リツキシマブという可能性

 抗cd20モノクローナル抗体。その製剤としての名前が「リツキシマブ」と言うそうです。


 Y医師は今後の治療方針の説明をする中で、この薬剤の名前を出しました。これはその使用に、両親としてのわたし達の承認が必要であったからでした。


 いま、ネットで同様の名前を検索すると、成人の方のB細胞性リンパ腫に於いては、かなり高い確率で、これまでの抗がん剤と併用する形で、国内でも使われている様ですが、息子の治療が始まる時点では、まだ国内での化学療法の安全性は不十分、という段階でした。その為、使用には確認と同意が必要だったとの事。そうは言っても、アメリカ等では既に十分な臨床試験の結果があり、使用者の三年後生存率は95%との説明がありました。


 さらに、息子の下肢麻痺状態を考えるに、早急な治療効果が求められる状況でした。これら全てを鑑みてのY医師の提案でした。正直な所、提案を呑まない理由がありませんでした。どんな可能性にもすがりたいと思ったし、それが世界的なレベルで見れば、ちゃんとした治療成績の残っている物であれば、尚更でした。


 リツキシマブを加えた化学療法で、入院期間は約四ヶ月。治療開始一週間で効果を判定し、不十分であれば、治療を強化する旨が伝えられました。下肢の麻痺を改善する為に、迅速に、しかし、慎重な治療を行う、との事でした。それには「TLS」という症状も起こる恐れがあるからだ、と聞かされました。


 腫瘍崩壊症候群、という物があるそうなのです。その略称が「TLS」 簡単に説明して頂いた所では、ガン化し塊になった腫瘍細胞が、治療によって縮小、崩壊する場合、その腫瘍を形成していた細胞の老廃物は、腎臓へ集まり、外へ排出される事になるそうなのですが、この老廃物が過多だった場合、全身に様々な不具合を起こすという事でした。先にも書きましたが、息子はこの時、腎臓に転移がありました。当然、腎臓の機能は弱まっていたそうで、そこに来て腫瘍崩壊症候群が起これば、腎不全を起こし、これも命に関わる症状に成りかねません。


 ゆっくりと、着実に、急ぐ。これは全てのガン治療、腫瘍治療に言える事で、理不尽で非論理的な事を求められ、それに抗って行かなければならない物なのだ、と感じました。息子の治療も同様に、急ぎながらも慎重に行わなければならない、という状況から始まったのでした。

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