#30 シンデレラ少年の魔法は解ける

「……では、とりあえずではあるが。期待通りにならなかった、その残念な収穫を祝い。皆さんの奮闘をねぎらって!」


 進行役であるナイトラスの音頭に合わせて「「「かんぱーい!」」」の声が響き渡り、皆が互いにグラスを打ち合わせた。俺も遅れてオレンジジュースのグラスを掲げ、なるほどなあと納得する。

 あれからアイリスに連れてこられたのは、見慣れた捜査局のカフェテリアだった。ただし時間は七時を回ったところだから、昼間ほどの混雑はない。むしろ半分くらいの職員はとっくに捜査局の寮(都内のどっかにあるらしい)に帰っているから、言ってしまえば閑散としている。

 そんなカフェテリアを占領し、食べ物飲み物をこれでもかという勢いで並べまくって開かれていたのが、この『レプリカ作戦お疲れさま残念会』だったというわけだ。

 名前こそ残念会というネガティブなものではあるが、意外と盛大な催しである。参加者は風紀課や強行班を中心とした、レプリカ作戦に関わった各部署の人たち。それから、特に関係はなくてもこういうイベントごとが好きで参加した職員が何人か。のべ数十人にはなるだろうか。

 俺はこんなに多くの人たちに期待されていたんだなと、今さらに思い知った。いろいろ謎があるとはいえ、結果的に彼らの努力や信頼を裏切ってしまったことにも思いが及ぶ。考えても仕方ないんだけどさ。


「ほれ、観行どの。主賓がそんな顔をしていては、盛り上がらんでござろう」


 いつの間にかうつむいていた顔をござる言葉に向けてみれば、そこにはまったく見覚えのない美女がいた。やたらクネクネした色っぽい動きで、俺の隣に座ってにじり寄ってくる。が、俺はもう騙されない。


「ウロギリさん。もうわかりますって、さすがに」


 言うや、美女は苦笑しながら煙に包まれ、やがて見慣れた無精ヒゲのおっさん忍者へと姿を変えた。俺は喉に入った煙にげほげほと咳き込みながら、


「っていうか、主賓なんですか、俺?」


 ウロギリさんはその辺に並んでいたピザを一切れつまんで、


「当然。なんのために拙者らがせっせとサプライズの準備をしておったと?」


 ……サプライズだったのか。考えてみれば俺が連れてこられたその場でパーティが始まったわけだから、そう思ってしかるべきだったんだ。とはいえアイリスの報連相不足は今に始まったことじゃないから、単に俺があいつに予定を知らされていなかっただけだと思ってた。


 そういえば、アイリスはどこに行ったんだろ。最初は俺の隣にいたはずなのにな。俺は忍者に倣ってピザを頬張りながら、残念会に集まった顔ぶれの中を見渡した。

 ロボの図体がでかいから誰より目立つナイトラス、いかにも清楚な回復僧侶って感じの少女は医療部門の子で、ドリンクバーでジュースをあれこれ混ぜているのは、中二病を絵に描いたような黒衣と眼帯の美男子。

 アイリスはそういったいつにも増して世界観が入り交じった面子からひとり離れて、窓際で秋葉原の夜景を眼下にたそがれていた。手にはいつものブリトーを一本だけ持って、もそもそと食べている。

 その儚げな姿はどこか思い詰めているようにも見えた。というか確定だろう。いつものあいつの健啖ぶりを思えば、ブリトーが一本だけなんて小食にもほどがある。

 これは絶対に何かあるな、と思ったのが命取りだった。最初はまあいいかと目をそらしたのだが、ジュースを飲んでも肉を食ってもその場にアイリスがいないことがどうにも気になって、ついつい窓際へと視線を注いでしまう。


 やっぱ、こういうときは何か言葉をかけたほうがいいんだろうか。しかしラブコメでもあるまいし、適当な一言で女の子を元気づけるなんてことが俺にできるはずもない。そもそも考えてみれば俺はアイリスのことを何一つ知らないわけだし。友人としてのフラグすら怪しい。


 だけど、それでも。今の俺に言えること、言いたいことがあるとしたら。


 俺は意を決して立ち上がった。頭に浮かんだ言葉は別に格好良くもなんともない。むしろ情けないものだった。だけど胸を張って言えるのはそれぐらいだ。 

 俺が自信を持てるのは、俺がアイリスに何かをしてやれるってことじゃない。これまで彼女が俺に何をしてくれたかの方だ。

 そう、言いたい言葉は「ありがとう」だ。思えば俺はこれまでずっとあいつに助けてもらい、引っ張ってもらい続けてきたんだからな。そしてそれはきっと、こんな場でもないと言えない。


 だけどアイリスの元へ向かおうとする俺を、「おい!」と乱暴な声が呼び止めた。

 振り向こうとするより先に、丸太めいた黒く太い腕が俺の首を捕まえて、とびきり賑やかな一団の中へと引きずり込んでいく。

 椅子の上に投げ込まれるようなかたちで解放されてみれば、俺を捕まえたのは強行班の黒い獣、キャプテンだった。そういやレプリカ作戦のときはギリギリのところを助けてもらったんだっけ。

 見れば周囲の面子は基本的に威圧感が強めで、カノプスのアジトの中で見た覚えのある顔もいくつかある。ここは強行班の席ってことか。


「いや、少年! おまえは実際よくやった! 残念ながらよくやった! 俺は感動した!」


 だいぶ酒が回っているのか、キャプテンはほとんど呂律の回っていない口でそうわめいて、俺の背をバンと叩いてきた。あまりの圧倒的パワーに心臓が止まりそうになる。

 キャプテンは反応を決めかねている俺に気をよくしたのか、強行班のメンバーに向けて俺を指さし、


「見ろ、おまえら! こいつがカノプスを殴った男だ! 潜入捜査で敵に囲まれて、そこで殴りつけるこの気概。 俺は感動した……!」


 言うなり机に突っ伏して泣き出した。キャプテン同様に酒が入っているのか、強行班の皆さんはその様子を前に示し合わせたように大爆笑した。

 なんか、もう誰が何をやっても面白い領域に突入しているようだ。こいつが噂の体育会系ノリってやつか。

 せっかく仲間に入れてもらって申し訳ないのだが、今はとりあえずアイリスのところに向かわなければ。何とかしてこの場を失礼させてもらおうと、トイレの言い訳を申し出ると、


「ばっか、お前。そんなもんはな、そのへんでしてくればいいんだよ!」


 完全に酔っ払っていらっしゃる。これじゃ何言ってもキリがないな。どうしたもんかと戸惑っていると、ふいにびびびっと音がして、キャプテンが机に突っ伏して気絶した。そしてまた大ウケだ。

 見ると、キャプテンの背後には見覚えのある皺くちゃの宇宙人が光線銃を構えて立っていた。一瞬ぎょっとするけれど、宇宙人はワニャワニャと言いながら「早く行きな」と手振りで伝えてくる。


「……あ。もしかして、助けてくれたのか?」


 訊いてみると、宇宙人はまたワニャワニャと何事か言いながらサムズアップを返してきた。相変わらず何を言ってるのかはわからないけれど、他の捜査局メンバーと同じで日本語は通じるんだな。コミュニケーションが成り立ったことにちょっとだけうれしくなる。


 しかし。せっかくの宇宙人の協力にもかかわらず、アイリスはとっくにみんなの輪の中に戻っていた。忍者水芸でウケを取っているウロギリさんとナイトラスの間でテンションが低いなりに談笑しているその様子はいつもと変わらない。思い詰めているってのは俺の考えすぎだったんだろうか。

 どこに戻ったものかなあと逡巡していると、ちょうど見知った金髪美人が俺を手招きしてくれた。いつの間にか退院していたマリナ先輩だ。


「……いっつもこうなんですか、捜査局って?」


 他に行くところもないので隣に座って、たった今にすげえものを見た勢いで訊いてみる。何か事件が終わるたびにこれをやっているなら、いくらなんでも愉快がすぎる。

 マリナ先輩は苦笑して、


「毎日がこんなお祭り、というわけでもないのですけどね。最近だと、アイリスが捜査局に加わったとき以来ですかしら」


 そうなのか、と感心すると同時に、後半の部分が気になった。自らを退屈で残酷な世界の住人と自称するアイリスは、戦闘能力を抜きにすれば他の異世界人たちとだいぶ毛色が違う。あいつはそもそもどういう経緯で捜査局に来たのだろう。

 俺のように異世界間の犯罪に巻き込まれてか。もしくは未だに俺の中で根強いアサシン説みたいに元々なんらかの組織に属していて、そのツテでこの仕事に就いたとかなんだろうか。

 やっぱり謎の女だな、と考え込む俺を横目に、マリナ先輩は何やら嬉しそうな顔でグラスを傾けて――――あとから思えば致命的な凶器のような一言で、俺を射貫いた。


「観行さんも。楽しそうでよかったですわ」


 一瞬、言葉を失った。それから、ぶん殴られたような衝撃が全身に走る。


「……楽しそう? 俺が?」


「ええ。とっても楽しそうですわよ」


 いや。そんなことはない。今だって、次から次へと起こる面倒ごとの数々に疲れ呆れ果てていたところだ。

 だいたい、こういう体育会系っぽいノリとかワイワイガヤガヤの喧噪とかは苦手なんだよ。『みんな仲良く』の学級目標とか、考えるだけで頭が痛くなるし。

 そりゃ、アイリスやウロギリさんやナイトラス、それからマリナ先輩たちとこんな風に食事したり話したりできるのは悪い気分じゃないさ。酔い潰れつつあるキャプテンや宇宙人だって、愉快なやつらだとは思う。正直言って俺はみんなが好きだし、一緒にいられて楽しくなくも……ないよ。


 だからって……


 いや。正直に言えば、確かにマリナ先輩の言うとおりなのかもしれない。

 だって、思えば捜査局に一歩足を踏み入れたあの日から俺の世界観はメチャクチャで、起こる出来事のすべてが波乱に満ちていて、そんなのがいつの間にか日常になりつつあったから、こうやって正面から指摘されるまではまったく自覚がなかった。


 そうだよ。楽しいんだ。今この残念会も、これまで捜査局でみんなと過ごしてきた毎日も、俺には楽しくて楽しくてしょうがないんだ。

 ある日突然突きつけられた世界観は、物語の登場人物がみんな現実にいるという荒唐無稽なもので。

 捜査局で出会った面々は、どこを取っても面白いとしか言えないバリエーションに富みまくった奴らで。

 俺は自分自身の損得もあれど、異世界を食い物にするカノプスを許せないと思って、だからあいつらと一緒になって、カノプスの野望を挫くためにがんばって。


 そうだ。こんな充実した毎日を過ごせるなんて、楽しくないわけがないじゃないか。


 そうやって回顧した記憶のひとつひとつが、ふいに過去に見た小さな夢とつながった。

 鉄騎姫アルティアへの憧れ。グラスタリアで冒険する理想の自分。周りには仲間がいて、俺はそいつらと一緒に、何か大切なことのために格好良く戦う――そんな幼い、夢小説じみた夢と。

 

 ああ、そうか。そりゃ楽しいわけだよ。

 同じなんだ。今の俺が捜査局で過ごしてきたこの日々は。俺が最初に思い描いてた、あの夢みたいな異世界転生物語と。

 今思い出しても恥ずかしい、どうあがいたって黒歴史モノの、だけどずっと願っていた異世界転生物語、あれにそっくりだったんだ。


 そして俺はやっと自覚する。自覚してしまう。

 

 俺が本当に欲しかったのは、こういうものだったんだ。

 

 最強のチートでもハーレムでもない。好きになれる仲間がいて。そいつらと一緒に、正しいと信じる何かを、心から大切だと思える何かを成すことができて。

 俺は、自分の人生に誇りが持てるような――――今の俺じゃない何者かになれて。

 本当は異世界転生なんて、証人保護プログラムなんて望まなくても、これだけでよかったんじゃないか。


 そして俺は、今まで考えもしなかったそのことを、考えるまでもなくバカみたいに当たり前なそのことを、ようやく真剣に受け止めた。


 この日々は、いつか終わるんだ。それも、そう遠くないうちに。


 レプリカ作戦が終了した今、俺が捜査局にいる意味なんてない。置いてもらえているのは上層部が処遇を決めあぐねているからで、それが決まれば遠野観行が捜査局にいる理由はなくなる。


 どんな形であれ。俺はもう、ここにはいられないんだ。





 それからは本当に楽しいことがいろいろとあったと思う。ついに宇宙人までもが酔っ払って気絶光線銃を乱射したり、変身隠し芸を連発したウロギリさんが自分を忘却しかけたり、マリナ先輩がくどくどと現在のアニメ業界の在り方に異議を申し立てたり。

 けど、実を言うと俺はあまり覚えていない。笑ったり騒いだりすることよりも、頭と心を空っぽにしてなんとなく楽しんでるっぽい雰囲気を演じることに忙しかったから。

 気づけば宴もたけなわだった。キャプテンを初めとする何人かはとっくに酔い潰れていて、一時の混乱は鳴りをひそめつつある。未だに意識を保っている連中は大人しいもので、カノプス消失議論を初めとするさまざまな雑談に花を咲かせている。


 俺はといえば、さっきまでのアイリスがそうしていたように、ひとり窓際でぼんやりとたそがれていた。

 クラスから外れたはみ出し者、異世界人の中の地球人、勇者パーティの中の村人。言い方はなんでもいい。とにかく仲間はずれでいたかったんだ。本当は仲間でも何でもないんだから、俺があいつらの中にいること自体が不自然なんだ。

 俺はそこのところをずっと勘違いしていた。いつの間にか。状況に流されるままに。カノプスのそっくりさんでしかなかったくせに。俺があいつらの仲間みたいなものだなんて、痛くて痛くてしょうがない勘違いを。

 首に下がっている身分証がいい例だ。あらゆる能力を総合して算出したレベルはたったの1。あいつらと俺とじゃ根本的に何もかもが違う。実際にカノプスのアジトでも役に立たなかった。そこをもっと自覚するべきだったんだ。

 俺はまかり間違っても、心躍る物語の主人公なんかじゃない。サブキャラでもない。


「そうだ。いつもの言い訳通り。カノプスの言うとおりだったんだ……」


 自分に言い聞かせる。勘違いをするなと。俺はやはり、何者でもないんだと。

 そうひとりごちようとした途端、とんでもない刺激臭が俺の鼻孔を八つ裂きにした。


「ほぎゃあ!」


 思わず鼻を押さえながら飛び退いて見ると、いつの間にかナイトラスが俺のそばまで忍び寄っていた。こんなでかい図体が近寄ってきて気づかないなんて、我ながら迂闊すぎる。

 ナイトラスは手に巨大なグラスジョッキを握っていて、中には黄緑色に発光する液体が注がれていた。刺激臭の源はこれらしい。どう見ても人体には有害そうだ。


「いきなり何するんすか!」


 気のせいか、そのメタリックな顔面には悪戯な笑顔が浮かんでいるように見える。


「……心ここにあらず、だったからね。どうかしたのかい、観行くん?」


 ナイトラスは俺へかがみ込んで目の高さを合わせてきた。気のせいか、そのメタリックな顔面には悪戯な笑顔が浮かんでいるように見える。


「心ならありますよ。ちょっと考え事をしてたんです」


「そうか。それならいいんだ。なにぶん機械だからね。人の微妙な機微はわからない」


 おどけたその言葉はたぶんウソだ。日頃の言動や行動を見るに、ナイトラスには間違いなく感情がある。というか、そういう人情の機微にはヘタな人間よりも鋭い。こうやってバカな勘違いを頭から追い出そうとしている俺を見つけて近寄ってきたのが何よりの証拠だ。

 だから、俺はつとめて目をそらした。この精密機械の上司に目を合わせてしまったら最後、俺の情けない葛藤の何もかもが露見してしまうような気がしたのだ。


「アイリスくんがね。君に元気がないと心配していたよ」


 ふう、と息を吐いてナイトラスが言った。俺は心中で頭を抱えた。

 あいつ、俺のことなんか気にしてたのか。いなくなる奴のことなんか考えたって仕方ないだろうに。

 そう考えつつも、胸にはじわじわとむずがゆいものが沁みてくる。アイリスの名前が出たせいだ。


「そういうのって、普通は心配される当人に言わないもんだと思いますよ」


「私は機械だからね。空気が読めないんだよ」


 そのマシンジョークに頬を緩ませそうになって、だけど俺は無表情を通した。

 しばし無言の間があって、俺は結局残念会の輪に戻ることにした。辛くはなるだろうが、アイリスに心配をかけっぱなしでいるのも据わりが悪い。

 そういうわけで踵を返した俺の背を、なぜかまたナイトラスが呼び止めた。


「ああ、そうだ。観行くん」


 またなんだろうと足を止めると、ナイトラスはなぜか声をひそめ、


「……つい先ほど、上層部からお達しがあってね。君の功績が認められ、別世界への転生が正式に決まったそうだ。おめでとう」


 そう、教えてくれた。俺が願った異世界転生、まあまあのステータスを与えられての異世界ライフの成就を。

 だけど、なぜだろう。

 ついに叶った念願は、今の俺にはさほど嬉しく感じられなかった。


 それよりも――


「いつ、ですか?」


 気になったのはそこだ。俺はいつまでここにいられるのか。いつまで捜査局に、あいつらのそばにいられるのか。

 だけどナイトラスの答えは無情にも俺のはらわたを抉った。


「――三日後だ」


 三日後。一週間とか一ヶ月とかそういうキリのいい数字じゃなくて、たったの三日。何度もループする三日じゃない。正真正銘の三日間だ。

 俺はそんなにもわかりやすく愕然としていたのか、ナイトラスの声はやけに心配げだった。


「嬉しくなさそうだね」


「嬉しいですよ。これでようやく……」


 そうだ。これでようやく、俺はどうにもならなくなった人生をやり直すことができる。今度は引きこもりにもならないし、後悔もしない。やりたいことをやってやるんだ。

 だけど、それをどうポジティブに考えてみても。こうして実現することになった異世界転生は、かつて思い描いていたほど魅力的には思えなかった。


「嬉しいに決まってる」


 嬉しくないわけがないんだ。新しい人生だぞ。しかも特典つきで、生まれたときから人より優れてることが決まってる。劣ってることに苦しまなくてもいい。美少女とねんごろにだってなれるかもしれない。万全の人生だぞ。これが欲しくなかったら、俺は何が欲しいんだ。

 そうやって自分を納得させようと悪戦苦闘していたところに、ナイトラスはぽつりと、悲しげに――今の俺が一番言ってほしくない台詞の堂々たる第一位を口にした。


「寂しくなるね。思えば君も、まるで風紀課の一員のようになっていたから――」


 俺は耳をふさいだ。

 なんだよ、このロボ上司は。やっぱりマシンだから人の感情とか全然わかんないのか。言われた俺がどう思うかくらい、機械の体でもわかるだろ。

 なあ、ナイトラス。アイリスも。もう俺なんかに気を回さないでくれ。優しい仲間でいるのをやめてくれ。勘違いなんてさせないでくれ。

 だって、おまえらに優しくされると、俺は危うく言いそうになるんだよ。未だに往生際悪く、ありえないご都合展開を期待してることを。今さらになってやっとわかった、バカみたいに当たり前で、情けない願いを。



 ああ、そうだよ。



 俺は、ここに居たいんだ。

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