第九章 宝探し屋

第一話 金属探知機

「よお、情報屋、何かネタはあるか?」


 俺は酒場でフードを被った男に話し掛けた。


「銀貨一枚、十枚、百枚どのコースにします?」


 フードの男、情報屋はニコリともせずに仏頂面で尋ねてきた。


「そうだな銀貨一枚だな」


 金欠の俺は頬をかいてから、情報屋の前のテーブルに銀貨を置いた。

 情報屋は銀貨を摘まむと表と裏の図柄を確かめ財布にしまう。

 用心深い奴だ。贋金なんか使わないよ。


「ガスペ洞窟を知ってますか?」

「ああ、壁の残骸と土砂しかない所だろ」

「そこを掘り返したら銀貨を見つけたという話がありまして」

「そんな美味しい話が何で銀貨一枚何だ?」

「痛い所を突きますね。幾人かにこの情報を売りましたが、みんな空振りだったみたいで」

「それじゃあ意味ないじゃねえか」

「銀貨一枚ですから」

「しゃあねえ、暇だから行ってみるか」


 情報屋とやり取りが終わり、俺は酒も飲まずに酒場を後にした。




 俺はオルガイオ。冒険者だが、宝探しが専門なんで宝探し屋を名乗っている。

 ガスペ洞窟のある山の麓まで乗り合い馬車で行き、そこからは徒歩で移動だ。

 馬が欲しいところなんだけど、まだ一回も価値の高いお宝にめぐり合っていない俺は金欠状態。

 とても馬など買えない。




 汗を流しながら歩き洞窟に辿り着いた。

 洞窟の中はひんやりしていて、たまに水滴が落ちてくる。

 壁の残骸を目指してカンテラ片手に進む。




 壁の残骸はすぐ見つかった。

 少なくとも百軒分ぐらいの残骸が到る所に散らばっている。

 家だとすると入り口はここで、部屋はここだな。

 掘ってみるか。




 スコップを使い懸命に土を掘る。駄目だ何にも出てこない。

 闇雲にやったんじゃ駄目だな。

 くまなく回ってから見当をつけよう。




 俺は壁の残骸を目印に念入りに調べる。

 幾つも掘った穴を見つけた。

 この穴がある所は望み薄だな。

 本当にそうだろうか、穴の数センチ隣に金貨がある可能性だってありそうだ。

 分からん、へっぽこ宝探し屋にはお宝センサーなど無い。




 気を取り直し地道に調べていたら、瓦礫の影に宝箱を見つけた。


「やった、俺って天才」


 俺は一人狂喜した。


 でも、おかしいぞ。宝箱が妙に新しい。

 これは誰かが捨てていった物なんじゃ。

 慎重に罠が仕掛けられていないか確かめ開ける。


 中には羊皮紙が一枚入っていた。

 なんだこれ。


「とりあえず。物品鑑定」


 俺がスキルを発動すると目の前に情報が現れた。


――――――――――――――――

名称:出前の神器


エルシャーラ神が作った神器。

眷属が必要な物を売ってくれる。

――――――――――――――――


「何、神器だとぉ。説明書きがあるな」


 神器の古代語を急いで読む。

 呪文を唱えると発動するらしい。

 丁寧にしまっておこう。




 それから汗だくになるまで掘ったが、何も出てこない。

 ここまでの諸々の費用分はなんとか稼ぎたいけど、神器を売ったら呪いが掛かりそうだ。

 こうなったら、やけだ。俺は神器を使うぞ。


「デマエニデンワ」


 俺は神器に書いてあった呪文を唱えた。


 プルルルという音が神器からする。

 魔力の波動を確認して偽物でないのが分かりほっとした。


 ガチャという音がして念話が繋がった。


 俺は宝を探す道具が欲しいと注文した。

 相手のアイチヤは宝探しはロマンだと言い、俺と意気投合。

 結局地中の金属を探す道具を役に立たなかったら返品して良いという条件で買うことになった。


 ガチャという音がして念話が切れる。




 さて、届くまで何をするかだが、洞窟内部の地図を作ろうと思う。

 そうと決まれば食料を近くの村から調達するぞ。


 地図を作っていたら一日はあっと言う間に過ぎた。

 休憩していたら、洞窟に突然光が溢れた。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」

「よし、早速やろう。宝が埋まってそうな所には印をつけておいた」


 アイチヤはのんびりした口調で挨拶し、俺は地図を見せて急がせる。


 アイチヤはアイテムボックス系スキルから黒い輪に棒が付いた道具を取り出した。

 黒い輪を地面すれすれに動かし反応を探る。

 なんにも反応しない。

 これは、役に立たない物を押し付けられたか。

 返品可能にして良かった。


「しばらくやっても良いっすか?」

「ああ良いぞ」


 アイチヤの問い掛けに、この道具に疑問を持っている俺は諦め半分で許可を出した。


 三十分ぐらい探していたら、道具がピーっと鳴った。

 おお、反応するんだな。俄然興味が沸いてきた。


「ここに何か埋まってるっす」

「掘るか」


 嬉しそうなアイチヤの声にスコップを手繰り寄せ俺は答えた。


 アイチヤと二人で反応があった場所を掘る。

 土砂とは違う赤茶けた物が埋まっていた。


「これは、蝶番だな」

「がっくりっす。もう帰るっす」


 錆びた鉄の破片を手に取りながら俺は物の名称を告げ、アイチヤは落胆した様子で返事した。


 アイチヤが帰るのを見て気合を入れなおす。




 次の反応があった所をほったら、今度は錆びた銅貨が出てきた。

 こんなに状態が悪いと古銭のマニアにも売れないな。


 次は銀のバックルが出てきた。

 やった当たりだ。これで少しは金になる。


 しかし、その後は釘、鍋、包丁、ヤカンの残骸ばかりで碌な物が出てこない。

 今日は切り上げるか。




 帰り道、金属探知機を作動させながら歩いた。

 入り口に近い所で反応がある。

 掘ってみると、壺が出てきた。

 中を見ると金貨と宝石がぎっしり詰まっている。


「ひゃっほう。遂に大当たりを引いたぜ。でもこれって……」


 大喜びした俺だが、由来を考え絶句した。


 きっとこれは盗賊が隠した物に違いない。

 ばれたら碌な目に遭わないな。そうだこの宝石はアイチヤに使おう。


「とりあえず。アイテムボックス」


 スキルを作動させ、アイテムボックスの中に壺と金属探知機をしまう。これで一安心だな。

 いそいそと壺が埋まっていた場所を埋めてその場を離れる。




 街に帰り宿の部屋で神器を取り出す。


「デマエニデンワ」


 俺は呪文を唱える。


 プルルルという音が神器からする。

 ガチャという音がして念話が繋がった。


 宝が出たという事を俺は淡々とアイチヤに伝えた。

 アイチヤは喜びこれからすぐに来ると言う。

 アイチヤはいい気なもんだ。俺は盗賊からくすねたのがばれないかヒヤヒヤしているのに。




 すぐにアイチヤは光と共に現れた。


「ちわー、アイチヤです。集金に来たっす」

「おう、払いは金貨で良いか?」

「お釣りっすね。銀貨五十四枚っす」

「多いぞ。この辺りは銀貨九十二枚で金貨一枚だ」

「値引きだと思って良いっす」


 アイチヤと道具の代金のやり取りをしてから、お釣りをもらう。

 出してきた銀貨はどれも見たことの無い物だった。

 いろいろな種類がある。硬貨のコレクターにでも売ろう。


「それで少し相談なんだが、宝石を金貨に換えたい」

「それは無理っす」


 相談を持ちかけた俺をアイチヤはきっぱり否定した。


「なら、ありふれた物で売りさばいても目立たない物を買いたい」

「もっと具体的に言って欲しいっす」


「宝探しで見つかっても問題なくて目立たない物が良い」

「洞窟で見つかる物で目立たない物となると……そうだ。水晶なんてどうっすか?」

「良いな。それなら売りさばくのも楽だ。払いを宝石で出来ないか?」

「やってみるっす。宝石を一個使っても良いっすか?」

「ほらよ」


 相談は纏まり、アイチヤは宝石を受け取るとスキルを発動させた。

 宝石は紙と見たことの無い硬貨に変わる。


「出来るものなんすね。このお金で水晶を仕入れるっす」

「そうしてくれ。それと大規模に地面を掘る魔道具を買いたい」

「道具ならあるっす。詳しくは見積もり取ってから連絡するっす」


 俺は次の注文を出し、アイチヤは帰って行った。

 地面を掘る道具はこの稼業では絶対に必要だろう。

 宝石は後腐れのないように一刻も早く使ってしまいたかった。

 宝石といえば見たことの無いお金に変えたところを見ると、アイチヤはきっと金の神の眷属だな。



――――――――――――――――――――――――――

商品名   数量 仕入れ   売値    購入元

金属探知機 一台 二万三千円 四万六千円 ネット通販


参考価格

商品名   数量   価格 購入元

水晶    百グラム 千円 ネット通販

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