乗り越える力

兄弟

 リハビリテーション専門の病院ということで、似たような症状の患者さんが集まっていることは想像していましたが、ひとつ、これは奇跡だな、と思う出会いが息子にありました。


 既に書いていますが、息子の症状は、比較的症例の少ない、珍しいものでした。まず、悪性リンパ腫に6歳で罹患した事。合わせて、悪性リンパ腫を原因として、脊髄を損傷した事。狭き門の、更にその先に狭き門もくぐった様な、非常に珍しいものだと医師から聞かされていました。なので、当然、同じ症例の子どもに出会うことはないと思っていたのですが、息子はこの入院で、全く同じ条件、症状、症例の男の子に出会いました。


 わたしも息子から聞いたので、そういうものなのか、と思うのですが、リハビリテーション専門の病院で、同じ病棟にいると、子ども達は自己紹介の時に、大抵、自分はこういう事故、もしくは病気が原因で入院している、という話をするのだそうです。息子と同じ病気に罹患し、息子と同じ症状を抱えた少年は、息子のひとつ年下でした。どういうわけか、顔がそっくりで、週末、外泊の為、息子を迎えに病院へ行くと、急に弟が出来たのか、と思うような二人組になっていました。


 彼が息子と同じ症状を抱えるに至ったのは、息子よりずっと幼い年齢の時だった、と聞きました。リハビリテーション入院は毎年繰り返し、いまでは見違えるほど回復したという彼の姿は、車椅子上での姿勢も、車椅子の操作も、見事なもので、体つきも大きく、相応の努力を、見ただけで感じました。


 息子も同じことを思った様で、彼との出会いは大きな刺激になった様子でした。あいつもやってるから、という言葉を聞いたのは、一度ではありません。ひとつ年下とはいえ、リハビリテーションでは先輩になる存在。何より、殆ど歳の変わらない、本当の意味で悩みを共有出来る仲間と出会うことが出来たこの入院は、リハビリテーションそのものも勿論ですが、やはり、大きな意味があったのではないか、と思います。自分以外の誰かと出会い、世界を広げていく姿は、まだ6歳という年齢の息子が大人になっていく過程を、ちょっとズルして早送りで見ているようで、何だかとても頼もしく思ったのでした。

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