84%

 この文章全体の、キャッチコピー枠にも書いてしまっているので、ここでは簡単に書いてしまうと、息子の「後縦隔腫瘍」に付いた診断は、悪性リンパ腫、ステージⅢ期の物でした。


 これについて、より詳しく、正確に記載をすると、まず、悪性リンパ腫については、


『成熟B細胞性リンパ腫』の『バーキットリンパ腫』


 と分類されるものでした。


 息子が一般病棟に移り、少しした頃に、主治医のY医師に呼び出されました。そこで、病理診断の結果と、今後の治療方針の説明を受けました。


 一口に「悪性リンパ腫」と言っても、実は無数の分類分けがされています。まず、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別され、さらに変異した細胞によってB、T、NKと分かれ、そこからさらに幾つもの分類に分かれるのですが、その中のひとつが「バーキットリンパ腫」という種類なのだそうです。これは全てのガンに於いて言える事らしいのですが、一口に「◯◯ガン」と言ったとしても、その中身はとても細分化されていて、効果のある薬も、それぞれ異なるとの事でした。無数と言える分類に対して、効果のある薬を探して行く。だからこそ、正確な病理診断が必要なのだそうです。現状で、ガンの特効薬的な物が存在しないのは、どうやらこの辺りが原因のようでした。つまり、同じガンの中でも、ひとつ分類のレーンが異なれば、効果が見込めなくなる場合もあるらしいのです。


 ステージⅢという表記についてですが、ガンはその進行期に合わせて表記されるステージ(段階)があります。全部でⅠ~Ⅳまであり、息子に付けられたⅢの定義は、


「横隔膜を境にして、上半身と下半身の両方に腫瘍がある」


 という事でした。


 この時知らされた事ですが、つまり、息子の腫瘍は、既に背中だけではなく、転移している箇所が認められていました。この時の、医師の説明書類には、腎臓、すい臓、横隔膜と記載があり、転移箇所は背中の腫瘍に近い所で数ヶ所確認されていました。


 既に転移がある、と聞かされた時、わたしは強い衝撃を受けたことを覚えています。ガンの転移、と聞いて、余りいい事例を聞いた事がなかったからです。その後、ガン治療に於けるひとつの目安とされる五年後の生存率は、息子の場合は84%と告げられました。この数字を高いと取るか、それとも2割近くは亡くなってしまう、と取るかは、大きく分かれる所かと思いますが、身体の数ヶ所に転移がある事を聞かされた直後では、とても楽観的に聞く事は出来ませんでした。


 もしかしたら、それが顔に出ていたのかも知れません。そこでわたし達夫婦は、Y医師から、先にも書いた言葉を掛けられました。


「この病気は、正しく、精密な検査をしなければ、発見できる物ではありません。普段の様子から判断して、それが起こっている事など、まず分かりません。だからお父さん、自分を責めないで下さい。お子さんの為にも、責めないで上げてください」


 悪性リンパ腫という病気が、この言葉の通りに、一緒に過ごしている人間にも発見が困難な物なのか、いまのわたしにも分かりません。もしかしたら、Y医師の配慮だったのかも知れません。しかし、わたし達夫婦は、この言葉で、崩れ、立ち上がれなくなる程の衝撃を、どうにか踏み止まって受け止める事が出来たよね、と話しています。


 


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