第二話

それは、三日前の夜の事でした。


「すまない…ローズ。」


ディナーの席で頭を下げるお父様。

私はワイングラスをそっと置いて、お父様を見つめます。


「カージナス様の婚約者候補になった。」


「…お父様がですか?」


「馬鹿を言うな…。お前だ。ローズ。」


すまなそうな顔で私を見るお父様からは、冗談の気配は感じられません。


えー…。


「嫌です。」

即答しました。


「しかし…ローズ…。」

「断って下さい。」

懇願の眼差しを向けられましたが、私はツンとそっぽを向きます。

王子様相手なら、誰しもが嫁ぎたいと思われるのは癪です。


「ローズ…頼むから話を聞いてくれ…。」


「ローズちゃん。お母様からもお願いよ。お父様のお話を聞いてあげて頂戴?」


はぁ……。

お母様がこう言うのであれば仕方ありませんし…、一見強面なお父様が瞳を潤ませているのがちょっとだけ可愛かったので、渋々話を聞く事にしました。


今回、婚約者候補に上がったのは私を含め、四名の令嬢です。

一番目の候補のアスター公爵令嬢のミレーヌ様。二番目は私。三番目はマスール伯爵令嬢のアンネ様。四番目は男爵令嬢のナタリー様。

私がなのは、家格の都合上の事だそうです。


お父様の話によると、初めは私を抜いた三名の中から選ぶ予定だったそうなのですが、カージナス様が何故か私の名前を出したそうなのです。


「…カージナス様が?」


「ああ、そうだ。カージナス様が、お前を候補に入れて欲しいと言ったのだ。」


…意味が分かりません。

この国の上位の役職に就いているお父様ですが、娘の私はカージナス様との直接の面識は無い筈です。他国に嫁いだお姉様とは会った事があるみたいですが…。


しかし…王族からの要請を拒否する事は出来ません。


「…分かりました。でも、名前だけですからね?私は何もしません。それでも良いのでしたら…」

「構わない!!」


「…分かりました。」


こうして不本意ながらも婚約者候補となった訳です。

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