第二話 トランプ

 賭場の経営は順調さ。

 デンチが切れた時は焦ったけど、アイチヤに急いで連絡を取り予備のデンチを買った。

 初期投資した分はなんとか数ヶ月で取り戻せたよ。


 最近問題なのは幾つかの店がイカサマはしないと契約の神に誓って、この店やり口を真似し始めた事さ。

 博徒としては大歓迎だけど、胴元としては困りもんさ。

 売り上げの伸びが鈍くなってきた。なんとかしないと寂れちまうよ。


 多少イカサマがやり易くなっても新しい博打を導入するべきだろうね。


 さて、どうしようか。博打と言えばサイコロ以外だと一般的なのは札を使った物になる。

 札はイカサマし易い。

 対策としては偽造できない札を用意して、何ゲームか置きにランダムで札の枚数をチェックする。

 従業員をテーブルに一人以上配置して見張らせる。

 親をやらせる時はイカサマをしないと誓ってもらう。

 考えついたのはこれぐらいさ。


 木の札だと偽造される。金属の札でもやる奴はいるだろう。

 困ったね。

 しょうがない、アイチヤを頼ろう。


「デマエニデンワ」


 神器を動かす為の呪文を唱えた。


 プルルルと神器から何時もの音がする。

 ガチャという音がして念話が繋がった。


 博打で使う札を十組頼んだ。

 偽造し難いという話だけど実際はどうなるやら。


 念話が切れ、一時間後にアイチヤは配達に来た。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす。ブラックジャックとポーカーの遊び方を書いた紙も持って来たっす」


 軽薄な声を出し数枚の紙と紙袋を持ってアイチヤは現れた。


「なんだいそれは?」


 あたしはアイチヤの持って来た紙を一瞥して問う。


「カジノで人気のゲームっす」


 アイチヤは簡潔に答えた。

 神の国にも賭場があるんだね。まあ神にも娯楽は必要なんだろう。

 紙を詳しく読み、アイチヤからトランプの遊び方を教わった。

 内容を把握したけど、普通の賭博だね。


「ちなみにイカサマはどんなのがあるんだい?」


 興味に駆られてアイチヤに聞いてみた。


「うーん、イカサマは詳しくないっすけど、金に困った時に調べた事があるっす」

「もったいぶらずに早く教えておくれ」

「カードカウンティングと言うイカサマがあるっす。簡単に言うと出たカードを覚えておいて、有利不利を判断するっす」

「それはイカサマなのかい? 記憶する事はイカサマに入らないと思うけど」

「カジノでは禁止っす。目線や賭け方ですぐばれるっす。詳しいやり方を書いて持ってくるっす」

「そうかい悪いね。無料じゃあ悪いから、幾らか払うよ」

「銀貨十枚で良いっす」


 ふうーーん、なんか思っていたのと違うね。

 もっとスキルとか神術とかを巧妙に使ってイカサマすると思っていたさ。

 神同士だと僅かな力でも感知されるから駆け引きとか知力を使ったイカサマになるのか。


 アイチヤは一旦帰り、再び来た時はカードカウンティングの方法を書いた紙を置いていった。

 紙を読んでやり方を理解する。

 これ、契約の神の誓いに引っ掛かるのか、疑問だね。

 そのうち契約の神と勝負するとしよう。


 トランプのテーブルを新たに設置して、客にルールを説明しながら遊ばせ始める。

 トランプはなんで出来ているのか分からない材質だ。

 偽造に成功したイカサマ師はいない。

 トランプをちょろまかしたりするイカサマ師は何人か居た。

 しかし、枚数をランダムでチェックするともろばれで、身体検査すると大体発見できる。


 呪いを喰らっても良い覚悟を決めてカードカウンティングを試す事にする。

 新しい札に切り替わるタイミングを見定める。


「兄さん、この賭場の胴元なんだけど、イカサマしないと誓うから遊ばせてくれないか」

「いいよ、今ツキが良くて絶好調だし」


 あたしは、親をやっている男性に話しかけ、男性は心地よく了承した。


「この賭場の中であたしはイカサマはしません。契約の神に誓います」


 あたしは誓いを立て気を引き締めた。


 ブラックジャックのテーブルに着いて、カードカウンティングを始める。

 札を見て、この札はマイナス、この札はプラス二点と計算を始めた。

 札を覚える為に客のカードにも視線をやる。

 確かにこれはもろばれだね。

 だけど他の客の誰も文句は言わない。


 不利な時はちまちま賭ける。

 大分計算がプラスになった。

 有利な局面になる。

 ここぞとばかりに張り込む。

 今回は駄目だった。




 また有利な局面になるのを待つ。

 今度は上手くいった。

 遂にイカサマしてしまったよ。

 呪いに掛かった気配はないね。

 体調もばっちりだし、スキルも問題なく使えている。

 確認するまで油断は出来ないが、勘は大丈夫と言っている気がした。




 何回かゲームをして少し儲けたところでやめにする。


「充分遊んだから抜けるよ」


 男性に声を掛け、立ち上がった。


 駆け足で戻りたいのを我慢して、急いで事務所に引き上げる。

 呪いの確認だ。勝負だ契約の神。


「ステータス・オープン」


――――――――――――――――――

名前:ベルミタ LV28

年齢:24

魔力:35


スキル:

猫の目

蝙蝠の耳

――――――――――――――――――


 勝負に勝った。呪いは掛かってない。

 呼び鈴を鳴らし酒を持ってきてもらう。

 祝杯を挙げようじゃないか。

 ワインをグラスになみなみと注ぎ、一気にあおる。

 ふう、人心地ついた。

 分の悪い賭けじゃあなかったが、呪いが賭け金だとヒヤヒヤするね。

 きっと若気の至りって奴なんだろう。あたしもまだまだ若いって事さ。




 今回の勝負を振り返る。

 記憶するのがイカサマなら手札も記憶出来ないから、勝つのは当たり前かもね。

 あたしはズルは嫌いだけど、ずる賢い考えは好きだ。

 このイカサマはずる賢い。

 客の親がぼろ勝ちして手がつけられない時に使おう。

 まあそのぐらいしないとね。

 ポーカーのカードカウンティングも教わったから、時期を見て試すとするさ。




 ある日、カードカウンティングを実戦する機会がやってきた。


「姐さん、不味いです。親で大勝している客がいて手がつられないです」


 フランモンドが事務所に飛び込んで来て叫ぶ。


「あたしが出るよ」


 あたしの自信満々な声にフランモンドは落ち着き、テーブルに案内した。




 現場に行くとブラックジャックのテーブルで客が一人でテーブルに着いている。

 バカヅキして客は皆しらけて他のテーブルに移ったみたいだ。

 客に断って一対一の勝負をする。


 練習の時のように札を見て、この札はプラス、この札はマイナス二点と計算を始める。

 何ゲームかこなし、大分計算がプラスになってきた。

 よし、ここで張り込もう。

 いざ勝負。やった勝った。




「あんたさっきから賭け方がおかしくないかい」


 客の声には不満がありありと出ている。


「勝負勘に基づいて勝負している。勘が勝てると囁いた時に張り込むのさ」


 あたしはそらっとぼけて言い放った。


「でも何かおかしい」


 納得いかない顔で尚も食い下がる客。


「イカサマはしないって誓ったよ。何か文句があるって言うのかい」


 あたしは恫喝を込めて少し強めに話す。


「そんな事ないけど」


 客の口調に迷いが混ざる。


「続きをするよ」


 あたしは話を締めくくり、かけ金をテーブルに置く。




 その後、勝ったり負けたりしながら、徐々に男の持ち金は減っていった。

 大体元金になったところで声を掛ける。


「兄さんツキが逃げたようだね。もうここらへんで止めといたらどうだい」

「ああ、今日は引き上げるよ」


 あたしは切りの良いところで客に声をかけた。

 客は名残惜しそうに席を立ちぶつぶつ呟きながら去って行く。


「姐さんさすがです」


 ずっと勝負を見ていたフランモンドが声をかけてきた。。


「ざっとこんなもんさ」


 あたしはイカサマした事はおくびにも出さずに答えた。


 こういうイカサマは好きだね。

 テーブルの下に人が隠れていてサイコロを操作したり、札を隠し持つようなイカサマは嫌いだ。

 特に胴元側がそれをやるのは大嫌いさ。

 このイカサマはからくりを大勢の前で客に指摘されたらやめよう。

 その時はトランプをすっぱり諦める。

 客がからくりを知って使ってくる場合は出入り禁止にするさ。

 アイチヤはまだまだ賭博の知識がありそうだから、トランプが駄目でもなんとかなるだろう。




 ふと思ったアイチヤはきっと金の神の眷属に違いないと。

 トランプを使った博打は好調だし、イカサマも役に立っている。

 感謝しないとね。



―――――――――――――――――――――――――

商品名      数量 仕入れ 売値    購入元

トランプ     十組 七千円 一万四千円 玩具店

イカサマのやり方    無し  一万円   ネット

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