治療終了。そして、新たな問題

 2018年2月5日。この日、4コース目の投薬が終了。化学療法の投薬が全て終わり、最後の、免疫力低下から復調までの回復を待つ期間に入りました。投薬期間中、息子をベッドに繋ぎ止めていた点滴や採尿カテーテル等、その他あらゆる機器や管の類いが外され、息子は病棟の中を自由に、颯爽と車椅子で走り回っていました。回復期間というのに、信じられない位元気で、緊急入院した頃を思い出すと、ああ、本当に、治療が成功したんだな、と感じた瞬間でした。痙性は相変わらずあり、息子の身体に歪みの様な症状を与える事さえありましたが、兎に角元気でした。明るい性格で、父親の形質を受け継がなかったのか、どんどん話し掛けに行くタイプの息子は、ナースステーションに押し掛け、看護師の方々と、それまで話す事も儘ならなかった鬱憤を晴らすように、お喋りに花を咲かせて居たそうです。これは流石に、お前、お仕事の邪魔になる様な事はするなよ、と注意した記憶がありますが、兎に角、息子は、入院する前の姿を取り戻しつつありました。下肢が動かない以外では。


 この頃、時系列で言えば、恐らくこれより少し前からになりますが、我々親の方で、少しずつ動いていた事があります。6歳になった息子。保育園では年長クラスだった息子。と言う事はつまり、後2ヶ月もすると、義務教育が始まる、小学校に入学する、というタイミングでした。


 ここで問題になったのが、どの小学校に行かせるのか、という問題でした。勿論、何事もなければ、近所の公立小学校に通う予定でした。しかし、車椅子で通う事が出来るのか、排泄の問題はどうするのか等、何も用意せずにそのまま進学する事は出来ませんでした。そんな中、では、そうした障がいを持つ子ども達が通う支援学校に通うのはどうか、と言う提案も為されました。設備も整っているし、先生方も慣れている。身体の事を考えると、本人はすごく楽だろう、との提案でした。


 この提案に、直ぐに決めるのではなく、両方を実際に見て、どちらが息子にあっているのか、本人がどちらを希望するのかをちゃんと話してあげた方がいい、と話してくれたのは、やはり支援学校の先生でした。息子の入院していた病院は、巨大な病院で、しかも小児のみの為、そうした支援学校も併設されていました。その学校の先生と、何度となく打ち合わせをしました。息子の将来を考えるなら、どちらを選択するべきなのか。これは大きな問題でした。確かに、我々だけで決めてしまうべきではない、と妻と話し合い、まずは受け入れ先になる学校の様子を息子に伝えようという話しになりました。病院の支援学校にご協力を頂き、自宅近隣の支援学校の見学に、妻が足を運んでくれました。また、我々が暮らしてる街の教育委員会とも、息子が公立小学校に進学した場合を想定した意見交換を、病院を通して何度が行って頂きました。


 この病院の支援学校の先生は、わたしにこんな話をしてくれた事があります。本当は学習を見ていただけるのは、小学生になってからなのですが、あしげく息子の病室に通ってくださり、息子の性格や学習に対する取り組み方等を見てくださった後ですが、


「息子さんはとても、ちょっと見ないくらい前向きで、学習の習熟も早い。その性格をそのまま伸ばす為には、可能であれば公立小学校の方が合っているのではないだろうか」


 わたしも、同じ事を考えていました。確かに、肉体的な苦労は伴うけれども、それは我々が支えればいい。しかしそれは、公立小学校の回答次第、そして何より、息子の判断次第だ、と思っていました。以前にも書きましたが、我が家ではこれまでも、常に息子の意見も聞き取り、家族の一員として、考えるべき所を考えて貰い、一緒に同じ方向へ向かって歩いてきました。息子本人の未来の掛かった大事な選択を、病気になったぐらいで、我々親が勝手に決めていい訳がない。そんな考えで、妻と一緒に、妻が見てきた支援学校の様子を伝え、そのメリットとデメリット、公立小学校に通うメリットとデメリットを説明したのでした。


 病室で、それを真剣な眼差しで聞いていた息子は、少し考えた後に、ちょっと驚く様な発言をしたのです。


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