2
関くんマジック
目を開けたら、目の前に関くんがいた。痛む頭と、腰。昨日の色っぽい関くん。そこまで思い出して、恥ずかしすぎて頭を抱えた。
二年ぶりだったからやっぱり少し痛かった。関くんはそれに気付くとちょっと笑って
『俺以外誰にも抱かれてないんだ』
と言った。恥ずかしくて顔から火を噴きそうだったけれど、関くんはぎゅっと抱き締めてくれた。嬉しい、と。胸がぎゅっと締め付けられて愛しさが胸から溢れ出して、私も必死で関くんに抱き着いた。
昨日一回の出来事を思い出すだけで恥ずかしくて死にそうになるのに、世のカップルはこんなことにならないのだろうか。回数を重ねれば慣れるのだろうか。いや、慣れないよ。だって昨日より今日のほうが、関くんのことずっとずっと……
「……はよ」
「~~っ」
ほら!昨日の数百倍かっこよく見えるよ?!何で?!マジックだ!!
関くんはまだ眠そうに目を擦って私の肩を抱き寄せた。関くんの腕枕は固くて寝心地がいいとは言えないのに、何故か安心してよく眠れる。これも関くんマジックだと思う。
「今日どっか出掛ける……?」
「えっ、う、どっちでも!」
こういう時に自分の希望をハッキリと言えるようにならないとな。みやちゃんにもいつも言われるのだ。でも本当に、関くんと一緒なら何でもいいんだもん。
「もうちょっと寝ていい……?」
時計を見れば、まだ朝の6時。もちろんいいよと答えれば関くんは目を瞑った。
いつの間にか私も関くんの腕の中で眠ってしまっていたようだ。目覚めたら、関くんは私を腕枕したまま携帯でゲームをしていた。私が起きたことに気付くと、彼は携帯から目を離しふっと笑う。そして当然のように唇に軽いキスを落とす。
「おはよ」
「っ、お、はよ。ご、ごめん、腕疲れたよね」
「んーん。いいからまだ、離れないで」
急いで離れようとした私を、関くんはぎゅっと抱き締める。昨日のまま、つまり二人とも服を着ていないから素肌で触れ合うことになる。ドキドキして、なのに心地よくて。壊れそうな心臓を抱えたまま、私は関くんの胸に顔を埋めた。
「お腹空かない?」
「空いた」
「私何か作ろうか?」
「うーん……、食べに行こう。七瀬さん体怠いでしょ」
「うっ……」
彼の言葉が意味することを分からないほど子どもじゃない。でもこの倦怠感が嬉しいとか、愛しいとか思うほどには。私は関くんに恋をしている。至近距離で見つめ合うと、彼の瞳がよく見える。涼しげで色素の薄いそれに恥ずかしそうで、でも幸せそうな自分が映っている。関くんはふっと目を細めて、私を抱き寄せた。
「……昨日ちゃんと言ってなかったけど。俺、七瀬さんのこと好き。すっげー好き。もう離したくないって思ってる」
「関くん……」
「逃げてもいい。悩ませたり不安にさせたり泣かせたりするかもしれないけど、俺頑張るから。二度と手の届かないところに行かないで」
「っ、」
二年間。私が必死で関くんを忘れようとしている間、彼はどんな気持ちで過ごしていたのだろう。私を忘れないように思っていてくれていたなら、嬉しいと思ってしまう。こうやってまた抱き合えることが、幸せだと。
「も、もう一回する?」
愛しくて少しの距離がもどかしくてそう言えば、関くんは一瞬目を丸くした後嬉しそうに笑った。
結局出掛ける準備ができたのは夕方に近い時間だった。お腹が空いて仕方なかったからまずお気に入りのカフェで食事をした。二人ともあまり喋らないから会話はそんなになかったけれど、手を繋いで歩くのが幸せだったし沈黙も苦じゃなかった。目が合った瞬間に優しくなる関くんの顔に、私は何度も蕩けた。心ももちろん、体も。きゅうんと胸が締め付けられる、そんな感覚関くんに出会うまで知らなかった。
カフェを出ると、私たちはレンタルDVD屋さんに行った。お互い観たいDVDを選んで、スーパーに寄って帰った。今日は簡単に出来る鍋をすることにした。
関くんは鍋の準備を手伝ってくれた。でも野菜を切るのはもちろん私の担当。関くんに包丁を握らせると惨劇が起きる。二人で鍋を食べて、お風呂には先に私が入った。一緒に入る?と言われたけれど、さすがにそれは私には刺激が強すぎた。……まぁ、全裸明るいところで見てるんだけどね。関くんも昨日私の体見たただろうけど、暗かったし。まだ無理。
私の後に関くんが入って、上がってくると借りてきたDVDを観た。私が借りたのは洋画のしっとりとしたラブストーリーだ。ずっと観たかったのだけれど、みやちゃんはアクションかホラーしか観ないのでラブストーリーを借りるのは禁止されていた。
すごくいい映画で、泣いてしまった。グスグスと鼻を鳴らす私を見て関くんは笑って、タオルを持ってきてくれた。そのタオルで涙を拭いて、関くんの肩に頭を置いた。関くんは私の頭に頭を寄せて、寄り添うように映画を観た。もちろん恋愛経験0の私はそんな経験は初めてで、映画がエンドクレジットになった瞬間肩を抱き寄せられてキスされたのも初めてだった。
「いい映画だった」
「うん、そうだね」
「幸せになれてよかった」
「はは、うん」
額、頬、唇。何度も唇を落とされて、くすぐったくて幸せ。微笑み合うのがこんなに胸が温かくなるなんて知らなかった。
次に、関くんが借りてきたDVDを観た。関くんが借りてきたのはホラーだった。ずっと観たかったんだと目を輝かせる関くんにみやちゃんと同じものを感じてちょっと引いた。私は別にホラーが苦手というわけではないけれど、得意でもない。普通に観ている関くんと、普通に観ているように見せかけてたまにビクッとする私。みやちゃんのせいで耐性ができたとは言え、今日借りてきたのはとにかく怖いと有名なもので。
「今日夜中トイレ行けるかな……」
「ついていってあげるよ」
一緒に寝ること前提で言う関くんに、今度は赤面する羽目になった。
やっぱりその夜も一緒に寝た。昨日もしたのに、そう思ったけれど私も関くんに触れられるのは嬉しかったから関くんを受け入れた。
「二年我慢したからガッついてる、ごめん」
そう微笑まれれば何も言えなくて。キスをしてほしいと思った時にしてくれるからとても不思議だった。関くんは私の心を透視できる能力でもあるのかと思った。
そして次の日の日曜日もそんな甘い休日を過ごしたのだった。
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