第三話 全自動麻雀卓と発電機

 賭場は順調、何にも言う事ないね。

 でも、この賭場の特色みたいな物が欲しい。

 サイコロに手を触れずに振る魔道具なんてものも他の賭場では使われ始めている。

 札を使った賭けは昔からあるから特色にはならない。

 トランプもすぐ真似されるだろう。


 ルーレットもあるが、あれはイカサマの温床だ。

 なにせスキルを使えばボールを動かすなんて簡単に出来る。


 戦略性がある賭けが、あたしは好きだ。

 そういう賭け事をこの賭場の特色にしたい。

 アイチヤに賭博の知恵を借りよう。




「デマエニデンワ」


 あたしは呪文を唱えた。


 プルルルと神器から何時もの音がする。

 ガチャという音がして念話が繋がった。


 アイチヤに戦略性がある博打の道具を頼んだ。


 念話が切れ、少し経ってアイチヤがやって来た。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」


 アイチヤは何時もの挨拶をする。


「さて、どんな物か見せて頂戴」


 あたしの言葉にアイチヤはスキルでテーブルと取っ手の付いた黒い箱を出した。

 テーブルの上で黒い箱を開け中身を取り出す。

 二センチぐらいの駒が沢山ある。

 牌と言うらしい。

 これは偽造が難しい結構な事だ。

 ルールを簡単に聞いたがポーカーを複雑にしたみたいな博打だね。

 マージャンという名前だと聞く。


 四人でやる賭け事という事で従業員を三人呼んで始めた。

 捨てた牌の河から相手の手を予測するという事をアイチヤに聞いて考える。

 振り込まないよう考えたり、後欲しい牌が何枚残っているか考えるなど、とても奥深い博打だ。

 役を作り上げる手順も重要。

 要らないと思って切った牌に繋がるなんてのも頻繁に起こる。

 一発逆転を狙うか、コツコツいくか、戦略も重要だ。

 色々な要素が絡んでいるこの博打は気に入ったよ。


 イカサマの話を聞く。

 手で積むと積み込みのイカサマが色々出来るらしい。

 確かにその通り。

 全自動マージャン卓があれば積み込みのイカサマは出来ないとアイチヤは言う。

 全自動マージャン卓をアイチヤに注文する。

 お金を払うとアイチヤは帰って行った。




 従業員が空いた時間にマージャンをやるのを後ろから眺める。


「姐さんも、一局どうですか」


 フランモンドがマージャン牌を積みながら声を掛けてきた。


「いいよ、従業員から巻き上げる事はしたくない」


 あたしは身内と博打をやるのは性分に合わないと考えながら言った。

 やるのなら、ライバルとピリピリした緊張感の中やるのが好きだ。


「そうですか。やりたくなったら、いつでも席を空けます。言ってください」


 フランモンドは少しがっかりしたような様子で言った。




 従業員は数日で大分マージャンに慣れたようだ。


「リーチ」

「通るか」

「ロン。リーチ一発ドラ2。マンガン。銅貨八十枚だ」

「ちくしょう。オケラだ。これで今月の小遣いが無くなった」

「よし、メンバー入れ替えて続きだ」


 従業員の一部には熱狂的に受けているようだね。

 全自動マージャン卓が待ち遠しい。


 休憩室に光が溢れる。

 待ち人来たれりって事かな。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」

「待っていたよ」


 アイチヤの軽やかな挨拶に、あたしは少し喜びを滲ませて受け答えした。


 アイチヤが全自動マージャン卓を設置する。

 卓の中央付近の板が割れそこに牌をジャラジャラと落とす。

 ボタンを押すと卓が元に戻り、全自動マージャン卓の中でガラガラ音がする。


 牌がせり上がってきた。

 まだガラガラする音は止まらない。

 従業員は遊び始めたら、音が止まった。

 この道具は楽だから流行りそうだ。


「発電機はどうにかできないのかい?」

「音と匂いが気になるのなら、外に設置するっす」


 あたしはスキルのせいで発電機の音が気になり不平を口に出し、アイチヤは肩をすくめて返答した。


「まあそれが無難だろうね。全自動マージャン卓を五セット用意して欲しい」

「それだと発電機が幾つか追加で必要っす。繋いで見ないと数はなんとも言えないっす」

「分かったよ。後で追加しよう」

「まいどありー」


 あたしは頭の中で売り上げを計算し、アイチヤとやり取りをした。



 アイチヤを見送り、あたしはフランモンドに声掛けた。


「これから忙しくなるよ。気合を入れないと」


「姐さん、俺はいつも気合が入ってます」


 自信たっぷりの態度でフランモンドは応答する。


「そういう事にしておいてあげるよ」


 あたしは茶化すように言った。




 マージャン卓は数日後無事届き、配線も済んだ。

 燃料のドラム缶も安全な場所に設置したし、後は運用するだけだ。


 客は全自動マージャン卓を面白がって興味を示している。

 一ヶ月も経つとマージャンの固定客が現れ始めた。

 あたしは賭場を見回っていた時イカサマを見つけ声をかける。


「お客さん、今すてた牌とすり替えたね。見ていたよ」


「証拠はあるのか?」

「契約の神に誓ってみるかい」


 客の疑問にあたしは強気に言い放つ。


「そ、それは……くそう」

「奥に来てもらうよ」


 客は言葉に詰まり、あたしは何時もの決まり文句を言った。


 イカサマ師の対処はいつもと同じだ。

 身包み剥いで、出入り禁止。

 あたしのスキルはこの界隈では結構有名だと思ったけど、イカサマ師は絶えない。

 猫の目と蝙蝠の耳のスキルをかいくぐれるイカサマ師は滅多にいないと自信持って言える。




 あくる日、見回りの時に怪しい二人組みを見つけた。

 どうやらマージャンでコンビを組んで他の客を嵌めている。

 顎をさわったらマンズなど、サインを決めているのを見破った。

 こういうのは札でもある手口だから、見破るのは簡単だ。


「お客さん、サインを決めてやり取りしてますよね」


 あたしは目を細めて低い声で問いただした。


「兄弟、力ずくで突破するぞ」

「おう」


 二人の客は席を立って腰の武器を抜きながら、言い放った。


 刃物を持ち出したね。

 あたしのスキルは戦闘にも役立つんだよ。


 短刀を抜いて突いてきた男をかわし、メリケンサックで顔を打ち抜く。

 一発で気絶かい、弱いね。

 もう一人の男は伸び縮みする警棒を振るう。

 猫の目のスキルがあるから動きは止まって見える。

 腹に一発、ついでに顎に一発入れた。

 あたしとやろうなんて十年早い。

 やりくはないが、こいつらは警備兵に突き出そう。




 マージャンのギャラリーの中に賭博と関係ない日常会話をやたらしている男を見つけた。

 怪しい。会話を聞きながら男が見ている牌と組み合わせて考える。

 分かった他の客の手を伝えているね。


「お客さん、ギャラリーのふりしてイカサマしてますね」

「ばれたか」


 あたし問いかけに男達は台詞を残して逃げ出した。


 逃げる男達を追いかける。

 進路上にいたフランモンドが突然しゃがんで足払いをかける。

 先頭の男は転び、後続も巻き込まれた。


「でかした。やるときゃやるね」

「足払いをかけてから逃げるのが俺の得意技です」


 あたしの賞賛に、フランモンドは少し苦笑いしながら返事をした。


「情けない得意技だね。まあらしいと言えばらしいね」


 あたしは唇をほころばせ言った。


 男達はいつもの処理だ。

 しかし、懲りないね。

 まあ、しょうがない。

 他の胴元がイカサマやりたくなる気持ちも少し分かった。




 客から他の賭場の噂を聞く。

 流石に全自動マージャン卓の魔道具は作れなかったみたいで真似をした所は無いようだ。


 それからマージャンは大流行した。

 追加でマージャン卓をアイチヤに大急ぎで頼んだ。

 アイチヤは金の神だね。



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商品名    数量 仕入れ   売値    購入元

全自動麻雀卓 一台 十万円   二十万円  ネット通販

発電機    一台 五万円   十万円   ネット通販

麻雀卓    一脚 一万三千円 二万六千円 ディスカウントストア

麻雀牌    一組 五千円   一万円   ディスカウントストア


参考価格

商品名  数量     価格    購入元

ドラム缶 一個     一万一千円 ネット通販

ガソリン 二百リットル 二万八千円 配達業者

ポンプ  一個     五千円   ネット通販

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