第八章 女胴元

第一話 電動ダイスカップ

「フランモンド、今日はもう上がろう」

「はい、姐さん」


 あたしは弟分のフランモンドに声を掛けて賭場を後にした。

 今日の稼ぎはまずまずだね。

 宿代一週間分ぐらいさね。


 あたしはベルミタ。博徒と言えば聞こえがいいが、実体は何も持っちゃあいない根無し草さ。

 ここ、ガネルヴの街。交通の要所で人の出入りが激しい。

 当然、飲む、打つ、買うの娯楽は盛んで、あたしの好きな賭場も沢山ある。


「姐さん、これからどうします?」

「そうさね……」


 フランモンドの問いにあたしは考え込んだ。


 フランモンドは今日のこれからの予定を聞いているのだけれど。

 最近の賭場の状況を考えるとね。

 生活するぐらいは稼げちゃいるが、イカサマが蔓延って大きく稼げない。

 客が命を賭けてイカサマするなら許せる。しかし、街の賭場はどこも仕切っている胴元側がイカサマしている。

 少し勝ちすぎるとイカサマを仕掛けてくる仕組みさ。




 さて、この街が居心地が良くて三年も居ついちまったが、そろそろ潮時ってもんかね。


「フランモンド、あたしが旅に出ると言ったらどうする」

「姐さんも良い年でしょ、落ち着いたらどうです」


 あたしがフランモンドに尋ねるとかんで含めるような口調で返してきた。

 あたしも、もう二十四。農村なら三人ぐらい子供がいてもおかしくないが、色恋はめんどくさい。


「賭場の状況は分かってるよね。今日だってイカサマされそうな雰囲気だった」

「まあ、姐さんにしてみりゃ。この状態に文句を言いたいのは分かりますが、イカサマを指摘したら胴元から殺し屋がきます」


 あたしのうんざりした声にフランモンドは諭してきた。

 そうなんだよ。胴元側のイカサマを指摘するとその場はなんとかなっても、後でややこしい事になる。


「決めたよ。今日は宿に帰って荷物の整理をする。旅に出るかはサイコロで決める」


 あたしは決心をフランモンドに聞かせた。



 宿の自室で荷物の整理をしていると、あたしは一枚の羊皮紙を見つけた。

 これなんだっけ。そうそう、借金の方に取り上げた神器だ。

 その時面白い考えが浮かぶ。

 もし、サイコロの目が街に残ると出たらこの神器を使ってみよう。


 そうと決まれば勝負。サイコロを二つ振り偶数なら街に残ると決めた。

 サイコロを振ると、一のぞろ目で止まった。


 一のぞろ目はゲームによっては最強の手だ。

 こいつは幸先が良いね。





「街で一旗揚げるよ」


 あたしはフランモンドの部屋のドアを乱暴に叩いて言った。


「姐さん何ですか? いきなり」

「賭場を開くよ。胴元になるんだ」


 ドアを開けてフランモンドは尋ね、あたしはどや顔で言った。


「あの元締めの所にいくんですか。やだなぁ。あの人、目が怖いんですよ」

「つべこべ言わずに行くよ」


 嫌がるフランモンドを引っ張り出し、あたし達は元締めの所に出掛けた。


 なぜ博打を仕切っている元締めと伝手があるかと言えば、三年前のフランモンドとの出会いが関係している。

 フランモンドはこの街の商会の四男坊の末っ子で、当時は少しぐれていた。


 店から持ち出した金をイカサマで巻き上げられていた次第さ。

 あたしはイカサマのあまりの酷さに、つい切った張ったの末、胴元を締め上げちまった。

 これでは、殺し屋が来るってんで、博打の元締めに直談判に行ったさ。


 そうしたら、この胴元は元締めの許可を取っていないと分かって、後始末は元締めがやってくれた。

 元締めの所に一人で乗り込んでくるとは度胸が良いって言われて気に入られてさ。

 伝手も出来て結果が良ければ全て良しだ。

 フランモンドは金を取り返してくれたって懐いて弟分さ。




「元締め、ご無沙汰しております」


 あたしが元締めに挨拶すると革張りの椅子に腰掛け鋭い眼光でこちらを見てくる。

 この人元はきっと凄腕のばくち打ちだったのだろうね。


「ご無沙汰しております。つまらない物ですがお納め下さい」


 フランモンドが震えながら土産の酒瓶を差し出す。

 ビビッてみっともないね。もうちょっとシャキっとできないものか。


「悪いね気を使ってもらって。ベルミタの嬢ちゃん、久しぶりだね。遂に手下になる決心がついたかい」

「いえ、賭場を開こうと思いまして」


 元締めの言葉に、あたしは度胸を決めて決意を明かした。


「いいだろう、それなら部下になったも同然だ」


 元締めはゆっくりと頷いた。


「ありがとうございます」


 あたしはふかぶかとお辞儀した。


「用心棒を貸してやる」


 元締め言葉はお目付け役をつけると言ってるように聞こえた。


「それとスキル対策は大丈夫か?」


 元締めの問いに思考する。


 博打にはイカサマがつきものだが、スキルと魔法と魔道具がそれに拍車をかける。

 魔法と魔道具は魔力の波動が出るから一発でばれるから問題ない。


 問題はスキルだ。こちらは発動するのに声を出さないといけないという欠点がある。

 しかし、パッシブスキルだと常時発動しているし、賭場に入る前に発動しておくという手があった。

 うちの賭場は胴元がイカサマしないものにしたい。

 問題あるスキル持ちは出入り禁止にしよう。

 となれば、入り口に人物鑑定のスキル持ちが必要だ。

 そちらはフランモンドの伝手が頼り。


「そちらは追々」

「まあ気張って上納金を稼いでくれ」


 あたしは口を濁し、元締めは話を締めくくった。


 元締めの所を後にして宿に帰る。


 最初はサイコロ賭博から始めたい。

 サイコロのすり替えをどうやって防ぐかだが、ここは神器に頼しかないね。

 神器を巻き上げた奴の話では希望の商品を神の眷属が売ってくれる。


 さあ、気張って神の眷属と勝負だ。


「デマエニデンワ」


 プルルルと神器から音がする。


「姐さん、こ、この音は」


 フランモンドが臆病風に吹かれどもる。

 まったく何時まで経っても一人前にならない男だね。

 世話が掛かるたらありゃしない。


「ビビるんじゃないよ、眷属に足元を見られる」


 あたしはフランモンドに喝を入れた。

 こんな音ぐらい怒声の飛び交う場で博打をやる事に比べればたいした事じゃあない。


 ガチャという音がして念話が繋がる。


 アイチヤという眷属に手を触れなくてもサイコロが振れる道具を頼んだ。

 一つ銀貨三枚は安いな。魔道具とは比べ物にならない。

 安いので十個頼んだ。


 ガチャという音と共に念話が切れる。

 神は嘘をつかないという話だから、これで大丈夫。


 賭場はフランモンドの商会の伝手で安く借り、人物鑑定のスキル持ちはフランモンドの不良仲間を誘う。

 食事や酒の手配もし、賭場の従業員もなんとか集めた。

 賭場で従業員に色々教え込んでいる時に光が溢れた。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」


 若者らしい軽薄な声。

 アイチヤはギャンブルに弱そうな雰囲気の男だ。

 眷属らしくないね。オーラみたいな物がこれっぽっちも無い。

 まあ良いさ。


「待っていたよ。早く道具を見せておくれ」


 急かすあたしに、アイチヤはアイテムボックス系のスキルを使って道具を取り出した。

 道具は黒い土台に透明のカップが被せられていて中にサイコロが五つ入っている。


 ボタンを押すとサイコロがカラカラ回り、しばらくして止まった。

 完璧だ。透明のカップがあるからサイコロには手が触れられない。

 これならイカサマもしづらいはず。

 カップを取るとサイコロの数も調整できる。

 これで多様なゲームが可能だ。


 料金を払うとアイチヤは帰って行った。




 今日は賭場を開く日だ。


「「「「この賭場の中で私はイカサマはしません。契約の神に誓います」」」」


 打ち合わせ通り、従業員一同声をそろえて誓う。


 契約の神に誓うと破った時は呪いをかけられるが、破らなければどうという事はない。

 来た客は少しギョッとするが、中には素晴らしいと褒め称えてくれる客も居る。

 誓いのパフォーマンスは始めと昼飯時と夕飯時に行う。




 ゲームでは順番で希望の客に親をやらせている。

 他の賭場では特殊なルール以外させてない。

 ここの独自のサービスだ。


 ゲームを一回やるごとにゲーム料を取っている。

 それと飲み食いが儲けだ。


「ちょっとお客さん今その透明なカップを触りましたよね。こっちに来てもらえます」


 あたしは客に声をかけ事務所に連れ込む。

 こういうイカサマ師は身包み剥いで放り出すと決めている。


 偶にイカサマ師が出るぐらいでなんとか一日が終わった。

 イカサマはしていないから、賭場のあがりは少ないけど理想とする物が出来た。

 アイチヤには感謝しないとね。



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