」


クスクスと楽しそうに笑うカージナス様。


ええと…近いです。

そんな瞳を覗き込む様に見ないで欲しいです。意識している訳ではないのに、頬が赤らんでしまいます。


「暫く見ない内に、益々綺麗になったね。」


優しい眼差しで、こちらを見つめるカージナス様。


…え?

私は目が点です。


記憶の隅々を辿ってみても、カージナス様との接点は見つかりません。


「ローズは酷いな。結婚の約束をした仲だと言うのに…。」


結婚の約束?!


「…カージナス様。どなたかと間違われてませんか?もしかして、私のお姉様とか…。」


「そんな事ないよ。幼い頃に結婚の約束をしたのは君だ。ローズ。」

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